876 マジックアイテムを探せ
想像していた答えと違ったのか、はたまた身勝手極まりない理由過ぎてかえって毒気を抜かれてしまったのか。それからは二人とも素直にこちらの指示に従ってくれるようになった。
「あ、二人はまず行動できる範囲がどこまでなのかを探ってください。ボクたちの場合、それ以上進むとループする可能性が高いので」
あの重たい話をまたするのは御免だよ。やり直しやループ系の話で主人公がこっそりと一人だけで解決しようと奮闘するのも納得できてしまう。相手に悪気もそのつもりもないから、説明を繰り返すことに余計に強く疲労してしまうのだ。
二人に協力してもらって行動できる範囲を探ってみれば、それはおおよそ半径が百メートルほどの円形だった。ボクたちがループした移動の範囲からは少しズレているような気もするけれど、しっかりと確認を取っていた訳でもないので記憶違いという可能性も十分あり得る。
どちらにせよ、誤差の範囲かしらね。近付き過ぎないようにすれば問題はないでしょう。
「怪しいのは……、まあ、順当に考えていけば円の中心付近かな」
二人が戦っていた通路のような開けた部分ではなく、『神々の塔』に向かって左手側の雑木林の中がその該当する部分となる。
木々の濃さはそれなりで、枝葉の隙間から地面に光が届いたり向こう側が見えたりはするものの、中へ入り込むとなると躊躇してしまうくらいには密度がある。何かを隠すにはとっても都合が良さそうだ。
「だからこそミスリードされていたり、フェイクが仕掛けられていたりする可能性もある訳だけど、それを気にし始めると身動きが取れなくなりそうだしね。外れだったら別の場所を探し直せばいい、くらいの心構えで十分だと思う。ただし、フェイクの場合はいやらしいトラップを仕掛けているかもしれないから、うかつに触ることだけはしないように!」
空間どころか時間すらループする閉鎖空間に仲間だった人すら閉じ込めてしまうようなやつだ。どんな卑怯で汚いトラップを仕掛けているか分かったものじゃない。幸いこちらには〔鑑定〕技能があるから、具体的な内容は不明でも、罠かどうかを見分けるくらいのことはできるだろう。
「隠ぺい系の仕掛けがあるとお手上げだけどね」
「それだと発見すること自体が難しくなりますよ」
「これから先の冒険を続けていくには、罠関係の技能が必要そうですわね」
「あった方がいいのは確かだけど、熟練度が低いと結局は使えないってことになるんじゃない?」
設置するならともかく、罠の発見や解除といった技能は実地で熟練度を上げるのが難しい。それというのも、失敗すれば本人はおろかパーティー全体が重篤な危険にさらされることになるからだ。
訓練等である程度まで熟練度を上げる手立てがないと、宝の持ち腐れになりかねない。
「お前ら……、よく話をしながら探索ができるな……」
「しかもこんな見通しの悪い場所、痛った!?」
あらら、急に立ち上がるものだから背の低い方の枝で彼が頭を打ってしまった。一方の背の高い人はというと、お喋りを続けるボクたちを呆れたように見ていた割に、特に危なげもなくするすると木々の合間を縫って歩いている。
この二人、やはり種族的にはエルフとドワーフなのかしらん?
……単にこういう場所を歩き慣れているかどうかの違いだったりして。軍隊なら森とかでサバイバルな訓練もやるだろうし、反対に反乱側の象徴として担がれていたくらいだから意外といいところのお坊ちゃんなのかもしれない。
そうこうしながら雑木林の中を探ること十数分。リアルでならたくさんの種類の虫さんたちとコンニチハしているところだ。こういう時、ゲームの世界で良かったと思う。
ボクの地元は田舎だから外を出歩けば虫と遭遇することは割とよくある。だけどね、慣れているのと平気なのはまた別物なのですよ。嫌なものは嫌だし、苦手なものは苦手なのです。
コホン!虫さんのことは置いておいて。目的のマジックアイテムですが……。
「ありませんわね」
「ありませんね」
「ないな」
「ないですあ痛!?」
いやはや全く見つからない。もしかして埋まっているのかもと、下草や落ち葉をかきわけ探したりもしてみたのだけれどねえ。
「うーん……。これは本当に隠ぺいしてあるのかしら?」
うなりながら顔を上げると、背の低い彼が情けない顔で自分の頭を撫でていた、ああ、そういえばまた頭をぶつけていたね。低い位置で枝が伸びている木もあるから気を付けないと。
……枝?
「あの、マジックアイテムってどこに置いても稼働するものなんですか?」
「ん?まあ、物にもよるが問題はないはずだ。もっとも、繊細な面もあるとかで大抵は地面や安定した場所に設置することが多いな」
「ほうほう。それじゃあ、その認識を利用して、あえて枝の上とかに設置するってことも考えられないことではないのかな」
ボクの言葉に「あっ!」と驚きの声を上げるみんな。いやあ、これを仕掛けたのが――今のところは暫定だけど――性格の悪い人だということを忘れていたよ。
そして改めて木々の張り出した枝の上も範囲に加えて探し直すこと約十分。
ついにボクたちはそれらしい物を発見した。
「いやあ、人間の感知能力のアバウトさが実感できるよねえ……」
いざ見つけてみると、その物体は「どうやってこれを見落としていたのか?」と頭を捻ってしまうほど派手な色をしていたのだ。
それに比べれば形の方はまだマシと言えるかもしれない。一辺が三十センチほどの三角形が四つ組み合わされた、いわゆる正四面体をしていた。
そしてその面一つにつき、色の三原色の赤青黄がそれぞれべったりと塗りたくられていた。ちなみに、黄色が二面だった。
それが二メートルほどの高さで絡むように交差している枝の上にデデン!と置かれていたのだった。
「原色が強くて目が痛くなりそう……」
周囲が目に優しい緑基調だから余計にケバケバしいわ。
「右に同じですわ。周囲から浮き過ぎていて感覚がおかしくなりそうですの」
「下手に手を伸ばすと落としてしまいそうです」
「あいつならそこまで計算ずくかもしれねえ」
「そうであるなら、壊すことではこの空間を解くことはできないのかもしれませイテッ!?」
ちょっと!?頭をぶつけた振動で落ちたりでもしたら大事だからまぢで気を付けてくださいよ!?
さて、まずは本物かどうかを確認しないとね。〔鑑定〕技能によると、罠ではないようだ。が、逆に言うと分かったのはそれだけだ。
え?これどうやって止めるの?




