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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十二章 異世界の人、過去の人

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871 無限ループ

 体力などはあれど時間の方はさほど余っている訳ではない。だからさっさと動いてみる。

 先ほどと同じように雑木林を迂回して行く。もちろん今度はおかしなところがないか、周囲をよく観察しながらだ。そして辿り着いた所が、


「うおおおおおお!!」

「ぐおおおおおお!!」


 またいた……。もう一回!


「うおおおおおお!!」

「ぐおおおおおお!!」


 ぐぬぬ……。三度目の正直!


「うおおおおおお!!」

「ぐおおおおおお!!」


 押してダメなら引いてみる!今度は反対に戻ってみるよ!


「うおおおおおお!!」

「ぐおおおおおお!!」


 ……マジですか。というか、あなたたちさっき倒れていなかった?これは確認してみなくては。確実にクロスカウンターで相打ちの共倒れになったまま放置した二回目のところまで急いで戻る。


「うおおおおおお!!」

「ぐおおおおおお!!」


 やっぱり起き上がって、というか最初に近寄った時点に巻き戻っているみたい。これはもう完全に無限ループに入っているよね。しかも厄介なことに、位置だけではなく状況まで同じとか……。


 無限ループの罠というのは、正解の道順通りに進まないといつの間にか元の場所に戻されるという、地味ながらも面倒なトラップだ。薄暗かったり霧に覆われていたりと見通しが悪い所だとさらに効果大です。道順を覚えるのが一番の対応策だから初見殺しの面も強いかな。

 その歴史は古くて、初期のコンピュータゲームの頃からあったらしい。同じマップデータを使い回しできるから容量の削減にもってこいだった、などという理由があったのかもね。


 さて、今回の場合もある種の無限ループに取り込まれてしまったようなのだけれど、問題は同時にイベントも発生している、という点だ。早い話、強制イベントに巻き込まれたと言える。もしかすると、どの方角から『大霊山』に近づいてもイベントが発生するように、こんな仕掛けになっていたのかもしれない。


「うへえ……。つまりはあの暑苦しい二人組を何とかしないといけないのかあ……」


 争っている原因を聞き出して、仲介するというのがべたな流れかしらん?……だけど『OAW』だから、ひねくれた展開になっている可能性もありそう。

 おっと、後の流れを予想するより先に、みんなに事情を説明しておかないと。


「無限ループ?どういうことですの?」

「ある種の閉じられた空間に閉じ込められた感じかな」

「出られないのですか?」

「多分だけど、『大霊山』から離れるように動けば脱出はできると思う」


 さすがにそちらは違和感なくループさせることはできないだろう。


「で、ここからが本題ね。ボクたちの目的に沿うように、『大霊山』に近づく形で無限ループを抜けるためにはあちらに向かう必要があると思うのよ」


 そう言って雑木林の隙間の小道へと腕を向ける。凸凹コンビ?いつものようにクロスカウンターの相打ちでダブルノックアウトしているよ。


「あの二人の間を通らないといけませんの……?」

「記憶通りなら、どちらかは「ここは通さない」的なことを言っていましたよね?」

「そうだね。そしてもう一人が「お前を倒して先に進む」みたいなことを言っていたね」


 どう考えても「あ、お疲れ様でーす」と脇を通り抜けることはできそうにもないだろうね……。一見すると目的が似通っている押し通ろうとしている方に手を貸すのが妥当なようにも思えるけれど、今の段階では、それが本当に正解なのかの判別がつかない。


「結局、彼らに接触してみるしかないのかなあ……」


 肉体言語で語り合うなんて展開は勘弁してほしいのだけれど。


「あの状況が話し合いでは上手くまとまらなかった結果だと良いのですが」


 いやいや、ネイトさん。それはそれでよくはないと思うよ。まあ、問答無用で拳同士で語り合うよりは、一応話し合いには応じてくれると分かるだけでも多少はマシと言えるのかしら。


「あとは実際に接触してみて、ということになりそうですわね」

「いきなり戦闘になる可能性もゼロじゃないから心構えだけはしておかないとだね。後はボクの予想通りなら彼らの時間は巻き戻っているはずだから初対面を装うこと。注意点はそれくらいかな」


 さっきのアレが会話といえるのかはともかく、お互いに印象に残るやり取りだったのは確かだ。下手なことを言ってぼろが出ないように気を配るくらいはした方がいいだろう。


 意を決して倒れている二人に近づいていく。初回の時に飛び起きてきた地点を越える。さらに接近して数メートルの距離へ。一流の武芸者なら寝たままでも十分攻撃可能範囲だ。が、今のところ起き上がる気配はない。


 振り返ってみんなと視線を交わす。コクリと頷くミルファとネイト。どうやら考えていることは同じのようだ。そろりそろりと、なるべく足音を立てないような歩行に変えて進み始める。


「ちょおい!倒れている人間を無視していこうとするのは酷くないか!?」

「そこは「大丈夫ですか?」の一言くらいあっても良いのではありませんか!?」


 そのまま横をすり抜けられるかどうかという時になって、がばっと起き上がる二人。やっぱりイベントをスルーすることはできないもよう。

 ちなみに、今回はなんとなく予感があったので驚かずに耐えられた。長男じゃなくても耐えられました。


「お言葉だけど、それなら女の子が近づいてくるまで狸寝入りしていたあなたたちの方はどうなの?お世辞にも紳士的だとは言えないですよね」

「ふん!わしは紳士である前に武人なのでな!」


 だから武骨でも構わないのだ!とよく分からない理屈を振りかざしたのは細身で身長の高い方だった。よく見れば耳が尖っているので森の引きこもり種族ことエルフなのかもしれない。


 さて、彼なりの信条があっての言葉なのかもしれないが、正直だからどうしたという気分だ。彼らの態度が身勝手なものであることに変わりはないもの。


「ふーん。武人だから見ず知らずの相手を警戒していたとでもいうつもりですか?そんな言い分が通るならこちらも同じだよ。いきなり殴り合いをしている人たちと仲良くなりたいと思えるほど博愛主義者じゃないの。危ない人とは距離を取りたいし、接触しないですむならそうするから」


 さすがに即座に言い返してくるとは思っていなかったのか、背が高い方だけでなくもう一人も唖然としているようだった。


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