868 食材の宝庫?
重要なヒント、かもしれない情報を得たボクたちだけど、それが本当なのかどうかを証明するためにはまず『大霊山』のふもとにまでたどり着かなくてはいけない。
なので今日も今日とてでっかい柱に向かっててくてく歩いて行きますよ。……大き過ぎて遠近感とかが変になりそう。
幸いにも英さんのお家を拠点にさせてもらえたので、周辺に出没する魔物の特徴などなどは理解できている。二桁以上の大群にでも襲われない限りは全滅の危険はない、といえるくらいには戦いの経験を積んでいた。
加えて仲間たち、特にうちの子たちの戦闘に対するモチベーションの高さも良い方向に作用していた。どうしてそんなにやる気になっているのかというと、ドロップアイテムの大半が食べ物系だったためだ。
……あれぇ?うちの子たちは――一部を除いて――腹ペコキャラでも食いしん坊キャラでもなかったはずなのに?
釈然としないところはあるけれど、ちょうどそんな魔物の内の一体と遭遇しそうなので戦闘パートスタートです。
「コケーッ!」
と自らを鼓舞するためなのか甲高い奇声を発すると、ドスドスと地響きを立ててこちらへと突撃してくるのは『エセグリフォ』だ。基本的に草原の続く平地だからお互いがよく見える。
名前からお気付きの人もいるかと思うけれど、紋章などでもおなじみのグリフォンに似た半鳥半獣の魔物ですね。
ただし似非と付いているだけあって、頭から上半身と翼にかけては鷲から鶏に、下半身はライオンから牛へと変貌しております。
しかも家畜化された鶏をモチーフにしているのか、飛べません!とはいえ、巨大な羽をバッサバッサと動かされると風圧と土埃が大変なことになるので油断は大敵だ。体が小さくて軽いエッ君などは、コロコロと転がされてしまったこともある。
一方の大きさは下半身の牛の方に合わせてあるようで、胴体の背中の高さがボクたちの身長くらいもある個体がほとんどだった。そこからさらに鶏の首から上へとつながる訳で、頭の先までの高さが三メートルを越えるものも多かった。
それでも香辛料の森に潜んでいたレッサーヒュドラやウロコタイルとは比べ物にならないほど楽に与することができる相手だ。
まず、エセグリフォには毒を持っていたり多頭による複数の攻撃手段があったり、もしくは頑丈な皮革があるといった特徴的な長所はない。これだけでもすっごく戦いやすかったです。
次に上半身と下半身のバランスが悪いのか、動きがあまりよろしくない。今のように真っ直ぐ突撃する時は巨体だからそれなりに脅威なのだけれど、小回りが利かないらしくて側面や背後に張り付いてしまえば、ほぼ攻撃し放題になるのだ。
そして何より、……えーと、お頭の方がですね、相当おバカなのだよね。鳥頭な設定なのかしらん?後ろや横から攻撃されて大ダメージを負っていても、目の前に居る相手ばかりをしつこく狙ってきたりする。
だから、ボクたちの場合はこういう戦法になる。
「突進を止めたところで前面はリーヴからエッ君に交代。挑発と囮役をお願いね。いつも通り隙ができたらやり返しちゃってもいいから。残りの前衛組は散開して攻撃。動きを止めたいから後ろ足を優先的に潰して」
体が小さくてその上身軽で素早いエッ君は囮役にぴったりなのだ。本人のいたずらっ子な気質ともうまくかみ合ったようで、嬉々としながらエセグリフォの攻撃をひょいひょいと避けていた。
そうやってエッ君に気を取られているところを、ボクを含む前衛組で叩くのが基本方針だ。巨体を生かした突撃が一番危険だと分かってからは、動きを封じる意味も込めて後ろ足を狙うのが定番になっているね。
後衛のネイトとトレアは遠距離から攻撃だ。離れていても狙いが付けやすい翼――大きくて高い位置にあるため――を攻撃してもらっている。フレンドリーファイアは発生しないのだけれど、それでも目の前やすぐそばを魔法や矢が通り過ぎれば反射的に体が硬直してしまうこともあるからね。
さらに翼が動かせなくなれば、鬱陶しい羽ばたきもなくなるので一石二鳥という訳。
さすがに巨体に応じた体力とHPがあるから瞬殺とはいかないけれど、危なげもなく討伐することができたのだった。
そしてお楽しみの解体タイムです。
「今回は何が取れますかしら?」
ミルファを始めうちの子たちもワクワクした様子でこちらを注視している。追加で魔物がやってこないか警戒しているネイトですら、チラチラとこちらを気にしているほどだ。
圧がすごい……。待たせ過ぎると暴動が起きてしまうのではないかと錯覚しそうになる。
「それじゃあ、さっそく」
みんなの無言のプレッシャーに押されるようにして、初心者用ナイフを倒したエセグリフォにプスッと刺す。
「えーと、取れたのは……、鶏肉が五つに牛肉が二つ、豚肉が一つだね」
残念、魔石は取れなかったか。それにしてもいくら食べ物系のドロップが多いとはいえ、オールお肉というのは珍しい。
突っ込むところはそこじゃないだろう?まあ、そうだね。外見的に鶏肉と牛肉は理解できなくはないけれど、豚要素はどこから出てきた!?と言いたくなるよね。ボクも気になって運営に問い合わせてみましたとも。そしてアウラロウラさんから返ってきた答えがこちら。
「こちらをよくご覧になってください。ほら、尻尾がチョンボリチョロリになっているでしょう」
……ええ、なんだかね、とっても徒労感を覚えてしまいましたよ。
なお、今さらですが『OAW』本編内で登場するお肉類は、使用する際に特に指定しない限り料理に合わせた部位に自動変換されるという機能があるので、料理初心者でも安心?だったりします。
「皆さん、魔物が接近してきます!『バロメッツ』が四体です!」
「了解。みんな迎撃準備!」
ネイトの声にすぐに気持ちを切り替える。取れたお肉は『ファーム』へと放り込んでおいたので、中に居る子たちが英さんの倉庫にしまっておいてくれるはずだ。
ちなみにこのバロメッツは伝説とは異なり、サングラスをかけた羊の背中にフ〇ワーロ〇クがまたがっているというファンキーでロックな外見をしている。
攻撃方法は堅い角による打撃と、デバフ効果のある気の抜けた演奏の二つ。特に後者が割と厄介で、単調な攻撃しかしてこないエセグリフォよりもある意味強敵かもしれない。
「うおー!カニよこせー!お魚よこせー!」
あ、カニ味だという伝承があるためか、羊肉以外に海産物をドロップします。




