表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十一章 香辛料の森、その向こう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

860/933

860 大草原の小さくはない家

 湿地帯の先にあったのは森の終わりだった。ただし、トライ村側とは違って人の手が一切入っていないから密集していた木々の間が徐々に広がって、やがてその本数を減らしていくという形になっていたけれど。


 その途中で森エリアから、別のエリアへと移行していた。生息している魔物の種類や強さは不明だけれど、視界が遮られない上に足場に気を遣う必要がないから、戦いやすさという点では段違いに良くなるはずだ。


 という訳で戻って合流して全員で森の外へ。この間に残念ながら二回戦闘になったが、現れたのはウォータースライムが二匹とミニスネークが一匹だけだったので苦戦することなくサクッと倒して終了です。


「これは……、言葉を失いますわね……」

「本当ならこんなことをしている場合ではないのでしょうが、見入ってしまいます」

「油断している訳でもないんだからいいんじゃない。というか、こういうのを楽しめなくなる方が問題だと思うよ」


 ボクたちの見つめる先には、朝日に照らされて威容を浮かび上がらせている『大霊山』の姿があった。トライ村でもかなり見上げる形となっていたが、森を越えて近付いた今ではほとんど真上に向いているような状態だ。天辺は(かす)んでいて、まるで空に溶け込んでいるようだった。


 ミルファが言葉をなくし、ネイトが目を逸らすことができなくなっているのも当然だわね。かくいうボクも、根元部分はともかくそこから先は塔のように――太さというか幅は、塔とは似ても似つかないサイズだったけれど――真っ直ぐ天高く伸びていくというリアルでは絶対に見られない光景を前に、意識の大半を持っていかれてしまっていた。


 よく〔警戒〕を使って周囲の安全の確認ができていたものだよ。そんな自画自賛をしてしまうくらいに、目の前の景色は圧倒的な存在感があったのだった。

 だからまあ、そんなものがあることに気が付くのが遅れたのはきっと仕方がないことだったのです。

 

「……んん?どうしたの?」


 くいくいと上着の裾を引かれるような感触に振り返ってみると、そこにはリーヴとその頭の上に乗ったエッ君が居た。尋ねると二人は指先と尻尾の先をそれぞれ『大霊山』のそびえたつ方へと向ける。


 ???

 この子たちが意味のないことをするはずがないから、これはきっと何かをボクに伝えようとしているのだろうけれど……。ボクの知っている山の姿とは異なり過ぎていて、何が変なのかすら分からない。

 

 頭の中でクエスチョンマークを大量生産しながら、再度二人へと視線を向けたところで違和感に気が付く。リーヴの腕もエッ君の尻尾も地面に平行、つまり真横に向かって伸ばされていたのだ。

 生き物などいくつか例外もあったりするけれど、普通何かを指し示すときには対処の中心付近へと向けることが多い。今の場合仮に二人が『大霊山』を指していたのだとすると、腕や尻尾はもっと持ち上げられて高い位置へと向けられていなくてはいけない。


 だとすれば、二人が知らせたかったのは『大霊山』以外のものということになる。

 ちなみに生き物、特に動物の場合は顔や頭を指すことが多いよ。閑話休題。


 改めてリーヴとエッ君が指し示す方、角度を下げて地面の近くへと目を凝らしてみる。


「……ん?ううん?」


 そこにあったのは、この世界に似つかわしくない建物だった。所々にこんもりとした林があるだけの草原の中ということもあって、景色的には別におかしくはないのよ。でも、世界観という点では違和感が物凄いことになっているかな……。

 だってそこに建っていたのは、ニポン風の民家だったのだから。


 一昔前もしくは二昔前くらいのショーワ的な雰囲気だろうか。木造瓦屋根の平屋造りで、田舎のおじいちゃんおばあちゃんのお家、というと何となくでもイメージが伝わるだろうか。

 遊びに来た親戚が泊まれるように、客間が二つか三つくらいはありそうな大きさだった。


「家の周りにコンクリートのブロック塀まであるんですけど……」


 目算だけれどそう大きな誤差はないだろう、全部で二メートル近くあるとはいえブロック塀なのは一メートルほどで、そこから上は見晴らしを確保するためなのか金属製?の柵になっていた。

 その分、魔物への防御にははなはだ頼りなさそうな見た目となっていた。大型の、例えばレッサーヒュドラやウロコタイルクラスの魔物が突撃してきたら、呆気なく壊れてしまいそうだ。

 つまり、


「……めっちゃ怪しいんですけど」


 もはやここまでくると怪しさしか感じられないレベルだわ。放置したことで何かのトラブルや事件の原因になっても寝覚めが悪いし、知らないままならばともかく見てしまった以上は調査する必要があるよねえ……。


「二人とも、教えてくれてありがとうね」


 発見者のリーヴとエッ君の頭を撫でりこして褒めてから、絶景に心を奪われたままのミルファたちを呼び戻す。


「……あのような建物は見たことがありません」


 和風をモチーフにした街や国があったとしても、あんな現代的なものではなくせいぜいが近世までの社会や風土を参考にするはずだよね。


「こんな人里離れた場所にポツンと建っているのもおかしいですわ」


 と、いぶかしげにしながらもどことなくワクワクとした雰囲気が抑えきれていませんよ、お二人さん。どうやら好奇心が刺激されているらしい。ネイトは元より、ミルファもすっかり冒険者の思考が身についてしまっているねえ。


 ボクとしても面白そうだと思う部分はあるのだけれど、リアルに近しいということで何が飛び出してくるのか分からない不気味さから、みんなほど楽しめる気分ではなくなっていた。

 まあ、先に述べたように放置するという選択肢はあり得ないのですがね。


「次の目的地はあの建物ということでいいかな?」

「異議なしですわ」

「わたしもそれで構いません」


 うちの子たちも首を縦に振っているし、ひとまず怪しいお家へと向かってみましょうか。安全に休息できる場所なら文句はないのだけれど、はてさてどうなるものか。

 そういえば、メイションでのあれこれが反映されるかどうかも確認しておかないといけない。先ほどまで居た森は魔物の生息区域ということで、装備品の修復や購入したアイテムの持ち込みに制限がかかっていたのだ。


 割と本気であのお家が町や村と同じセーフティーゾーンであることをお祈りしたくなってきたよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >一昔前もしくは二昔前くらいのショーワ的な雰囲気だろうか。木造瓦屋根の平屋造りで、田舎のおじいちゃんおばあちゃんのお家、というと何となくでもイメージが伝わるだろうか。  座敷童子が喜びそう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ