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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十一章 香辛料の森、その向こう

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857 素早い回収

 番のレッサーヒュドラ戦の後、ボクたちはその場で魔除けのお香を使って休息をとることにした。

 正直なところ、多少無理をしてでも森を抜けてしまうことも考えたのだが、その先が安全とは言い切れないことや時間もそろそろ夕刻が差し迫ろうとしていたこともあって、回復を優先したのでした。


 だけどお香の効果が丸十二時間だから、仮に時間がお昼前だったら移動する選択をしただろうね。ただでさえ足場が悪い場所で、視界が悪くなる上に強い魔物が出現しやすくなるなんて危険がやば過ぎだよ。


 テントの中に入る者や焚火のそばでくつろぐ者など、思い思いの場所で休息を始めたみんなをしり目にボクはお香の効果範囲にある茂みへと向かった。あの戦いで手持ちのアイテム類、回復薬系統はほとんど使い果たしてしまったからねえ。少しでも〈調薬〉で作り出しておこうと、素材を探しに来たという訳。


「……まだ森の中だから予想はしていたけど、香辛料類ばっかりですかそうですか」


 販売先に『異次元都市メイション』のフレンドや知り合いたちがいるからお金になるという点では決して悪くないのだけれど、今一番欲しているのはこれじゃないのよねえ……。はあ、とため息をついて肩を落とすボクを不安そうに見つめる一対の目が。


 トレアだ。どうやら離れた場所に向かっているのを見て心配して着いてきたらしい。ちょいちょいと手招きをするとトコトコと近づいてくる。十歳くらいの少女姿だから、そんな仕草がとっても似合っているなあ。

 最初はケンタウロスの下半身が人間のものになるだけだったのだけれど、暇があれば〈人化〉で変身していたため熟練度が上がった今では、性別こそ変えられないものの様々な容姿に変身することができるようになっていたのだ。最近はこの少女姿がお気に入りみたい。


「手を出して。はい、カレー粉の実だよ」


 採取で高品質の物が取れるようになって以降、メイションでは食べ物関連の人気がさらに高まっていた。その影響もあってなのか、技術提携しているメーカーさん由来の物が発見されやすい傾向になっていた。


 カレー粉の実を受け取り顔をほころばせる少女バージョンのトレアちゃん。はい、可愛い!

 この子もそうだけれど、エッ君に始まりうちの子たち&宝石の子どもたちは本当にみんなみんな可愛いよね。

 お忘れの人もいるかもしれませんが、宝石の子どもたちというのは翡翠ひよこや座敷童ちゃんのことです。本人たちは気にしていないようだが、NPCだし非戦闘員だから最近は『ファーム』から出してあげる機会がすっかり減ってしまっているのが悩みどころだ。


 ニコニコ顔のトレアを見ていると、思ったように素材が取れなかったことでささくれ立っていた心が穏やかになる。もしもリアルでステータスを見ることができたなら、『OAW』を始めてからのボクは確実に母性の数値が上がっているに違いない。

 後はまあ、親ばか度とか?


 トレアの頭を撫でなでして、せっかく来たのだから彼女に採取の仕方を教えながら、素材探しを続けることにすることに。

 そのわずか五分後、茂みをかき分けた姿勢で固まることになった。もっとも、ボクは頬を引きつらせながらだったのに対してトレアは腕を振り振りさせながら歓喜で目を輝かせているという具合に、反応には大きな差があったのだけれど。


 それにしても少女バージョンだと仕草が似合い過ぎていてヤバいくらいの可愛さだわ。時々エッ君やタマちゃんズ並みに甘えたなよ様を見せることがあるからもしやとは思っていたけれど、彼女の精神年齢はヒューマン換算だと実は十歳くらいなのかもしれない。

 後で知らない人には着いていってはいけない、としっかり言い含めておかないと!


 ……と、使命感に駆られることで現実逃避――ゲームだけれど――してみたところで硬直する原因がいなくなってくれる訳もなく。あー、むしろ悪化しているかも。


 最初から説明しようか。採取をしようと茂みをかき分けた先で見つけた、いや、出会ってしまったものとは、地面に埋まった体を引き抜こうと悪戦苦闘する小人さんっぽい何かだった。

 小人さんと素直に言えなかったのは両手?が葉っぱになっていたり、髪の毛の代わりに頭部にも葉が生い茂っていたためだ。あえて言うなら植物小人かしらん。


「え?フラグ回収早過ぎじゃない?」


 思わず呟いてしまったボクは悪くないと思う。宝石の子どもたちのことを話題に挙げたのはほんの少し前のことなのに、とっても関連していそうな新キャラがもう登場するとか、どういうことよ!?

 いくら小声であっても目と鼻の先の距離であれば聞こえてしまうというのが道理というものでして、こちらの存在に気が付いた小人さん風味の暫定宝石の子どもは、ボクたちの方を見ると助けを求めるようにつぶらな瞳をウルウルとさせ始めたのだった。


 助けといっても「命ばかりはお助けを!」ではなく、「下半身を引っこ抜くのを手伝って!」の方だから、そこのところは間違えないように。


「うん。その前にちょっと確認させてね」


 可愛い存在に耐性がなければ即座に陥落して、あちらの言い分に従っていたかもしれない。が、残念でした。うちの子たちを始めとして、こちらには可愛い子がたくさんいるのだよ。

 毎度おなじみ〈鑑定〉技能を使用してみたところ、この子はやはり宝石の子どもたちの一人だったらしくて、琥珀(こはく)プラントなるお名前が見て取れる。


 翡翠ひよこから始まった宝石の子どもたちイベントは今でも進行中なので、この子を助けてお友だちになって一緒に連れていくことは問題ないのですが、というか隣からトレアがその気になっている気配を駄々洩れにしているので、連れて行かないという選択肢が存在していない状態だった。


 だけど一点、気になることが。これを解決しておかないと下手に手を出すことはできない。


「君、プラントっていうくらいだから一応植物だよね?……根っこ抜いて大丈夫なの?」


 その問いかけに「あ……」という顔をする琥珀プラント君。これは動けることで頭が一杯で後先考えずに行動しようとした感じかな。もしかすると、動けるようになってからあまり時間が経っていないのかもしれない。


 結局、用心のために周りの土ごと運ぶことになった。


 この時のボクはまだ知らない。『ファーム』に移住した彼が世界樹としてやがて新たなワールドを作り出していくかもしれないことに……。


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― 新着の感想 ―
[一言] >お忘れの人もいるかもしれませんが、宝石の子どもたちというのは翡翠ひよこや座敷童ちゃんのことです  (´・ω・`)ノすっ……  ソイツらは滅多に出てこないし、ついつい忘れちゃうよね(必…
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