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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十一章 香辛料の森、その向こう

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854 普通に大ピンチ

今年最後の更新となります。

 チーミルたちが後方からの一体を足止めしてくれている間に、前方のもう一体は何とか倒しきることができた。


 まあ、こちらの被害も軽微とは間違っても言えないくらいには酷いものだったけれど。ボクなんてまともにガブリと左足の太もも近辺をガブリとされてしまった。大事なことなので二回言いました。

 レッサーヒュドラ素材で状態異常耐性のある防具を作っておいたから助かったが、あれがなければ確実にアウトだっただろうね。長男でも耐えられません。


 そして最低限の傷を癒して戦える態勢を整えたボクたちが駆け付けた時には、残った一体はブチギレて狂暴化しており、手が付けられない状態となっていた。


「やっと来ましたわね……」


 とチーミルがこぼすくらいだ。そのチーミルが倒れてしまわないように回復魔法などで支援を続けていたのだろう、リーネイは消耗が激しく残りMPがわずかだ。もう少し到着が遅れていたら、MP枯渇の状態異常が発生していたかもしれない。

 イフリートの姿も見えなくなっていたが、やられたのではなく時間切れになったもよう。実体のある配下の魔物を参戦させられるようになったアコだけど、制限時間の(かせ)は残っていた。


「いやはや、これまた元気にびったんばったんしてるねー」

「のんきなことを言っている場合ですの!?これだけ激しく動き回られていたら、下手に近づくこともできませんわよ」


 チーミルに代わって足止めに向かったリーヴだが、見る見るうちにHPを削られていく。四つ首プラス尻尾による多方向からの攻撃に防御が間に合わないのだ。すぐにネイトから回復魔法の【ヒール】が飛んだから事なきを得たけれど、アイテムも魔法も限度がある。


 加えて、どうやら相方を倒されたことによる狂暴化で、特殊能力まわりも強化されてしまっているらしい。あちらはHP自動回復能力持ちなので生半可な攻撃ではすぐに文字通りなかったことにされてしまう。事実リーヴがカウンターで盾をぶち当てても、HPゲージはものの数秒で元通りになっていた。


 この展開はある程度予想できていたので、足止めに専念してもらっていたお陰でアイテムを無駄にすることはなかった。が、リーネイのMPを根こそぎ持っていかれてしまったので、トータルとしては収支はマイナスになっているかもしれない。


「こうなると解毒薬をぶつけたとしても、どれほどの効果も期待できないかもね……」


 かといって、一時的ならばともかく常時回復量を大きく上回るダメージを与え続けられるほどこちらの攻撃力は高くない。このままではこちらの攻撃が通用しないのと同義だ。

 なんとしてでも打開策を見つけ出さなくては。


 うーん……。漫画とかだと超回復や吸収といった能力には、器を越えて過剰摂取させることで効果を反転、自爆に近い形でやっつけるというのが定番の一つではあるのだけれど……。


『強すぎる回復の力は細胞を過剰に活性化させ、最終的に崩壊に至るのだ!』

『ぎ、ギィヤアアアア!お、俺の体が崩れていくー!?』


 とか、


『力が欲しいなら食らうがいい!いくらでもくれてやるさ!』

『や、止めてくれ!これ以上は入らない、破裂するぅ。は、はれ……、ハレーション!?』


 とかこんな感じだね。

 だけどゲームシステム的に、そういった設定はないからなあ。こういう時にだけ適用させるというのは都合が良過ぎるというものだ。つまりはこの方法は使えないということになる。


「長々と説明しておいてそんなオチですの!?」


 足元から伸びあがるような噛みつき攻撃を左手の短剣でさばきながらミルファが怒鳴る。リーヴ一人では多勢に無勢で押し負けてしまいそうだったので、危険を承知でボクを含めて前線組全員で救援に入った訳だが、それでもまだ押され気味となっていた。

 ちなみに、ゲームうんぬんは都合良くそれっぽい感じで適当に理解されるようになっているらしい。まあ、ボクの場合は「またリュカリュカが何か変なことを言ってる」くらいに思われている可能性大ですが。


「この状況でアイテムを無駄にはできないでしょ!……って、うわあ!?」


 怒鳴り返していたところに意識どころか物理的に頭部を刈り取ってしまいそうな尻尾の横なぎに襲われ、あわてて地面に突っ伏すようにして避ける。

 もはやカッコ悪いとか言っていられる余裕すらない。防御系の技能を持つリーヴとミルファはともかく、ボクやエッ君はレッサーヒュドラの動きについていくのが精いっぱいという有様だ。


 いつもであればトレアの弓やネイトの魔法などの援護があるところなのだが、あちらには自動回復があるので下手に遠距離攻撃ができなくなっていたのだ。世知辛い話だけれどMPも矢も有限なのですよ……。


 こちらの攻撃は自動回復で無効化される一方で、あちらの攻撃のダメージは徐々に加算されていく。いやあ、わりと打つ手なしの大ピンチだよね。リアルでならば完全に詰み、来世にご期待ごきげんようさようならだったかもしれない。


 だけど『OAW』はゲームの世界だ。一見どうしようもないくらいに追い詰められているように見えても、その実どこかに攻略法が隠されていたりするものなのだ。

 もっとも、ピンチの度合いに応じてそれを見つけ出す難易度も上がっていくという、厄介な傾向を持っていたりするのだけれど。簡単に見つかるならそもそも危機的な状況になどなったりはしていない、という訳ですな。


 体を酷使させながら――レッサーヒュドラの猛攻を死なない程度にいなしております――小難しいことを考えなくてはいけないというのは、なかなかのハードモードだ。体の動きの方に多く割り振ってしまうとまともに考えられなくなるし、かといって思考の方を重視すると動作がおざなりになってしまう。


 その上、仲間たちの命が尽きないうちにという時間制限付きだ。刻一刻と悪化していく状況に焦ること焦ること。狂暴化で攻撃力が上がっている反面、頭の方は噛みつきだけ、尻尾は薙ぎ払いだけと行動が単調になっていたことだけが救いかな。


 それでも投げやりにならずにいたのは、これまでどんなピンチに陥っても知恵と勇気と気合と根性と、それからたっぷりの幸運で乗り切ってきたという、まあ、ほとんど意地だった。

 もしも一度でも全滅して死に戻りをした経験があったなら、諦めてそちらを選択していた気がするよ。


読者の皆様には本年も誤字報告や感想をいただくなど大変お世話になりました。


お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、リュカリュカちゃんたちの冒険も終盤に突入しています。

完結まで書ききれるように頑張っていく所存ですので、来年もお付き合いしていただけるなら幸いです。


それでは、良いお年を。

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