850 切り札は強かった
いざという時のための保険として購入していた「なんでも貫通弾」を使用し、長命ウロコタイルに撃ち込んだ、というのが前話の最後だった訳ですが……。
命中した瞬間は見えたので、どうなるのか息を止めて見守るボクたち。
しかし五秒、さらには倍の十秒が経ってもウロコタイルに変化は見られない。おいおい、これはもしかしてとんでもない不良品を掴まされたのかい?と疑念すら沸き上がり始めた。
「ふしゅううぅぅ……」
とりあえずこのまま止めていると死んでしまうので、盛大に息を吐きだす。するとパーティーのみんなもスーハーと大きく息をし始めた。危ないあぶない。陸の上なのに危うく窒息で全滅するところだったよ……。
「……何も起こりませんわね」
「リュカリュカ、これで本当に倒せたのですか?」
ミルファとネイトの疑問はもっともなものだ。ボク自身そう思っていたからね!普段はボクの行動にあまり疑問を抱かないうちの子たちですら、不安そうにこちらを見ているくらいだった。
「分からない。攻撃されたことは理解しているだろうから、HPが残っているなら反撃してきてもおかしくはないと思うんだけど……」
あれ?そういえば攻撃したのにどうしてHPゲージが表示されていないのだろう?
これは後から分かったことなのだけれど、遠距離から一方的に攻撃をしたときなどでは「戦闘状態に入っていない」と判定されることがあるのだそうだ。具体的な判定基準については後述します。
今回の場合、距離はさほど離れていないし、あちらもボクたちのことを認識していたのだが、長寿ウロコタイルがこちらを見下して臨戦態勢に入っていなかったために、これに該当することになったらしい。
「とりあえず〈鑑定〉で見てみることにするよ」
初めての試みだから、どれくらいのことが表示されるのかさっぱり分からないけれどね。
結果をぶっちゃけてしまうと、〈鑑定〉を行ったのは正解だったと言えると思う。何せ僕の視界に表示された情報の中に『状態:死亡』という一節が含まれていたのだから。
話が前後して申し訳ないが、攻撃したのに相手のHPが表示されない条件の一つが、対象を倒してしまっていた場合だった。表示させようにも表示させるものがない、という状態ですな。
「お、おおう……!まさか既にやっつけてしまっていたとは……。『なんでも貫通弾!』恐るべし」
製作者のプレイヤーさん、不良品なのかと疑ってごめんなさい。
「本当に倒していますの!?マジですの!?」
ミルファさんや、語尾だけそれっぽく言えばお嬢様言葉になると思ったら大間違いだからね。
「倒したというのに全く変化が見られなかったのは、なぜなのでしょうか?」
ネイトさん、疑問の指摘ナイスです。いやはや、どういう仕組みなのか攻撃が命中する前後でも長寿ウロコタイルの様子が一切変わっていないのだよね。
「もともと寝そべっていたから倒れたりはできないだろうけど、普通は力が入らなくなるからべちゃっと突っ伏すくらいはするものだと思うんだけど」
立ち往生なんて言葉があるくらいだから絶対ではないのだろうが、どちらかと言えば例外的な少数派になると思う。
「まあ、考えたところで答えが出るものでもないし、とっとと解体してさっさと先に進みましょうか」
名前に長寿とついているくらいだから、ドロップアイテムにも期待が持てそうだしね。できれば使用してしまった『なんでも貫通弾!』の元が取れるとありがたいのだけれど。
威力と効果のほどを実感することができたから、できれば今後もいざという時のための保険として一個くらいはアイテムボックスの中に放り込んでおきたいのよね。
他にも魔除けのお香などはいくつか余分をストックしておきたいし、美味しいご飯だって確保したい。いくらあってもお金が足りなくなってしまうよ。
「では解体開始。ぷすり」
えいやっ!と解体用ナイフを巨大な鼻先へと突き刺すと、あっという間に小山のような巨体は消えうせて、代わりに複数のアイテムを入手することができたのだった。
「鱗に皮に骨。このあたりの素材は順当なものですわね」
「ですがどれにも「長寿の」と枕が付いていますから、間違いなく高値で売れるでしょう」
「装備品にも使えそうだよね。……うーん、こんなことなら装備を新調するのはもう少し後回しにするべきだったかな?」
「いいえ。装備を新たに整えていなければ、そもそもここまでやって来ることはできていなかった可能性も高いのですから、これで良かったのだと思います」
「欲張り過ぎてはかえって全てを失ってしまうということですわね」
あくまでも結果論であり、レアアイテムで装備品を作ろうと弱いままで大怪我をしては元も子もないということか。パーティーメンバーの言葉に納得したボクはフムフムと頷くと、ドロップアイテムの確認に戻ることにした。
「わお!やった!魔石の大が取れてるよ!」
「本当ですの!?」
「それだけ強力な魔物だったということですね……」
喜ぶボクとミルファに対し、まともに戦う羽目になっていたらどうなったことかと小さく体を震わせるネイト。うーん、真面目だ。まあ、そうやって引き締めてくれる人がいるからこそ、リセットしなくてはいけないような、どうしようもない事態にならずにここまでこられた訳なのだけれどね。
さて、ドロップアイテムの魔石の大ですが、これは良質の蓄魔石の原料になる他、魔法使いの杖といった装備品にパーツとして組み込めば攻撃力アップや持続時間の上昇の上昇、果ては消費MP軽減といった様々な効果が発揮されるかもしれないという、マジシャン垂涎の一品だったりします。
しかもそれだけではなく、剣や槍などに組み込むことで魔法が発動できるロマン武器を作り出すことだってできてしまうのです!
はい!勘のいいそこのあなた!その通りです。ファイヤーガントレットを制作すれば火〇が、サンダーソードを作ればギ〇ブレ〇クと、漫画やアニメのあの技だって再現できてしまえちゃうのですよ!
夢が広がりますねえ。
そんな具合に利用価値が高いので、ワールドのNPCは元より、『異次元都市メイション』でクリエイターのプレイヤーにも高値で買ってもらえる金策アイテムとしても利用できるのだ。
装備品を揃えるときに無理を聞いてもらったことだし、フレンドさんに安く譲るというのもアリかもしれない。




