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装備品新調の資金は順調に貯まっていた。ボクまたはフレンドさん経由で買われていった高品質な香辛料類の評判も上々なようで、多少値が張ることなど何のそのといった調子で連日売り切れ御免の状況が続いているそうだ。
嘘か真か、プレイヤーの中でも機を見るに敏な人や儲け話への嗅覚が鋭い人、ついでに次の目的地が特に決まっていなかった人などがこぞってトライ村へと向かっているらしいですよ。
まあ、それぞれごとのワールドの話となるので、ボクのいるトライ村が活性化するわけでもなければ閉鎖的な状況がこれで改善とはいかないのが残念なところだね。
大陸随一の呼び名も高い『学園都市パーイラ』が近くにあるから、そちらと連携すれば発展できるのではないかと思われがちなのだけれど、ことはそう簡単にはいかないみたいです。
それこそトライ村やパーイラを拠点にしているプレイヤーさんたちの話によると、実はこの学園都市には天才はもちろんなのだけれど、それと紙一重の人や身分は高い問題児にその逆の身分を明らかにできない人などなど、一癖も二癖もある連中が多く放り込まれているある種の魔境なのだとか。
寝食を忘れて研究に没頭する人などまだまだ序の口だったみたいです。やべーやつばっかりですかい……。
そのトライ村だけど、例の冒険者協会の職員だった彼女たちの調査が進んだ結果、色々なことが分かってきたらしい。
え?他人事みたい?
正解です。あえてこの一件からは距離を置いていて、調査から始まり最終的にどのように解決するのかまで全てトライ村の人たちに丸投げしていたのだ。
その理由は以前述べた通り、余所者ばかりが目立つと碌なことがないためだ。もう少し詳しく説明すると、ボクたちがトライ村へやってきたこと、そしてボクたちが関わったことで村の状況は大きく変わってしまった。そのためか未だ反抗的な若手連中の中に一連の事態は仕組まれたことではないかと疑う者が出始めていたのだ。
それくらいならまだ良い方で、トライ村を傘下に置きたい外部勢力の尖兵なのではないか?などといったとんでも陰謀論までまことしやかに噂されていた。
何と言いますかもう頭痛が痛くなるような話だよね……。だけど訪れる観光客が減ってすっかり閉鎖的になってしまったコミュニティでは真偽を判断する手段が極端に限られてしまっている。クンビーラやシャンディラのような街であれば「フェイクニュースおつ」で終わることが、疑念を払しょくできないままくすぶり続けることになってしまっていたのだった。
こんな状況で村の若者たちの調査なんてしてごらんなさいな。確実に敵認定されてしまうはずだ。
しばらく拠点にする村の人たちといざござを起こしたくはないため、騒動から距離を取って「ボクたちは悪い冒険者ではありませんよー。採取勝負の一件もたまたま巻き込まれただけですからー」と行動でアピールしていたという訳です。
「だからそのまま放置しておいてくれてよかったのに……」
「いやいや、用が済んだら知らぬ存ぜぬで押し通すって真似はできねえから!うちの信用がガタ落ちになっちまうぜ」
事情を知らない無関係な人間を巻き込んでいる時点でアウトだと思うのだけれど、このへんはゲームらしくイベント発生のための強制力が働いている可能性もあるからなあ……。
おじさん一人に文句を言ってもどうしようもない部分があるのかもしれない。
「話を戻すとだな、あいつら全員もれなく元領主の関係者らしいんだわ」
実はこのトライ村、長のつくトップが存在せずに冒険者協会や『商業組合』に治安維持組織などの代表者たちによる合議制となっていた。現在の状態に移行したのがおよそ五十年前で、それまでは他の街と同じように領主が存在していたそうだ。
「村を衰退させちまった責任を取る形で時の領主が辞任して、主だった財産も村の運営資金として寄付したんだと」
「それはまた思い切ったことをやったもんですね」
「俺もそう思うぜ。ただ、そのおかげで破綻せずに何とかこれまで存在することができたのも確かなんだよ。そういう意味では先見の明があったってことなんだろうな」
そこでいったん言葉を切ると、おじさんはしかめっ面をして続きを話し始めた。
「だけどその決断に納得ができない連中もいた。それは領主の一族だったり、その下の騎士だったり役人だったり使用人だったりと様々だ。共通しているのは元は特権階級かもしくはそれに準ずる立場だったということだな」
あー、自分たちの権益がなくなるから反対していたということね。そしてそんな話が出てきたということは……。
「しつこく反抗してるあのガキども、そろいもそろってその手の系譜の連中だったんだわ」
中でもあの協会職員の彼女は元領主一族の一応は直系の血をひいているらしく、旗頭というか御輿として担がれているとのことだった。
「なるほど。手のひらを返してすり寄っていったのかと思ってましたけど、実際は元のさやに戻っただけということですか」
「嬢ちゃんたちの勝負相手だったパーティーに近づいて便宜を図っていたのも、そもそも若手への影響力が強いあいつらを取り込むためだったのかもしれんなあ」
彼女たちの目論見としては、まず若手と年配の対立で村を二分させて、調停のためには絶対的な権力者が必要だという自分たちの思想を浸透させようとしていた。そして最終的には領主制度を復活させて、自分たちが特権階級に居座るつもりだったみたい。
「随分ふわっとした計画ですよね」
「その通りなんだが、それにしてやられていた身としちゃあ、バカにすることもできねえんだよなあ」
採取勝負に持ち込んだことで状況をひっくり返すことができたけれど、それとて余所者のボクたちに命運を預ける不確定要素が多いものだった。ぶっちゃけプレイヤーのボクですら、実は勝ち確定の強制シナリオだったのでは?といぶかしんでしまったほどだ。
アウラロウラさんいわく、勝てたのはボクたちの実力があってのことだったらしいけれど。
「向こうの正体と狙いが分かったからには、これ以上好き勝手にはさせねえさ」
と言って、おじさんはニヤリとあくどい笑みを浮かべる。あ、何か手伝いを申し入れに来たとかではなく、本当に報告だけだったのね。
彼女たちがおかしな逆恨みをしないように、しっかりと野望を潰してくださいね。




