844 若手連中の反応
結局、相手パーティーは三日目の期限最終日を療養――深刻な怪我ではなかったそうだけれど――に費やしたことで、採取勝負はボクたちの勝利となった。
普通に村の中を歩くことはできていたらしいので、少しでも冒険者協会に様子を見に来ていれば逆転されていることに気が付けたのだろうが、若者特有の根拠のない自信に加えてすっかり天狗になっていた彼らは確認をおろそかにしてしまい、自ら勝ちの目を捨て去ることになったのだった。
というか、ボクたちが帰ってこないことであれだけ騒ぎになっていたのに気が付かないとか、鈍いといった言葉では片づけられない気がするよ。
驕れる者も久しからずと言いますか、ウサギとカメの寓話通りといいますか、ここまで見事過ぎるほどの転落劇もそうはないだろうね。
ところが、ここで村の大人たちが画策していたものとは違った展開を見せることになる。若者たちの中にかたくなに大人たちとの対立を続行しようとする集団が現れたのだ。もちろん態度を改めた人たちも多くて、その筆頭となっているのがボクたちと採取勝負をした若手冒険者たちだった。
村の若手冒険者の中でも彼らは頭一つ抜き出ていたのだけれど、若者たち世代全体で見ても彼らはトップの実力者だったということで、それに従う者たちも多かったという訳だ。
自分たちが手も足も出なかったレッサーヒュドラを倒したこと以上に、本題の採取勝負でもこてんぱんに負けたことが堪えたらしい。こちらが依頼品をすべて高品質で揃えていたのに対して、あちらはせいぜい半分ほどだったからねえ。
しかもどうやら「これくらいやっておけば勝てるだろう」という勝手な推測で手を抜いた結果だったというのだから呆れるしかない。
おじさんと話していたときにも感じたことだけれど、どうにもトライ村の若手連中は「力を抜く」ことと「手を抜く」ことを同一視していたみたいね。
この二つは似ているようで全く違う。前者は集中力などを長時間維持するために有効、場合によっては必須の行為なのに対して、後者は単純にさぼったり出し惜しみをすることだ。
ただ、このとんでもない勘違いにはおじさんを始めとしたベテランや年配者の人たちの無関係ではなかった。ある種トライ村の意地だったというか頭が固かった部分というか、辛く苦しくてもひょうひょうと、または淡々と仕事や依頼や任務をこなすことが一流だという風潮が根付いてしまっていた。
『三国戦争』をきっかけに訪れる観光客が減少して、町から村へと縮小することになったことがよほど屈辱だったみたい。
で、それがどこをどうおかしな方向へと突き進んでしまったのか、今の若者たちには「手を抜いても与えられた課題や依頼や職務をクリアできるなら、手を抜いたっていいじゃない!」という形で伝わってしまっていたのだった。
正直とんだ超解釈だとは思うが、導き教育するべき上の世代にはそれを是正できなかった責任が付きまとうことになるのだ。
まあ、半分くらいは当事者意識を持たせるための方便でもあるけれどね。こうしておけば「村全体の問題」として年配ベテラン勢も口を出すことができるようになるという寸法だ。いや、いくらやらかした本人たちだからといって、あれだけおかしな解釈をしていた若手連中に改善の全てを任せるなんて怖くてできませんから。
今度はどんな明後日の方向に突き進むか分かったものじゃないよ!
そんな感じで、しっかり手綱を握らせる意味も含めて上の世代にも当事者意識を持たせたという訳。
話を若者たちに戻すと、今回の件で自分たちの考えが大いなる誤解と勘違いによるものだと、実体験を伴って痛感することになった若手のトップパーティーと彼らを慕う者たちは態度を改めていくようになる。
対して、頑固に「ぼくわるくないもん!」と主張を曲げなかったのが、若者たちの中でもいわゆるナンバーツー並びにナンバースリーあたりのグループメンバーおよびその手下たちだった。
そのため、村を二分する世代間の対立は避けられたものの、若者たちの間に溝ができることになってしまった。
ここまではトップがふがいない様子を見せたことで、彼らになり替わろうと一躍騒ぎ出しただけのようにも見える。実際にベテラン年配冒険者のうち半数くらいはそう考えていた。
一番手の人たちがいわゆる良い子だったのに対して、彼らは元から大人への反抗心が強い傾向にあったこともそれに拍車をかけていたようだ。。
ボクたち自身、付き合いがゼロで何も知らなかったから最初は同様の感想しか持ち合わせていなかった。しかし、ある光景を目にしたことで違和感や不信感を覚えるようになる。
反抗する若手一行の中に、おじさんに噛みついたり他の職員には秘密で採取品を預かっていたりしていた、あの冒険者協会の女性職員が混じっていたのだ。
彼女がやっていたことは犯罪や規律違反とまでは言えないことばかりだ。が、完全な白ということでもない。二つ名が付くほどの冒険者への反抗はそれまでの貢献を切り捨てるようなものだし、特定のパーティーや人物へのえこひいきは公平性を揺るがして信頼を失墜させかねない。
そして実際にそうなったように、処罰されるリスクも大きい。
あのパーティーの熱烈な信奉者なのかな、と思ったからその行動に納得ができた訳で、いくら意に添わなかったとしてもそう簡単に鞍替えするのはおかしいのでは?と思えたのだった。
「もしかして、信奉者だっていうのがそもそもの間違いなのかしら?」
例えば、付き従っていると見せかけておいて、実は彼女こそが彼らを操ったり誘導していたのだとしたら?思い通りに動かなくなった駒を切り捨てて、新たに扱いやすいものを手に入れようとしているのだとすれば?
ただの勘違いだったり、行き過ぎた妄想だったりするならば問題ない。だけど運悪くそれが正解だったなら、取り返しのつかないことになってしまう可能性がある。
「急いで対策を打つ必要がありそう」
話を聞いてくれそう、さらに言えばボクたちに借りがあってちょっと無理矢理にでも話を聞かせられそうな相手となると……。うん、あの人しかいないね。
頭に思い浮かんだ適当な彼がいるだろう場所に向かうため、ボクはせわしなく足を動かし始めたのだった。




