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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十章 トライ村では二騒動?

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837 採取勝負二日目 その1

 そして翌日。採取勝負の二日目の朝がやってきた。


「はいよ、お弁当だよ。頑張ってね」


 宿泊費とは別に料金を支払っているとはいえ、快く昼食の準備をしてくれた宿の女将さんに例を言って森へと出発する。今日はいよいよ湿地帯にまで足を踏み入れることになる。昨日以上に慎重な行軍が求められることだろう。


「今日のボクは昨日以上に採取する依頼品探しのために〈鑑定〉を使う機会が多くなると思うんだよね。もちろんネイトには〈警戒〉で周囲を探ってもらうつもりだけど、ミルファやみんなも魔物とかが近寄ってきていないか目視で周囲の確認をしておいてね」

「了解ですわ。怪しいやつが近づいてこないようにしっかり見張っておきますの」


 ミルファのセリフに同意するようにしっかり頷くうちの子たち。

 ミニスネークとの余計なエンカウントを回避するためにも、植生が変わった地点から速足で奥へと進んでいく。この作戦が功を奏したのか、ボクたちは戦闘回数ゼロのまま湿地帯へと到着したのだった。


「ここからが本番ですね。……今のところ周囲に魔物はいないようです」

 

 ネイトからゴーサインが出たところでてくてくと進む。気になった植物を〈鑑定〉していくことも忘れない。

 結果から言うと、依頼品はすぐに発見できた。のだが、依頼完了とはいかなかった。問題は品質だった。一応どれも採取はできたのだが、これがまたことごとく普通品だったのだ。出来栄えを問わないのであればこれでも依頼自体は完了することができただろう。


 だけど、今回の件は若手グループとの勝負となっている。ぐうの音も出せない状態で叩き潰すためには高品質品を持ち帰る必要があった。


「クミンの実の時も枝ごと落としてもらって、そこから『へた』付きで採取することでようやく高品質品になりましたから、他の物も手順に沿うといった何かしらの仕掛けがあるのではないでしょうか?」


 そんな言葉に促されて試行錯誤を繰り返してみると、コリアンダーの実は葉っぱとセットにすることで、ターメリックの実は根っこから一株丸ごと掘り出す――茎から上の地上部が十五センチほどで、根っこを合わせても三十センチに満たなかった――ことでようやく高品質品を採取することができたのだった。

 実の採取とはいったい……、と何とも言えない気持ちになってしまった僕は悪くないはず。


 ちなみに、残るレッドペッパーの実には特にギミックは設定されておらず、丁寧な採取を心がけることで高品質品を手に入れることができた。ただし、素手で触るとダメージを受けてしまうというトラップ仕様だったけれど。

 いわゆる唐辛子だったから、辛さをダメージで表現しようとしたのかしら?


「ターメリックの実が二つとクミンの実が七つ、……どっちもあるね。次にコリアンダーの実が八個、……もオッケー。最後はレッドペッパーの実が九個、……よし!こーんぐらっちゅれーっしょーん!採取品が全部高品質で揃ったよー!」

「やりましたわね!」


 時刻を確認してみると、お昼を回ってそれなりの時間は経っているものの、まだまだ日が陰るまでには余裕がある頃合いだった。これなら十分にトライ村に帰ることだってできるだろう。

 仮に魔物との戦いが起きても、森の外に出て弱い魔物しか出現しない街道周辺までは行けるはずだ。


 と、甘い考えをしたのがいけなかったのか。


「緊急!複数の人がこちらに向かってきています!」


 なんとネイト警報が発令されてしまった。


「このままだと正面衝突しちゃう感じかな?」


 湿地帯では地上部が木々の幹や枝、さらには張り出した根っこによって阻まれていることも多く、見た目よりも歩ける場所が少なかったのだ。ぐねぐねとした迷路状かと思えば実は一本道だった、といったケースも多々あった。


「彼らの居る側はまだ探査できていない方なのではっきりとしたことは言えませんが、そのつもりでいた方が対処はしやすくなるかと」


 確かに、安全だと高をくくっていたところに突入されたら不意打ち状態になってしまうものねえ。


「……どうやら魔物に追われているようです。彼らの背後からこちらも複数の魔物気配が追いかけてきています」

「マジ?できるだけたくさんの情報が欲しいから、ボクも〈警戒〉を使ってみるよ」


 そして視界に映し出されたのは、くねくねと曲がりながらも間違いなくこちらへと近づいてくる非敵対を示す緑の光点が五つと、その動きをトレースするように追いかけてくる魔物を示す――正確には敵対を示すものです――三つの赤い光点だった。


「ボクたちの勝負の相手って何人組だったっけ?」

「五人組ですわ。前衛のファイターだけでなく、シーカーやマジシャンまでいて、バランスの良いパーティーだと記憶に残っておりましたの」


 そうなると、追い立てられているのはその連中で決まりかな。彼らやボクたち以外にも森に入っている冒険者は何人もいるだろうけれど、こういう時には関係者が出てくると相場が決まっているものですので。


「これはどう頑張っても戦闘になりそう」


 曲がりくねりながらとはいえ、光点が近づいてくるスピードは速い。足場の悪い道であることを考えると、今から逃げ出したところでそう遠くない場所で追いつかれるのがオチだろう。


「ならばせめて戦いやすい場所を探しませんこと」

「それが堅実かな」


 ミルファの案を採用して、後退しながら少しでも足場の良い場所や、動き回れる広さのある場所を探す。運良く、すぐに都合の良い場所が見つかった。

 はい、そこ!「本当に運が良かったなら、魔物に追いかけられているパーティーと鉢合わせすることなどない」とか言わない!


「来ました!」


 得物を取り出すなど戦いの準備を整えていたところで、木々の向こうから件のパーティーがやって来るのが見えた。

 ……わーお。これはまた満身創痍という言葉が似合い過ぎるくらいボロボロだわね。彼らと一緒に戦う、というか一体くらいはトレインしてきた責任を取って受け持ってもらう作戦はボツにするしかなさそう。


「ここはボクたちが受け持つよ」

「す、すまねえ!」


 息を荒げながらボクたちの間を抜けている面々。あの調子だと勝負の相手だということにすら気が付いていないかもしれない。

 残るは問題の魔物たちですが……。はてさて、ワニが出るか蛇が出るか?はたまたスライムさんでしょうか?


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― 新着の感想 ―
[一言] >素手で触るとダメージを受けてしまうというトラップ仕様だったけれど。 >いわゆる唐辛子だったから、辛さをダメージで表現しようとしたのかしら?  実際に辛味と呼ばれてるのは“痛覚で痛み”なん…
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