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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十章 トライ村では二騒動?

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835 採取勝負 その3

 その後、発見したミニスネークを〈鑑定〉してみたところ特におかしな精神状態ではないことが判明することに。


「うにゅにゅ……。特におかしなところはないときたかあ」


 単にエンカウント率が高めな設定となっているだけなのかもしれない。もしかすると森への侵入者をさっさと奥の湿地帯へと追いやる役目を持たされているのかもね。

 HPも防御力も低くてサクッと倒せてしまう弱さだけれど、その一方で樹上に潜み上からという死角から襲い掛かってくる上に、麻痺の状態異常攻撃持ちでもある。〈警戒〉技能など居場所を察知する手段がなければそれなりに厄介な敵だと言えるだろう。

 さらにドロップ品もこれといった物がないので倒す価値も低いとなれば、好き好んで戦おうと考える人はいないに違いない。


「そうやって特徴を並び立てられてみますと、奥へと追いやる役目持ちというのも言い得て妙ですわ」

「それではこれからどうします?森の流儀に倣ってわたしたちも湿地帯へと足を踏み入れますか?」


 ネイトからの問いかけに空へと視線を向けてみる。木々の合間から見える空は未だに青色を保っているが、差し込んでくる光は傾きが大きくなっていた。このまま奥へと進むとなれば、確実に森の中で夜を明かすことになるだろう。

 目的地が森を越えた先にある『大霊山』のふもとである以上、森の中での野宿が必要になるのは間違いない。そしてそのための訓練もしておくべきだ。


「ううん。今日は奥までは進まないよ」


 でもね、森に入った初日からそこまでする必要はないのではないと思うの。


「一度に詰め込み過ぎてもキャパオーバーになるのがオチだよ」


 テスト前には毎度それなりにお世話になっているから一夜漬けが悪いとは言わない。けれどボクの経験上、それでしっかりと身についているのかと問われると、答えを濁してしまわざるを得ないのよね。


「ああ、でも湿地帯との境目は確認しておこうか」


 可能であれば残る依頼品が生っている場所の目安もつけておきたいところだけれど、日が落ちる前にはトライ村へと帰還したいから発見できるかどうかは運次第といったところかな。


「では、湿地帯の境目を確認後、それに沿って周囲の様子を伺いながらしばらく歩いてみる、ということですね」

「そうだね」


 アバウトながらも当面の方針が決まったところで探索再開だ。視界の隅のミニマップは機能し続けているので、道に迷う心配もない。ゲームのありがたさを感じられるね。


 この日、ボクたちがトライ村へと帰還したのはそれからおよそ二時間後のことだった。とりあえず全員無事に大きなけがを負うこともなかったのだけれど、何の問題もなかったとは言い切れなかった。


 問題その一、クミンの実以外の依頼品を採取することができなかった。購入した植物図鑑にも書かれていたのだが、残りはどれも湿地帯の中に足を踏み入れる必要があるらしい。一個だけでもターメリックの実が取れたのは珍しいことだったようだ。

 ギリギリ〈鑑定〉が届いて在り処が分かったものもあったのが救いかしらん。


 問題その二、レッサーヒュドラやウロコタイル以外にも厄介な魔物がいた。その名はウォータースライム。名前の通りの魔物なのだけれど、半透明なため水に中に潜られていると目視で発見するのは極めて難しいという特徴を持っていた。

 ミニスネーク対策で〈警戒〉技能を使用していなければ、不意打ちを受けていたかもしれない。まあ、その分こいつも戦闘能力は低く設定されていたようだけれど。

 特に魔法に弱いらしく、怪しい場所にはニードル系の魔法を撃ち込む、などという力業もアリと言えばアリらしい。もっとも、別の魔物が潜んでいた場合には強制的に戦闘になってしまうし、周囲の魔物を引き寄せる危険性もあるので、実践する人はまずいないとのことだった。以上、魔物図鑑から抜粋しました。


 トライ村の冒険者協会支部は、もうすぐ夕方になろうかという頃合いだったにもかかわらず閑散としていた。

 後から聞いた話によれば、九割方がここ所属の冒険者で、しかも香辛料採取を生業としている人たちなのだそうだ。そしてベテラン勢ともなれば数日から一週間周期で森でも採集生活を行うのだとか。そのため朝夕の時間帯でも協会支部が込み合うようなことはめったにないらしい。


 そうなるとボクたちは必然的に目立つことになる訳でして。


「おいおい、まさか一日で依頼品を全部揃えちまったのかい?」


 採取勝負に巻き込んだ張本人である、自称トライ村『商業組合』幹部のおじさんに見つかってしまったのだった。


「まさか!初見の場所で夜を明かすような真似をしたくなかっただけですよ。先輩たちから「冒険者は臆病なくらいが丁度いい」って口酸っぱく言われてきましたのでね。ところで、湿地帯の手前側でミニスネークとばかりたくさん戦う羽目になったんですけど、これが普通なんですか?」

「なんだ湿地帯に入りもしなかったのか?……本当にこの森の初心者だったんだなあ」


 おーい、質問に答えてくれてませんよ。まあ、おじさんを始めとして協会職員の皆様も、驚いた様子

もなければ困惑した様子もないのであれで平常運転だったということなのだろう。


「初心者なのに誰かのせいで若手冒険者たちと勝負することになっちゃったんですよねえ」


 恨みがましげに言ってやると、バツの悪そうな顔をして両手を上げるおじさん。


「打診も何もしないまま巻き込んだのは悪いと思ってるよ。ただ、これを逃しちまうとあいつらを矯正できる機会がなくなっちまいそうだったんでなあ」


 ボクたちの対戦相手となったパーティーは若手の中でも一際抜きんでていて、方々から期待されている人たちであるらしい。いわゆるホープというやつだわね。

 ところが、若者あるあると言いますかある程度慣れてきたところで彼らは図に乗るようになってしまった。


「悪いことにあいつらの尻馬に乗っかるみたいにして、他の若手連中まで調子づきだす始末さ」


 最近では先日おじさんに噛みついていた協会職員の女性のように、冒険者以外の村の若者たちにまでその風潮が広がり始めてしまったそうだ。


「なんだかんだ言って代り映えのしない村の生活に嫌気がさしていたってことなのかもしれんがね。とはいえこのままだと村を二分する事態にもなりかねねえ。ちょっと強引にでも自分たちの至らなさってやつを思い知らさなくちゃいけないってことで一計を案じた訳だ」


 なるほどねえ。……って、割と切羽詰まった状況だったみたいですよ!


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