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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十九章 学園都市でのひと騒動

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828 な、なぜここに!?

 みそ汁すらない、ということで研究室の隅にある炊事場でさっそく作ってみましたよミソスープ!


「お湯に溶くだけでこんなに美味しいものなの!?」


 ナンナ女史が驚きの声を上げているが、正確にはいくつかの乾物から出汁を取ったものとなる。


「色合いには多少難が残っていますけれど、薄まっている分だけマシにはなりましたわね」

「においの方もそれほど気にならなくなりました。少なくとも不快ではないです」


 ミルファとネイトもまんざらではない顔をしていたが、さすがに食欲をそそられるとまではいかなかったようだ。まあ、初めて口にするなら妥当な感想かしらね。


「ミソは香りが強いから肉や魚のにおい消しにも使えますよ」


 もちろん最低限の血抜きや泥抜きなどは必要だが、汁物にして火を通すのであれば割と雑な処理でもなんとかなると思う。リアルで子どもの頃に食べたきりだけれど、ドジョウ汁にはそれこそ頭から丸ごとのものが入っていた記憶があるよ……。

 むしろ焼き物とかの方が使用するミソの分量も含めて注意が必要な気がする。焦げてしまうこともありそうだしね。


「ただ、その分ハーブと合わせるときには注意が必要でしょうけどね」


 特に洋食で使用されるハーブ類とのかけ合わせはリアルでも挑戦したことがないので、リッドさんをはじめとしたこちらの料理人たちに丸投げのお任せということになるね。

 とりあえず基本のミソスープと、ミソ田楽風の焼き物料理の作り方をお伝えしておく。後はそれぞれが試行錯誤して美味しい料理に発展させてくださいな。ついでに、その監修ということで各食堂を巡ってもらうようにすれば、ナンナ女史の食事についても当面は何とかなるのではないかな。


 お礼はもちろんミソの現物支給でおっけーですぞ。パーイラへと立ち寄るそもそもの目的だった道具類の購入――ちゃんと覚えてますよ――も、冒険者でもあったリッドさんが良い店を紹介してくれたことだし、終わってみればボクたちにとっては色々と利点の多い寄り道となったね。


 そうそう、大霊山のふもとの森に行くつもりだと話したら、ナンナ女史が一つ耳寄りな情報を教えてくれた。なんと、そこには香辛料のなる樹木がたくさん生えているのだそうだ。

 今でこそそれぞれの村で栽培されているけれど、ウスターソース作りなどに使用されている香辛料も元をたどればその森で採取されたものだったらしい。


 あくまで大霊山やその周辺の調査が一番の目的ではあるものの、楽しみが付随しているとやる気も出るというものだ。うちの子達も食べることは大好きだし、きっと張り切ってくれるはずだ。


 それとこれは全くの余談できっとボクの勘違いだとか目の錯覚だと思うのだけれど、ナンナ女史の研究室から帰る途中の学園内で、どこかで見たことのある人たちが居たような気がした。


 具体的に言うと、先の事件の責任を押し付けられて謹慎させられているはずの『土卿王国ジオグランド』のロック第六王子だとか、見聞を広めつつ支持者を増やす旅をしていたはずの『火卿帝国フレイムタン』の皇帝に近い血筋のリシウさんだとか、はたまたこの前のタカ派粛清に関連して頭角を現したとして次期大公位がほぼ決定しているはずの『水卿公国アキューエリオス』のジャグ公子だとかそんな人たちです。


「うん。それぞれ国内が大忙しのはずだしこんな所に居る訳がないよね!」


 そう自分に言い聞かせると同時に、見つからないようにとっとこ学園を退散しますですよ!

 きっと必ず絶対本物がいるなんてことはあり得ないとはいえ、遭遇したら最後面倒で厄介な事態が発生するのは目に見えておりますので!

 この時のボクの早歩きは、過去最高速かつ最静音だったことを記しておく。


 学園の敷地から抜け出せたからといって油断はしないよ。身分の高い人や偉い人には従者が付くのが基本だからね。そして残念なことながらそれに該当しそうな人たちともボクは面識を持ってしまっていた。

 具体的にはリシウさん配下のハイスペックな六人衆だとか、ジャグ公子の未来の側近候補なポンコツトリオだとかそんな感じの人たちだわね。


 後者はともかく前者の方は出会った頃は元より、今のボクたちであっても太刀打ちできないと思えるだけの実力者揃いだ。察知されたら逃げることはできないだろう。

 いや、もちろん仕えるべき主人がここに居るはずがないのだから、彼らと出会ってしまうなんてこともないのですがね。ほら、まあ一応ね、念には念を入れてというやつですよ


 リッドさん紹介の道具屋にササッと移動して、必要な道具類をどんどん買い揃えていく。あらかじめおじいちゃんたちがリストアップしてくれていたから、あっという間に完了です。

 吟味する時間がもったいなくて最高品質の物ばかりを買う羽目になってしまったが、必要経費の範囲内かしらね。質が悪くて肝心な時に役に立たない、なんてことになるよりははるかにマシだろう。


 こうしてボクたちは、到着した時とは打って変わって逃げるようにしてパーイラを発つことになったのだった。街を取り囲む城壁が小さくなるところまで一気に歩いて、ようやく休憩を入れる。


「最後は随分と慌ただしいことになってしまいましたわね」

「仮に出会った方々だったとしても、顔を合わせるくらいはどうということはなかったのではありませんか?」 

「んー……、確かにそうかもしれないんだけどね。ただ、逆にそうじゃなかったかもしれないからさ」


 多少はボクの行動が影響を与えたかもしれないが、パーイラに居たことはゲームの規定通りだったのかもしれないのだから。とはいえ、再会したならばやはり何かしらのイベントは発生していた湯にも思えるのだよね。


 いずれにしても、ボクはもう接触しないことを選択してしまったのだ。これが吉と出るか凶と出るのかは不明だが、突き進むしかない。


「まあ、でもその前に遅くなったお昼ご飯を食べて腹ごなしをしないとね」


 飢餓状態になるのは辛いので。というのは建前でせっかくミソが手に入ったのだ。食べるしかないでしょう!

 ナンナ女史のところで作ったミソスープにストトトトっと小さく切った野菜とうどんを入れて煮立たないように温めていけば、郷土料理の打ち込み汁の完成だ!

 味噌煮込みうどんと何がどう違うのかについては、皆さんの目の前にある箱を使って調べてみてくださいな。


「あら、これは美味しいですわね」


 意外なことに、一番気に入っていたのはミルファだったと追記しておきます。


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― 新着の感想 ―
[一言] >皆さんの目の前にある箱を使って調べてみてくださいな。  スマホの存在が消されているので、誤字報告に投げときました。
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