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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十九章 学園都市でのひと騒動

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826 これにて依頼達成

 いやはや、旅先で出会っただけの人かと思いきや、思わぬつながりがあったものだわね。まさか他の人も同じだなんて話はないわよね?


「わ、私は元々この街の人間よ」

「私もそうだなあ」


 店主さんはこの『子犬の尻尾亭』の三代目で、ナンナ女史も研究者としては珍しくパーイラの下町出身なのだとか。この辺りの事情が男嫌いとなった原因の一つのような気もするけれど、深入りすると後が大変そうなのでここでは一旦スルーです。


 さて、肝心のカツうどんの評価ですが……。


「卵で絡めたり汁に浸したりするなんて、サクサクとした揚げ物の持ち味をダメにするだけかと思ったんだが……。あえて衣をしっとりさせることで異なった持ち味を引き出しているのか!」

「この味に香りはソイソースね。そのままでは強すぎる味も、スープに加えることで薄まって優しい味わいになっているわ!」

「うっま!うっまあ!」


 好評なようで何よりであります。料理番組というよりグルメ漫画やドラマのような語り口だったが、そこはまあ、気にしない方向で。


「正直に言って、ここまでの完成度を誇るものが生まれていたとは想像もしていなかったわ。これだけのものが市中に出回っているのなら、ソイソースを始めとしたソース類の流通が増えたのも納得ね」


 ソース類はすべて地方の村々で、自分たちが使用する用に細々と作られていたものだからねえ。逆に言えば、それらの村以外では用途不明の謎液体な扱いだった。実際に「これは売れるのでは!?」と買い付けたクンビーラの商業組合所属の若手行商人さんも、使い道が分からなくて在庫がはけずに途方に暮れていたもの。

 今ではクンビーラを中心に需要が高まり始めていて、生産地では「乗るしかない!このビッグウェーブに!」という状態らしい。外貨を獲得して村が豊かになる絶好の機会だからねえ。奮起するのも当然という話だわね。


「伝手をたどってウドン作りを教わった時に「本格的にやるつもりならクンビーラへ行っておけ」と言われたが、こういうことだったのか。てっきり「いい加減に実家に帰れ」と言われたんだと勘違いしてたぞ……」


 クンビーラの街で本格的にうどんが広まったのはソイソースを発見して、そしてカツうどんを開発して以降になるけれど、それ一辺倒ばかりだった訳ではない。スープがコンソメベースのものだったり、リッドさんが作ったように汁なしで具材にからめるようなものもあった。

 当然、食べる方にも好みがあり、全体としてみれば新食材を用いながらも既存の味付けをベースにしたものの人気が高かったらしい。


 さて、クンビーラは自由交易都市と呼ばれているだけあって、物だけでなく多くの人も集まってくる街だ。つまり外部の人間も多いということなのね。

 そうした人々が美味しかった記憶と一緒に地元や別の街にうどんを広めていった結果、新しい調味料であるソース類を使ったうどん料理は、クンビーラを中心とした一帯だけのブームにとどまることになったのでした。


「あれ?そういえばシャンディラではうどんを見かけなかったような?」

「それこそ俺があの街に長くは滞在しなかった理由さ。シャンディラは迷宮から多種多様な珍しいものが取れるからな。自分たちこそが流行や文化を発する側だという自負があるらしい。だからなのか、ウドンのように他所で生まれたものに対しては排他的なんだよ」


 リッドさんの説明に店主さんだけでなくナンナ女史も頷いている。拠り所になることやものがあるのは決して悪いことではないのだけれど、シャンディラの場合はちょっとそれに固執し過ぎている感じらしい。


「何にでも言えることだけど、今あるものが明日あるとは限らないのにね。もしも迷宮がなくなってしまったら、シャンディラの人たちはどうするつもりなんだろう」


 領主側が深層を独占しただけで、冒険者協会や街の店は相当混乱していたというのに。


「おいおい、恐ろしいことを言うのはやめてくれよ。ただでさえきな臭い噂が流れてきているんだからな」


 苦い顔をした店主さんに注意されて、ぺこりと頭を下げる。パーイラからすればシャンディラはお隣さんだからね。何か悪いことが起きれば確実にその影響を受けてしまう。ちなみに、きな臭い噂というのは、先の深層独占の件だろう。


「あ、そのことならもうじき解決するはずですよ。お互いに不幸なすれ違いがあったというか、勘違いだったみたいなので。誤解を解くために話し合いの場が設けられたそうです」


 正確には設けられる予定なのだけれど、そこまで詳しく語る必要もないでしょう。

 さて、場も落ち着いてきたことだし、今のうちにで緊急クエストをクリアした認証をいただきましょうか。つい、と依頼書を出すと慣れたもので――それが良いことなのかは微妙なところだけれど――ナンナ女史も店主さんも既定の場所へとサインをしてくれたのだった。

 後は冒険者協会へ報告すれば晴れて依頼は完了となる。そしてそれは翌日でも構わないとなっていたので、今日はこのままお休みログアウトさせていただく次第であります。


「到着して早々の突発事件だったけど、無事に終わらせることができそうで良かったよ……」

「強引に連れ出されたのはあれだったけど、これだけ美味しいものを食べさせられたら認めざるを得ないわ。強引に連れ出されたのはあれだったけど」


 ナンナ女史的には大事なことだったらしく二回言われてしまった。研究を無理矢理に断ち切らされたのだから、研究者的にはそう感じてもおかしくはないのかも。

 でもねえ、絶食三日目となると本気で命が危険になってくるからなあ。ゲーム的なことを言えば空腹状態がマックスになって飢餓状態の状態異常が発生していたはずだ。能力値も軒並み低下していただろうし、その状態で研究を続けていたとしてもあまり成果は得られなかったのではないかな。


「あ、そうだ!一つお聞きしたいんですけど、ナンナさんが今研究している調味料って、ソイソースと同じ豆を原料にした土色の粘土や泥のようなものじゃないですか?」

「!!ど、どうしてそのことを知っているの!?しかも原料まで!?」


 それはね、リュカリュカの中の人(ゆうか)がリアルニポン人だからだよ。そして彼女の反応から察するに件の品がお味噌である可能性が一段と高まってきましたよー。


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[気になる点] >でもねえ、絶食三日目となると本気で命が危険になってくるからなあ。  この辺を連れ出す説得に使う流れだったら、ストレイキャッツを実例に出してやれば効果があったのかな?  極限の空腹で…
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