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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十九章 学園都市でのひと騒動

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825 変化し続けること、生き残ること

 十数分後、テーブルの各個人の席の前にはいくつかの料理が小鉢のような食器に入れられて並べられており、まさしく試食会の様相を呈していた。ああ、別に嫌だということではないよ。ただこの展開にちょっと困惑しているだけ。


 それにしても料理人のリッドさん、やっぱりどこ見覚えのあるお顔なのだよねえ。でも、どこで出会ったのかが全く分からない。ここまで強く印象に残っているとなると、単にすれ違っただけということではないと思うのだけれど。うーん、気になる。


 そのリッドさんが作った料理ですが、「そうきたか!」というのが正直な気持ちだった。


「最近出回るようになってきた新食材、ウドンのミートソース掛けと、同じくウドンをウスターソースというもので絡めたものだ」


 どうやら彼はうどんをパスタ代わりに扱っているようだ。まあ、『猟犬のあくび亭』でもソイソースが見つかるまでは同じようなものだったので、それについては問題ないね。

 ただ、ウスターソースを使ったものの方はちょっと気になる。


「ウスターソースはここから少し北にある地域で作られている特殊な調味料で、大雑把に言うと様々な野菜や香辛料を煮詰めたものよ。見た目はいまいちかもしれないけれど、たくさんの食材がもとになっているだけあって奥深い味わいね」


 戸惑っていると思われたのか、ナンナ女史からの解説が入る。研究者や学者の中には知識コレクターとでも言いたくなるような、自分だけが知っていればいいとか自分だけが理解していれば十分と態度の人もいるのだけれど、彼女はそう言った連中とは真逆の、得た知識を披露したり広めることに喜びを覚えるタイプみたい。

 今回の場合は見当外れではあるのだが、その心遣いが嬉しかったので「ありがとうございます」とお礼を言っておく。こうやって小さなコミュニケーションを積み上げていくことが大事なのです。リアルでも一緒だよ。


 そのウスターソースうどんですが……、あらかじめソースで味付けしていたお肉や野菜にゆであがったうどんを絡めているようだ。レトルトのカップ焼うどんや焼きそばに似た状態だわね。

 あれはあれで嫌いではないので、さっそく一口頂いてみる。


「うん。美味しい」


 味の方はおおむね想像通りだったのだが、キャベツのような葉物野菜がしんなりしている部分とシャキシャキしている部分の二通りあって食感を楽しませていた。地味ながらも心憎い演出だわ。だけど、だからこそ少し物足りなさも感じてしまう。


「どうかしたのか?」

「好みの問題かもしれないですけど、これ、ウドンも一緒に焼いてみたらもっと美味しいかも?」

「なっ!?」


 その瞬間、ガラピシャーン!とリッドさんにナンナ女史、そして店主さんの三人の背後に雷が落ちた、ような気がした。


「す、すぐに試してみよう!」

「私の分もお願い!」

「こちらもだ!」


 急いで厨房へと走っていくリッドさん。慌て過ぎてけがをしなければいいのだけれど……。


「リュカリュカ、良かったのですか?」

「いずれ誰かが気が付いたことだよ。それにどんな手のくわえられ方をしてもうどんであることに変わりはないもの」

「うどん発祥の地がクンビーラであることは既に知れ渡っておりますわ。様々なアレンジ料理が生まれていくことで自然とクンビーラの名前も広まっていく、ということですわね」

「そういう狙いもあるかな」


 基本に忠実な定番の品を保ち続けていくことも大切だけれど、新たな変化が生まれ続けていかなければどんなものでもいずれは衰退してしまうからね。

 ちなみに、ミートソースの方は極めてパスタ寄りの調理をされていたので、少し変わり種のものとして普通に美味しく頂けました。洋風の味付けもありだね。リアルでもハーブを加えてみるとかして試してみようかな。


「まさか、これほどに違ってくるものなのか……」

「これまでも十分に美味しかったけれど、焼いて香ばしさが加わったことでより一層完成度が高まった気がするわね」

「うっま!こいつは美味い!」


 焼うどんも好評なようで何よりだ。だけど、やっとスタート地点に立ったばかりだとは予想もしていないのだろうねえ。

 一口に焼うどんと言っても、ウスターソース以外に塩コショウやソイソースを用いればまた違った味になるし、焼くときに出汁を少し加えて蒸し焼きにするとこれまた奥深い味わいとなるのだ。もちろん肉や野菜といった具材の種類を変えればそれだけで大変身するぞ!

 新しいアレンジが生まれないようであれば、クンビーラで改めてそれらを売り出すのもありかもしれない。


 こうして合同試食会前半の部は無事終了となった。が、なぜだかパーイラ組からの圧力が増すことになってしまった。これは下手なものを出すことはできないね。元々はナンナ女史の研究室で取り出した材料を使ってボクが調理するつもりだったのだが、予定変更した方が良さそうね。


「これは豪勢なものが出てきたな」


 取り出しましたるは毎度おなじみ、『猟犬のあくび亭』料理長のギルウッドさん渾身のカツうどんでございます!うどんにソイソースという新食材を用いていることに加えて、貴重な油を大量に使って作るカツ、しかもそれが卵でとじられて乗っているという、見た目も華やかな一品だ。


「うどん発祥の『自由交易都市クンビーラ』で一番人気を誇るカツうどんだよ。しかも元祖となる『猟犬のあくび亭』で提供されているものとなります」


 発祥に元祖と仰々しい肩書きの連続にナンナ女史たちが目を丸くしている。しかしその一方で、リッドさんだけは異なる点に驚愕していた。


「は?な、なあ、今『猟犬のあくび亭』と言わなかったか?」

「言いましたけど?」

「……マジか。そこ、俺の実家なんだが」

「え?」


 直後、彼を除いたその場にいた五人の驚く声が重なった。誰かが間違えて食堂に入って来ないように、入り口ををしっかり占めておいて正解だったね。寝ている宿泊客をもれなく全員たたき起こしてしまうところだった。


「まさかリッドさんが女将さんが言ってた旅に出ている息子さんだったなんて。どうりで何となく見覚えがあったはずだよ……。あれ?でも『迷宮都市シャンディラ』に居るって手紙では書かれていたはずだよね?」


 てっきり遭遇するならあちらでだと思っていたのに。


「手紙を出したのはもう一カ月以上も前の話だぞ」

 

 しまった。こっちでは情報網や流通網が未発達なのだった。つまり手紙が女将さんたちの元に届くまでの間に、リッドさんは次の場所へと移動していたということだった。

 いや、それならそれで行き先くらい書いておこうよ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「は?な、なあ、今『猟犬のあくび亭』と言わなかったか?」 >「……マジか。そこ、俺の実家なんだが」  下手に旅して美味いもの探しをするより、故郷に美味いものがあった。  とか言う悲しい青…
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