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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十八章 二度目のシャンディラにて

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816 後は任せた先に行く

 時間的な余裕もなければ、下手に接触すれば逆に『土卿王国ジオグランド』側から怪しまれてしまうということで、おじいちゃんたちとシャンディラ上層部との話し合いは行われないこととなった。

 その代わり公表しても良さそうな部分、主に冒険者協会に関すること書面で――極秘に――渡すことになったのでした。


「独断でやって大丈夫なの?」

「監視役だから元々それくらいの権限はあるんだよ。バレるとうるさそうなやつらがいるから、極秘文書ってことにしてるだけだ」


 これであっさりシャンディラの問題が解決ということにはならなくても、中層部後半と深層の一部くらいは解放してもらえるだろう、というのが秘書さん並びに支部長さんの見解です。


「シャンディラからすればすぐ隣でドラゴンが眠っているようなものだからねえ。いつたわむれに手を出されるかもしれないという恐怖があるから、せめて軍備を厚くしておきたいのだろうさ」


 おばあちゃんの例えに、鼻提灯を膨らませながらお腹をボリボリかいているブラックドラゴンの姿が脳裏によぎったのだが、あれは例外中の例外だと頭を振って即座に追い払う。


「それにしても『冒険者協会』の本部はかなりダメダメじゃない?」


 今回の件だって最悪の場合は協会支部がシャンディラから追い出されるか、もしくは強制的に下部組織に組み込まれるかしていたかもしれないのだ。つまりは『火卿帝国フレイムタン』での失敗を繰り返すことになる訳で、アンクゥワー大陸全土に無能をさらすことになっただろう。

 例え『土卿王国』に深く食い込めたとしても、全体としてはマイナスとなったのではないかしら。


「協会の本部は別の大陸にありますから、こちらでのことは全て些事だと取り合おうとしていないのかもしれません」


 さすがに思うところがあったのか、秘書さんが毒満載の推論を披露してくれる。


「以前から我々協会職員の中ではそれとなく噂されていたことなのですが、どうやら本部側はこちらのアンクゥワー大陸を下に見ているようなのです」

「それは合っているようで間違っているね。あちらの大陸に住むほとんどの者たちがこちらを見下していると言っていい」


 そこにおばあちゃんの嬉しくない補足が追加される。あちらでは『古代魔法文明期』の終了後に『大陸統一国家』のような一大勢力が生まれなかった分だけいち早く現在の社会環境、大小様々な国と『冒険者協会』と『七神教』という二つの超国家組織による共存共栄が構築されていたのだそうだ。

 さらにアンクゥワー大陸との交流もあちらが主導してけん引する形で進んでいった、ということになっているらしい。


「ほほう。つまり彼らかすればボクたちは、未成熟な社会しかない新大陸の原住民、その子孫といったところなんだね」

「まあ、当たらずしも遠からずだろうね」

「協会の本部勤務ともなればエリート様ばかりだ。一般人に輪をかけて差別意識を持っていても不思議じゃねえな」


 だからと言って、やるべき仕事を放置していいものではないと思うのだけれどねえ。頭では理解していても、感情はついていかないということなのだろうか。いずれにしてもボクたちからすれば迷惑な話だ。


「協会本部があてにならないのは理解した。これからは国外との連携も視野に入れて動くべきか」

「よろしいのですか?」

「無用ないさかいが起きて困るのは『土卿王国』も同じだ。他の大国に口を出されるきっかけになりかねないからな」


 おじいちゃんと秘書さんの間で密約が結ばれてしまった?『火卿帝国』にしても『水卿公国』にしても、本格的に介入するだけの力はなくても足を引っ張るくらいの嫌がらせはしてくるかもしれない。その辺りを上手く突いてやれば、『土卿王国』の連中もシャンディラを始めとした周辺と友好関係を築いておくべきだと考えるかもね。


「とりあえずはこれで何とかなった、かな」

「そうですね。後は任せてしまっても大丈夫でしょう」

「問題なのは、わたくしたちの旅の準備がほとんどできていないということですわね……」


 ミルファに言われて顔を見合わせてしまうボクとネイト。そうだよ、その要件があったのだった。


「どの店の商品も悪い物はなかったが、『大霊山』のふもとにまで行くとなるとロープなどのいくつかは強度に不安が残るな」

「逆に回復薬なんかはちょっと効果が低くても、材料がだぶついている今のうちに安くなっている物を買い込んでおくのはありかもしれないねえ」


 旅人としてもベテランなだけあって、おじいちゃんもおばあちゃんも買うべき物とそうでない物の取捨選択が早い。


「あの、皆さんは迷宮探索にやって来られたのではないのですか?」


 遠慮がちに会話に割って入ってきたのは秘書さんだ。


「違いますよ。ボクたちはこれから『大霊山』へ行ってみるつもりです」

「あ、そうだったのですね」


 どことなく会話がかみ合わないというかズレている気がしていたけれど、これが原因だったのね。まあ、『転移門』を使ってまでしてシャンディラにやってきたのであれば、普通は迷宮が目的だと思うものかしらね。


 エルの話によると、シャンディラから伸びる西街道を使うならそれほどの苦労もなく『大霊山』のある程度近くにまでは行けるらしい。この「ある程度近く」というのが曲者でして。見上げて鑑賞するには十分な雄大さを感じることができる距離なのだが、ふもとと言うには離れ過ぎているのだ。

 さらに困ったことに、そこから先は鬱蒼(うっそう)とした森が広がっているそうで、生息している魔物も凶暴なやつばかりらしい。

 どこかの『聖域』なんて呼ばれていた森をほうふつとさせる話だわね


「それでしたら、少しだけ大回りになりますが『学園都市パーイラ』に立ち寄ってみてはいかがでしょう」


 秘書さんがそう言った途端、「その手があったか!」と手を打つおじいちゃんたち。


「あそこの学者という名の変態たちなら、フィールドワークとか言いながらとんでもない場所にまで入り込んでいたりするからな」

「あの頭のおかしい連中なら、質の高い道具類を取りそろえる独自ルートを持っていてもおかしくはないねえ」


 ……なんだろう、無事に道具類が購入できそうだと喜ぶべきところのはずなのに、そこはかとなく訪ねるのを拒否したくなる言いようなのですが。

 だけどきっと向かわざるを得ないのだろうなあ……。 


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― 新着の感想 ―
[一言] >あそこの学者という名の変態たちなら、 >あの頭のおかしい連中なら 変態達「俺達の夢は、いつか“こんな事もあろうかと”と言う言葉を使える場面に出くわすことです!!」(よだれダラー)  こう…
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