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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十八章 二度目のシャンディラにて

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810 道なき道は進めない

 次の目的地を『大霊山』にすることについては、すぐにミルファもネイトも賛成してくれた。それ以外に選択肢が見つからなかったという方が適当だったのかもしれないけれど。


 クンビーラ公主様たちからも反対はなく引き留められることもなかった。いや、どちらかと言えばさっさと出ていけという雰囲気だったのよね。

 あ、嫌われて追い出されそうになっているということではないよ。どうもね、『水卿エリア』からやって来ている連中の中に、一定数ボクのことを探している奴らがいるらしいのだ。


「うーん……。あえていろいろ放り投げてきちゃったからなあ」

「間違いなくそれが原因やろうな」

「そうは言っても、あのまま全部解決するまで残っていたら、間違いなく公国に取り込まれていたんじゃないかな」

「リュカリュカの言う通りですわね。仮に大公家や中央があきらめたとしても、ジェミニ侯爵が手放すことはなかったと思いますわ」

「むしろ自分が先に目を付けたのだから手を出すなとけん制していたのではないでしょうか。そうでもなければ見ず知らずの相手を養女にしたりはしないでしょう」


 公主様たちの方針を説明をしに来てくれたエルと話をしていると、なぜだか途中で彼女は遠い目をするようになってしまった。


「男爵家クラスの下級貴族ならそんな話もないことはないで。やけどそれやって歴史の浅い新米貴族の場合や。侯爵みたいな上級貴族がわざわざ嘘の設定作ってまで養女にするとかありえへんから!」


 あれが異例中の異例だということはボクも理解していましたよ。だから文句はジェミニ侯爵に言ってください。


「まあ、孫だけ本気だったっちゅうことやろうな。無理矢理連れて行くようなことはせえへんやろうけど、リュカリュカがおるんが分かったら次は見知った相手が派遣されるかもしれん。しばらくクンビーラを離れるんはありやで」

「了解。それじゃあ急いで準備して早めに出発することにするよ」


 テントをはじめとした野宿をする際に必要な物品は揃えてあるから、基本的には傷薬等の消耗品や食料を買い込めばいいだろう。


「それなんやけど、リュカリュカたちは迷宮都市(シャンディラ)には行ったことがあるんよな?」

「うん。『土卿王国ジオグランド』に行く途中で寄っただけだけど」


 懐かしいなあ。初めての長距離の旅ということで、あれが足りないこれがないと毎日が大騒ぎだった。


「そんなら旅の準備はせんでええから、明日『転移門』でシャンディラに向かってな。あ、使用料はこっちで用意するから金の心配はいらんで」

「え?『転移門』を使わなくちゃいけないほど切羽詰まってるの?」

「ん?ああ、そっから説明せないかんのやったんか。あのな、『大霊山』の近くまで行くのに一番楽なんがシャンディラから延びてる西ルートなんよ。大まかに言うて東と西、それと北ルートの三つがあるんやけど、東ルートはほとんど人が通ってないから荒れ放題で、北ルートは難所が多いんや」


 わーお。聞いただけでも大変そうだわ。


「まあ、それより何よりクンビーラからやと、北と東ルートに入るには『武闘都市ヴァジュラ』を通らなあかんねん」

「はい、アウト!おとなしくシャンディラから西ルートで向かうことにするよ」


 表向きはともかく、東にある闘技場を有する都市国家ヴァジュラとは険悪なままの状態が続いている。クンビーラ公主家とも親しいボクたちが顔を出せば、確実に面倒ごとに巻き込まれてしまうだろう。


「シャンディラに向かえっていう理由はわかったよ。でも、『転移門』を使うのはどうして?」


 『水卿エリア』からたくさんの人がやって来ているとはいえ、すぐに身を隠さなくてはいけないほどではなかったはずだ。


「実は『土卿王国』の立て直しの件、あれがようやっと動き出すらしいんやて」


 ボクたちも巻き込まれることになった『ドワーフの里』の孤立化や魔物の襲撃は、簡単に言ってしまうと中央集権化を進めようとする貴族たちの企みだった。ここに王家の思惑だとか、小物連中が行っていた横領などの犯罪が絡んできて複雑化することになった訳だね。

 そして冒険者に手を伸ばし、禁制品の『隷属の首輪』の使用という言い逃れができない証拠が出てきたことで頓挫(とんざ)することになったのだった。


 ところが、権力を握っていた貴族たちは軒並み失脚したのだけれど、冒険者たちを不当に扱っていたことを名目にして『冒険者協会』が国の中枢に食指を伸ばし始めたのだ。

 これに待ったをかけたのが『七神教』だった。そもそも『土卿王国』内の冒険者協会は失脚した貴族たちと結託して様々な不正を行っていた。要するに、先に挙げた小物に彼らも含まれていた訳で、とてもではないが被害者面をできる立場ではなかったのだ。


 それでまあ、あれやこれやとありまして、王家を中心とした一派と『冒険者協会』と『七神教』の三つが協力して復興と技術開発を行っていくことになったのだった。『土卿王国』も『冒険者協会』も失態を犯していたから、『七神教』からの要望をはねのけることができなかったのね。


「それだけ決まるまでにどれだけの時間がかかっているのやら」

「他人事みたいに言うてるけど、『七神教』が口を挟んだんはリュカリュカが提言したからやんか」

「だって、あのままだと『冒険者協会』が力を持ちすぎると思ったんだよ」

「そこは別に否定せんわ。それでやな、ようやっとひと段落するからあの人らもちょっとだけ手隙になったみたいなんや」


 エルの言葉にピクリとミルファとネイトが反応する。


ディラン(おじいちゃん)クシア高司祭(おばあちゃん)、やっと解放されるんだ」

「解放は無理やな。どこも自分とこの勢力を伸ばすことにばっかり目が向いてしもとるから、あの二人がおらんようになったら本格的に権力闘争が始まってしまいそうなんやと」


 名前が広く知られていることに加えて、実際に『隷属の首輪』を装着させられた被害者だから重要な役割を任されているだろうとは思っていたが、想像以上に厄介なことになっているみたい。

 もしかすると上手く立ち回れば国を丸ごと一つ手に入れられる、とでも考えている人が多いのだろうか?夢みるなとは言わないが、欲に駆られれば待っているのは破滅だけだと思うのだけれど。


「それが理解できんやつらも多いんよ。まあ、そういう訳やからお二人の気分転換に付き合ったって」


 そう言いながら彼女が取り出したのは、ボクたち『エッグヘルム』への指名依頼書だった。しかも依頼主はデュラン支部長……、ってこれ拒否できないやつ!?


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