808 ヒントを探して
クンビーラへ帰還したはいいものの、まさか次の行き先が分からずに途方に暮れることになってしまうとは……。頼みの綱だったブラックドラゴンさえも、
「空飛ぶ島の在りかだと?そんなものが分かっているなら、とうの昔にわれらドラゴンが叩き落しておるわい」
こんな具合で、ご存じなかったのでした。
まあ、『大陸統一国家』も終盤ではドラゴン種族をはじめとしてあちらこちらと喧嘩をしていたらしいからねえ。迫害を始めたから求心力を失ったのか、それともその逆だったのかは不明だけれど、ともかくそうした争いが栄華を極めた大国が滅亡する一因となったのは間違いない。
そういう事情があるので、破壊を免れた上に再び大陸を支配するという妄執に取りつかれた死霊たちがうようよいる『浮遊島』がどこにあるのか判明していれば、ブラックドラゴンの言う通り徹底的に破壊されて撃墜されていたことだろう。
「うーん、完全に振出しに戻っちゃったかあ……。あ、でも全然それらしい情報をつかめていなかったから、振出しに居座ったままっていう方が正解なのかもね。あははははー……」
などと、ついつい自虐的なことを考えてしまう始末だ。
ちなみに、これまでの行動の結果イベントが不完全ながらも終了していた……、などということもなく。メニュー画面の発生中イベント一覧に、『宝石の子どもたち』と並んで表示されたままとなっていた。
「思い返してみると、随分と長い期間このイベントに付き合ってることになるよね」
イベントの発生がクンビーラ近郊の地下遺跡をクリアした直後くらいのことだったから、かれこれリアル換算でも半年以上のお付き合いということになる。
「最初は各エリアに残されているだろう『浮遊島』に繋がる転移の魔法陣とか転移装置を壊して回るつもりだったんだよね」
各エリア名前の由来となっているように、『大陸統一国家』時代に実際にアンクゥワー大陸を分割して統治していたのは四人の有力貴族だったとされている。当然『浮遊島』へと行き来するための転移装置があるはずだ、と考えたのでした。
だけど振り返ってみると、緋晶玉を回収したり使用不能にさせたりする旅でもあったように思う。
「最初に緋晶玉を発見したのも、あの地下遺跡だったっけ」
……おや?最初?振出し?
「そういえば緋晶玉が『大陸統一国家』の施設に必須な燃料だってことは、どこで教えてもらったのだったっけ?」
確か遺跡の地上部分でドラゴンに似ていると言えなくもない変なゴーレムを倒したことで手に入れたのが最初だったはずで、それは地下に降りてすぐの場所で閉じられた扉を開くために使用して……。
「その奥にあった絵!そうだ、そうでした!」
記憶の海から当時のことをサルベージする。記録、『冒険日記』に残っていれば簡単に調べられたのだけれど、緋晶玉関連はイベントのネタバレに当たるらしく、運営の検閲でかなりぼやかした記述になっているので、参考にできないのですよ。
原本は持っていないのか?
持っていません。
このご時世どこから情報が流出するか分かったものではないからね。セキュリティが強化され続けている反面、ハッキング技術も日夜進化している。運営から受け取ったという返信をもらうと同時に消去するようにしていたのだ。
あと、割とノリと勢いで書いているので、読み返すのが恥ずかしいという理由もあったりします。
「どうせだから直接行って見てみようかな」
ブラックドラゴンまで外れとなると、クンビーラの街中ではヒントを得られない可能性が高い。それならいっそのこと直接出向いた方が何かが見つかるかもしれない。
そうと決まれば善は急げだ。『猟犬のあくび亭』の女将さんに、別行動中のミルファとネイト宛の「街の外の例の場所に行ってる」という伝言をお願いしてから、北門を抜けて街の外へ出る。普通に歩けば約一時間の道のりをスキップ機能ですっ飛ばす。
到着した地下遺跡、表向きは『三国戦争』期の砦跡となっている場所は以前と違って多くの人がいた。いくつかのテントが並べて建てられていて、そちらに向かって行列ができている。
「リュカリュカやんか。何しにきた……、ってもしかして下に用があるん?」
偶然居合わせた顔見知りの問いに小さく頷く。
「えーと、エルさんや。これは一体全体どういうこと?」
「どういうことやないで。あんたらが公国で色々やらかしたせいで、向こうの行商人がぎょうさん来るようになったんや」
なんと行列に並んでいるのは全員『水卿公国アキューエリオス』から来た商人たちなのだとか。これまでに比べて倍どころではない数がやって来るようになったため北門での検閲が追い付かず、この砦跡を臨時の検問所として使用しているという話だった。よく見ればテントにいるのは衛兵さんたちだわ。
どうやらボクたちと別れた後、ボッターさんがここぞとばかりに販路を広げてきたらしい。
「お隣のジェミニ領が本拠地のやつらだけやのうて、他の領地に店構えとる連中も多いで。中には首都からわざわざ来たっちゅうんまでおったわ」
あー……。ジェミニ侯爵をはじめポートル学園でお弁当を一緒に食べていた子たちにも、ソイソースや中濃ソースを使った料理は評判が良かったからねえ……。
出入りの商会などに問い合わせを行ったのかもしれない。
「お陰で、ほんまの商人なんか見極めるんが大変や」
利にさとい商人たちに紛れ込むようにして諜報系の連中も入り込んでいるらしい。一番の目的はブラックドラゴンがクンビーラの守護龍になっていることの確認かしらね。次点が国力や戦力の調査といったところか。
エルがわざわざ出張ってきているのは、判明しても捕らえることはできないけれど「知っているぞ。余計な真似はするなよ」という無言の圧力をかけるためなのだとか。
「まあ、こっちの連中は裏取りがメインやろうから、それほど心配することはないやろうけど」
それでも総合的な国力が違い過ぎるから、少しでも舐められないようにそちらの社会ではそこそこ名の知られたエルまでもが動員されているみたいです。
「この機に仕掛けてくるやつがいると思う?」
「公国に責任を擦り付けようっちゅう魂胆が見え見えや。うちならやらんわ」
ここまで極端な状況だと、かえって暗殺といった危険は減るらしい。それでもゼロではないから、お城では連日警戒が続いているそうです。




