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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ

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804 これにてひと段落

 遺跡の異常事態、もとい非常事態にやって来たキューズ。しかも国から要警戒人物としてのお触れが回ってきていたのだから怪しまれるのは当然だわね。

 そんな人物がいきなり姿を消したすぐ後に魔力不足で遺跡が維持できなくなったとなれば、因果関係があると考えてしまうのは仕方がないことだろう。

 実際、制御室のこんぴーたにとどめを刺したのはキューズだったからね。これについては結果がすべてだから、ボクたちとの戦闘に必死だったというのは通用しません。


 そしてそれはあっという間にバーゴの街中に、さらには数日のうちにウィスシー沿岸の町々へと噂という形で拡散されることになった。


 え?ボクたちは何もしていませんよ。

 しいて言うなら、ゴーストシップサルベージの社員さんたちや交易船の船員さんたちがあちこちの酒場で危機としてこれ見よがしに話すのを止めなかっただけ、というところかしら。


 まあ、他所はともかくバーゴではすぐにそれどころではなくなってしまったのだけれどね。何せ街のすぐ近くに、最大規模の船をはるかに上回る巨体を持っているだろうドラゴン種が現れたのだから。幸いにもそのドラゴンは遺跡を中心とした一帯をぐるりと一回りしただけでこつぜんと姿を消したのだった。


「それでも生きた心地がしなかった人はたくさん居るだろうけど」

「まあ、何といってもドラゴンですから」

「あらかじめ話を通しておいたヴェンジ社長たちですら固まっていたくらいですもの」


 今の会話で気が付いた勘のいい人たちもいるだろう。種明かしをすると、件のドラゴンは水龍さんで、ゴーストシップサルベージの面々に港湾関係者や船乗りたちの顔役の一人である交易船のスウィフ船長と引き合わせるために足を運んでもらったのだ。


「小さくなれるんなら、最初からそっちの姿でいて欲しかったよ……」


 大きなため息と一緒にそんな言葉をこぼしたのは、社屋になっている灯台でボクたちと一緒にお茶をしていたカーシーさんだ。


「いやあ、最初からあのサイズだとウィスシーの主だと信じてもらえないかと思いまして」


 そう返すとわずかながらに視線を泳がしている。まあ、チビ龍サイズだとどうしてもマスコット的な愛らしさの方が勝ってしまうからね。畏怖(いふ)を覚えるどころか、威厳を感じ取るのも難しいと思う。


 ちなみに、ヴェンジ社長以下男連中はというと、キューズと遺跡について近くの町まで拡散しに行っている。カーシーさん公認で酒場に行けるとあって随分とはしゃいでいたよ。もっとも、羽目を外し過ぎた分については自己責任となるそうだけれど。色々と彼らなりのルールがあるみたい。


「領主館の方もかなりの騒ぎになっているようだよ。あんたたちの狙い通り領主様たちはドラゴンが現れたのは遺跡の様子を見るためだと考えたらしい。遺跡の機能停止で街を危険にさらしてる上にドラゴンを誘い出してしまったってことで、キューズだっけ?あいつが街に入るのを手助けしたお貴族様たちは軒並み首が入れ替わるって話さ」


 ボクたちは遺跡の完全停止イコール安全だと判断したが、領主のヴァルゴ侯爵はいまだに危険な状態は続いていると考えているらしい。これからは徐々に外部の影響を受けて風化していることになるから、あながち間違ったものではないかもね。


「キューズの失敗の噂を聞いて北の方でも動きがあったようだし、これで何とか一件落着かな」


 自分たちの領地へと引きこもっていたスコルピオスとサジタリウスの二伯爵だが、これにはキューズの動きから目をそらさせて時間稼ぎをするという意味合いもあったらしい。起死回生になるかもしれない手段が失敗となったことで、「もはやこれ以上の抵抗は無意味だ」と領境に展開していた国軍に首を差し出してきたのだそうだ。伯爵たちの嫡子(ちゃくし)が。


 ここから先は後々聞いた話となるのだけれど、首謀者と目されていた二伯爵を自ら討ったことで家族が処刑されるのを免れたそうだ。

 とはいえ、国を割っての内乱寸前まで発展してしまったのも事実で、その近しい血縁者をそのまま領主にすることなどできはしない。伯爵家の名前こそ残るがそれを継ぐのは大公様たち中央の息がかかった遠縁の人で、一族のほとんどはまとめて僻地へと追いやられて監視され続けることになったのだった。


「それでも温情がある方やで。慣れへん僻地での生活に心と体がむしばまれてしもて、次々に病死してまう、っちゅうんが定番やからな」


 そんな恐ろしい貴族様の裏事情を交えて、クンビーラのお庭番ことエルが『水卿公国アキューエリオス』での顛末を語ってくれることになるのだった。


 さて、話を今に戻しまして。


「例の手紙たちのどれかが無事に到着すれば、後は裏を取るなりあっちで勝手にやるでしょ」

「その一環で領主様を飛び越えて国のお偉いさんがやって来るかもしれないんだろう。今から胃が痛くなりそうだよ……」

「カーシーさんたちには申し訳ないけど、そこに同席するわけにはいかないからねえ」


 この国のためだけに働くつもりはないので、大公さんたちに捕まる訳にはいかないのです。よって、この後すぐにでも『七神教』の神殿にある『転移門』でクンビーラへと移動するつもりだ。


「手紙の通りで間違いないって言えばいいし、最悪全部ボクたちのせいにしてくれても構わないからさ」


 そのくらいの汚名は国外に高飛びしてしまえばどうということはなくなる。が、それは余計な気遣いというやつだったらしい。


「はんっ!なめるんじゃないよ。そいつは厄付きの客だって見抜けなかったこっちの責任だ。うちの大将ならきっとそう言うはずさ」

「……確かにそうだね。そのあたりの受け答えはお任せするよ」

「任されたよ。……また顔を見せに来てくれるんだろう?」

「そのつもりだけど、実現するかどうかは懐具合かな」


 『転移門』は便利なのだけれどね。その分利用料の方が少々お高い感じとなっていまして……。ぼったーさんたち商人が行商の際にてくてく自分の足で動き回っているのが納得のお値段なのよ。


「あらまあ。水龍様と対等に話ができても、金には勝てないんだねえ」


 苦笑いの表情ながらもしみじみといった様子で独り言ちるカーシーさん。男連中があの調子だから、色々とお金のトラブルがあったのかもしれない。

 こうしてボクたちは『水卿公国』での最後の時間をのんびりと過ごしたのでした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「あらまあ。水龍様と対等に話ができても、金には勝てないんだねえ」  そう言やあ、遺跡攻略の報酬って……(小声)
[一言] 誤字脱字3個を返品不可でプレゼント?
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