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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ

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801 ガス欠寸前

 怪しい機械改め『圧縮粉砕式魔力抽出装置』の上部から伸びていたパイプを徹底的に破壊したので、仮にこれを再起動させたり現代式の高性能魔力抽出器に入れ替えたとしても、すぐにバーゴ遺跡に魔力を送ることはできないだろう。

 何せエッ君と水龍さんが飛べることとその体格の小ささを存分に発揮して、天井内部まで入り込んではこれでもかと言うほどに壊しまくっていたからねえ。


「エッ君、お疲れ様。水龍さんもご協力ありがとうございます」

「なに、あの時代の遺跡が動き出すと騒がしいことになりそうだからな」


 好き勝手暴れまわれたからなのか、二人ともどことなくすっきりした様子だわね。水龍さんはともかく、エッ君は先ほど激戦を終えたばかりのはずなのだけれど……。ドラゴン種族のタフネスさ、恐るべし……!


 とにもかくにも、これでこの部屋でやるべきことは終えたと言えるのではないかな。という訳でベルトコンベヤー風のものが突き刺さっている壁の向こうへゴーです。

 通用口なのだろう扉は分厚く重かったけれど、ロックされているようなこともなくすんなりと開くことができた。


「頑丈なのは、もしもの時のための事故対策かな」


 想像通りであれば、この先にあるのは魔力をたっぷり貯め込んだ緋晶玉だ。事故か何かで抽出していた魔力が暴走してしまった際に、連鎖的に緋晶玉が暴発するのを防ぐために分厚い壁になっている、のかもしれない。


「聞けば聞くほど物騒な代物だな……」

「燃料とかに使えるものなんて大なり小なり物騒なものだから。扱う側がそれをちゃんと認識していれば、そうそう事故なんて起きないものだよ」


 青白い顔で呟くベンに心構え的なことを告げる。まあ、それでも絶対とは言い切れないのだけれどね。

 例えば、探知できないくらい小さな隕石が落ちてくるといった不慮(ふりょ)の事故としか言いようがない想定外の事態が発生した場合などなど。どんなに対策を練って万全の備えをしていたとしても、それをあざ笑うかのようにひょいと飛び越えてくるのが自然の恐ろしいところなのだ。


 そんな風に用心しながら重い扉を押し開けて続く部屋へと入っていったのだが……。


「あれ?」


 目に飛び込んできた映像は、思わず間が抜けた声が漏れ出てしまうものだった。


「これだけ、ですの……?」


 疑問符付きのミルファの言葉がボクたち全員の気持ちを端的に表していた。体育館ほどの広さのそこには、隅の方に数個の緋晶玉が転がっているだけだったのだ。

 壁というかシャッター越しに続いているベルトコンベヤーに載せるのがお仕事なのだろう、小型重機に似た機械がぽつねんと所在なさげたたずんでいるのがもの悲しさを誘う。


 さて、転がっていた緋晶玉はどれもこれもハンドボールくらいの大きさはあったので、内包している魔力の量はかなりのものだと推測される。つまり、十二分に危険物だということだ。


「これは……、何か描かれていたのでしょうか?」


 ネイトの声に誘われて見てみると、壁に模様や汚れとはまた異なる塗料の跡らしきところがあった。さっそく〔鑑定〕技能を使用してみると、一方通行の転移用魔法陣、その出口だったことが読み取れた。


 はい。過去形であることからも分かるように、現在は使用できなくなっています。長年待機状態というかスリープモードになっていたから、管理ができずに魔法陣が擦り切れてしまったのかしらん。反対に送る側の方でトラブルが発生したことで、魔法陣の機能が停止したのかもしれない。

 いずれにしても、かなり昔の時点で緋晶玉の供給は途絶えてしまっていたようだ。


「この様子だと制御室を壊さなくても、そのうち燃料不足で機能不全になったかもしれないね」


 ただ、隠し水路の行き止まりで遺跡を再稼働した時には、それらしい注意や警告がなかったのが気になる。


「もしかすると、キューズでしたか。あの男を召喚するのに大量の魔力を消費したのではないでしょうか」

「確かにそれならあり得るのではなくて。召喚条件を緩和して探したりもしていたようですもの。想定以上の魔力が必要だったとしても不思議ではありませんわ」


 にゃるほど。予定外の召喚を行ったことで燃料が枯渇してしまった訳だね。それ以前の再稼働時にはまだ慌てるほど切羽詰まっていなかったから警告等はなかったのか。そもそも再稼働させるためには緋晶玉が必要な訳で、つまりは緋晶玉の入手手段があることが前提となる。よって保管庫が空っぽにちかくても何とかなる、と考えていたのかもしれない。


「結局は見通しが甘かった、ということになるんだろうねえ」


 もしくは、自分たちの思い通りにならないことなどないと図に乗っていたのか。大陸を統一して都市を空に浮かべていたくらいだから、増長していたとしてもおかしくはなさそうよね。


「新しく供給される心配もなさそうだし、ここに転がっている緋晶玉をお持ち帰り(ポッケナイナイ)すればミッションコンプリートかな」


 未だ完全な機能停止にはなっていないようだが、肝心の燃料がなくなってしまえばどうしようもないだろう。むしろそうなってしまうと、遺跡そのものが崩壊するというベタな展開が起こってしまうかもしれない。安全に焦らず退散するためにも、今しばらくは稼働状態を保ってもらった方がいい。


「さて、それじゃあ帰りましょうか」


 まだ自領に引きこもっては中央との対立姿勢を崩していない貴族が居たりするが、今くらいは一仕事終えてすっきりした気分に浸っても構わないでしょう。そもそも、そのあたりの対処は大公様たちのお仕事だしね。


 ボクでさえ怪しいと目星をつけたくらいだから、不審人物としてキューズの足取りも追っていただろうし、バーゴの町で目撃されたことが伝わるのは時間の問題だろう。

 おや?これって上手くやればバーゴの遺跡の機能停止の責任も、キューズに押し付けることができるのでは……?


 幸いにもバーゴで知り合ったのはゴーストシップサルベージ者の面々と、彼らを紹介してくれた交易船のスウィフ船長といった港湾関係者ばかりだ。ウィスシーの主である水龍さんを紹介できれば、ボクたちがやったことを完全に誤魔化すことはできなくても、しばらく時間稼ぎくらいはしてもらえるのではないかな。


 これは目立たずに遺跡から脱出する必要があるね。最後の最後でこれまた難題が飛び出してきたものだわ。


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