800 必要とされることで進歩する
ついに800話まできてしまいました。これも読んでくれている皆さんのおかげです。
そしてここで重大発表があります……。
パソコンの不調などが重なってストックがやべえです!
しかもそういう時に限って明後日の方向に突き進んでしまい、二話ほど完全に没になってしまいました……。
制御室から扉をくぐり到着した動力室は、思っていた以上にこじんまりしていた。
広さはテニスコートの一面分プラスアルファで、高さは三メートル半といったところだろうか。
その部屋をさらに狭苦しくしていたのが、右側半分のほとんどを占拠していた怪しげな機械だ。メインの箱部分は二メートルくらいの高さなのだが、そこからこれまた怪しげなパイプが何本も天井にまで繋がっているため、妙な存在感と圧迫感を放っていたのだった。
さて、怪しい機械からはベルトコンベヤーのようなものが延びていて、シャッター風の仕切りで閉ざされた左側の壁へと突き刺さっていた。
ご丁寧にもその隣には人サイズの扉が設置されており、先へと進めることを示唆していた。
「……ふむ」
「ちょちょちょっ!?リュカリュカさん、どこ行くんだよ!?」
さっそくそちらへと進もうとしたところに、慌てた声音のビンスから呼び止められてしまう。
「どこって、あの扉の向こうだけど?」
あの変な機械以外にこの部屋に特筆すべきものはないようだし、それならさっさと次に進んだほうがいいと思ったのだけれど、また別の意見だったみたい。
「あれは放置しておくのか?」
「ぶっちゃけ、メチャクチャ気になるんだけど……」
と水龍さんとベンが続く。まあ、気になるか否かで問われれば当然のように気にはなっているのだが、どうせ最終的にはぶっ壊す予定なので優先順位は低かったかな。
「リュカリュカ……。そのとりあえず壊せばいいという思考は改めたほうが良いと思いますわよ」
そんなボクの内心を読んだかのようにミルファから注意を促す声が。
「う……。確かにちょっとどころではなく短絡的過ぎたかも」
ラスボスとはいかなくても中ボスくらいには該当するだろうヒューズを倒したことで、ボクの中で今回の冒険は「終わった」という印象が強くなっていた。そのため、動力室の探索はどうにも消化試合的な位置づけとなってしまっていたのだった。
「分からないではありませんが緩めすぎると思わぬ見落としをしていたりするものです。ここも『大陸統一国家』時代の遺跡であることに違いはないのですから、今一度気を引き締めてのぞむべきでしょう」
あちゃあ。ネイトからお小言じみた注意が飛んでくるほど今のボクは抜けて見えていたのね。
酔っぱらいの「酔っていない」宣言ではないけれど、こういうのは本人の感覚よりも第三者の視点のほうが的を射ていることが多いものだ。
つまり、今のボクはそれくらい探索に集中できていないということなのだろう。
「はふううううぅぅぅぅ……」
わざとらしく気の抜けた声を発しながら息を吐き、これまた大げさにだらりと背を丸めて脱力していく。かなりカッコ悪い上に無防備な状態だが背に腹は代えられない。今は一刻も早く頭を切り替えなくてはいけない。
ネイトが言ったように気が抜けていたせいで重要な何かを見落としてしまっては、これまでのすべてが台無しになってしまいかねないのだから。
「……よしっ!もう大丈夫だよ!」
「毎回のことながら、その切り替えの早さと落差の大きさは圧巻の一言ですわね……」
「本当に。一体どのような生活をしていればそのような技能が身につくのやら。興味はありますが逆に聞くのが怖い気もしますね」
あれ?なんだか微妙に引かれている?水龍さんも「ほう……」とか言いながら感心しているようだし、ビンスとベンの二人は驚いて呆然としていた。
でもねえ、どんな生活と言われても単に必死に頑張っても追いつけない天才な従姉妹様という比較対象が身近にいただけの話なのだけれどね。
だけど、コンプレックスにまみれて付き合いを断絶するのはもったいないと思えるほど彼女がいい子だったことは幸運だったのかもしれない。意外と素でおちゃめな失敗をすることもあったしね。
ボクの過去はともかく、せっかくやる気を出したのだからキビキビと機械の調査を行いましょうか。てくてくと歩いてわずか数メートルの距離を縮めていくと、上部に何やら文字が書かれたものものが張り付いているのが見えた。
「えっと、『圧縮粉砕式魔力抽出装置』?」
「なんだそりゃ?」
「多分、この機械の名前かな」
ついでに、これの目的というか用途だね。
名前から推測するに、天然の蓄魔石――その中でも恐らくは緋晶玉――を圧縮して粉砕する際その内部に蓄えられた魔力を取り出す、という代物なのだろう。そしてその抽出された魔力がこの遺跡の動力源として利用されていたと考えられます。天井に繋がるパイプは魔力を送り出すためのものかな。
「わざわざ粉砕するだなんて、随分と面倒なことをしていますわね?」
「今と違って蓄魔石の精製技術は低かったみたいだから。魔力を取り出すやり方も荒っぽかったんだろうね」
はるか昔の『古代魔法文明期』には劣るものの、『大陸統一国家』の時代も現在とは比べ物にならないほど世界中に魔力が満ちていたのだそうだ。
しかも迷宮に産出させることで、ほぼ際限なく天然――迷宮産でも天然と呼べるのかしらん?――の蓄魔石を獲得することができたため、そこから魔力を抽出するといった技術が磨かれることはなかったのかもしれない。
ちなみに現在の場合は、蓄魔石へと加工されたものであれば触れて念じるだけで中の魔力を引き出すことができるよ。
「へえ。昔よりも今の方が優れていることもあるんだな」
そんな蓄魔石技術について説明すると、ビンスとベンついでに水龍さんは感心していた。
この遺跡に入ってからこちら、進んだ技術の数々を見せつけられてきたからねえ。少しでも『大陸統一国家』への劣等感が払しょくされたのであれば、話した意味もあったというものです。
「これはもう、わざわざ壊すまでもないかな」
「そうですね。蓄魔石の元になっている魔石も無限に採取できるものではありませんから」
魔物を倒したときにレアドロップする魔石を加工して蓄魔石は作られている。今のところ魔物が絶滅する気配はないが、魔石獲得にそれなりの手間暇がかかっていることは間違いない。
「技術的に相当劣っているようですから、本当に歴史的な遺物としての価値しかなさそうですわ」
これを見たり研究したりしてきゅぴーん!と何かに閃く人がいないとは言い切れないけれど、それを言い出せばどんなものにでも同様のリスクは付きまとっているので、その点に関しては放置。
魔力を送ることができないように、天井へのパイプだけは念入りに破壊しておきました。
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(今回は割と本気で切実です……)




