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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ

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798 騙し合い化かし合い

 ボクがやろうとしていることを一言で説明するならば、一番適当なのは「騙し討ち」になるだろうか。あちらの十八番(オハコ)でやり返そうだなんて、リュカリュカちゃんたら皮肉が効いているね!

 具体的にはMPを過剰積み込み(オーバーロード)させることで、発動する魔法の形を変化させようと企んでいたのだった。


「みんな、離れて!いっくぞー!【アクアボール】!」


 目標に向けて射出されたそれは、本来の球状ではなく円錐に似た形だ。


「ふんっ!それで(たばか)ったつもりなのか?しょせんは子どもの浅知恵だな!」


 巻き込まれまいと散開する仲間たちに対して、キューズは余裕の表情でその場を動こうとはしなかった。

 まあ、ある意味渾身の一撃だからね。打ち破ることができればボクたちの士気を大きくくじくことができる。


「我が魔道の前には無意味よ!消し飛ばせ、【ファイヤーニードル】!」


 そして悔しいけれどそれができるだけの実力がやつにはあった。

 ……普通であればね。


「魔法の名称を言い換えて混乱させるつもりだったのだろうが、そうはいかんぞ。……なんだと!?」


 残念でした。変えたのは魔法の見た目、つまりは形の方だ。

 例え形状が変わっても魔法本来の性質は変化することはない。三すくみの法則により降り注ぐ炎の針をものともせずに蹴散らしたボクの魔法は、


「ホグォオオオオッ!?」


 自身の勝利に絶対的な自信をもっていたキューズの無防備なお腹へめり込むように着弾して破裂したのだった。


 この時、キューズが犯した間違いは二つ。

 一つはこちらの魔法がボールではなくドリルだと勘違いしたこと。まあ、これについてはそうなるように仕向けた訳だからボクの作戦勝ちということになるかしら。


 しかし、もう一つの方はキューズ本人に責任がある彼自身の失敗だ。それが何かと言うと、火属性の魔法を選択したことだ。

 七つの属性の内、雷を除いた六つにはそれぞれ弱点となる属性が設定されている。そして火属性の弱点となるのが水属性なのだ。


 もっとも、こちらに関しても織り込み済みではあったのだけれどね。

 思い出して(よみかえして)もらえば分かると思うが、実は戦いが始まってからずっと、キューズは火属性の魔法しか使用していなかった。だから、今回もまた火属性の魔法で迎撃してくると踏んでいたのだ。


 つまりですね、あいつはボクの【アクアボール】に対して、三すくみの法則に加えて属性の相性でも最も不適切な【ファイヤーニードル】を使用してしまったため、魔力の強さを覆されてしまった、という訳なのでした。

 仮にどちらかでも弱点となる魔法を使用されていたら、ミルファの【ライトボール】が消し飛ばされた時のことを思い出すまでもなく、倒れていたのはきっとボクの方だっただろうね。


 少し話はそれるが、魔法使いのキャラクターの特徴をものすごく大雑把に言うと、遠距離から魔法という強力な攻撃をする自立と移動が可能な砲台となる。

 そのため〈魔力〉の能力値を上げることが手っ取り早く強くなるための定石の一つだ。

 ただし、能力値は上昇させられる数量が限られている――プレイヤーの場合、レベルアップごとに一ポイント、クラスチェンジの際に十ポイント――ので、〈魔力〉ばかり上昇させていると、他の能力値がおざなりとなってしまう。


 キューズもまたそんな典型的な魔法使いだったようで、吹き飛ばされた衝撃をいなしきれなかったのか、なかなか立ち直れずにいた。

 ちなみに〈魔力〉が高いと魔法攻撃力だけでなく魔法に対する防御力も高くなるので、【アクアボール】が直撃した分のダメージはそれほど大きくないと思われます。


 騙し合いで負けたことがそれほどにショックだったのか、呆然とした様子でようやく立ち上がった頃には、ボクたちはもう追撃の準備を整えた後だった。

 倒れているところを攻撃しなかったのは一度みごとにしてやられたこっそり魔法を使用してくることへの警戒だったのだが、あの調子なら必要なかったかもしれない。


「全員とっつげきー!」


 後はもう当初の目論見の通り、接近してひたすら攻撃を繰り返すことでキューズを防御一辺倒へと押し込んではそのままごり押しで削っていくだけとなった。

 ホムンクルスだからなのか、魔法使いの割にやけに固くできておりましたよ。もしかすると装備がレアなアイテムだったのかもしれない。ボクたちの一斉攻撃を受けてボロくずと化していたけれど。

 ダメ元で〔鑑定〕技能を使ってみてが、もはや見るべきところはないと切って捨てられていた。


「ば、かな……。偉大なる国の秘儀を受け継ぐはずのこの私が、敗れるなど、ありえ、ぬ……」


 その言葉を最期に、キューズという古代のホムンクルスは機能を停止したのだった。


「どれだけ長い間生きていたのか分かりませんが、結局彼ははるか昔に消え去った国に束縛されたままだったのですね……」

「そう考えると、哀れというか可哀想なやつだったのかもしれない」


 まあ、だからといって譲ってやることなんてできなかったのだけれど。『大陸統一国家』の中枢だった浮遊島には、世界を支配し続けるというこれまた厄介な妄執に取り付かれて悪霊化した連中が闊歩しているという話だ。

 マッドでしかもホムンクルスだったキューズが接触したら、どんなに危険でやばい化学反応を起こしてしまうか分かったものではない。


「悪霊たちがホムンクルスの肉体に憑依することになっていたかもしれませんわ」

「……具体的にどうなるかはよく分からないけど、碌でもないことになるのだけは間違いない気がする」

「その認識でおおむね問題ありませんよ。霊体化した存在が肉体を得た時の行動は個体によって様々なのですが、どの事例でもたくさんの人が亡くなったり土地が汚染されたりと大きな被害をもたらしていることだけは共通しているそうですから」


 ミルファの例えに漠然とした嫌な予感を覚えたボクに、ネイトが簡単に説明を加えてくれる。

 肩書的には『七神教』の正式な聖職者ではない彼女だけれど、村に赴任してきた神官さんに師事していたそうだから、自然とそちら系統の話にも詳しくなったのだろう。


 そして倫理観の吹き飛んだキューズなら、悪霊への肉体提供にホムンクルスではなくどこかの人たちを生贄にしようとしたかもしれない。


「ちなみにそうなっちゃった場合、ボクたちでも退治できたりするの?」

クシア高司祭(おししょうさま)ならなんとかできると思いますが、わたしたちでは少々荷が重いかと……」


 彼女クラスでなければ対処できないとか、割とゲームオーバー案件だと思う。

 実はボクたち、世界の危機一歩手前な結構ギリギリの状態だったのかも?

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― 新着の感想 ―
[一言] >ミルファの例えに漠然とした嫌な予感を覚えたボクに、ネイトが簡単に説明を加えてくれる。 古代のこんぴーたー(また召喚するかもしれないのに、忘れられて注意を向けられてない……)
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