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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ

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797 空き容量を確保してください

 それから後の戦いは、精神的疲労との戦いでもあった。

 もちろん肉体の方も疲労があれば怪我もありという割と満身創痍(まんしんそうい)な状態となっていたのだけれど、それ以上に一瞬のミスが命取りになってしまうというプレッシャーが常時圧し掛かっていたのがきつかった。


 それでも、発汗などの身体現象や生理現象などに(わずら)わされることがない分、リアルに比べればかなり楽なのだけれどね。

 汗が目に入る心配もなければ、息切れによって体が思うように動かないこともない。スペック通りの能力を維持し続けていられるだなんてゲームならではのことだ。


 ある意味自分の理想の動きを疑似体験できるのだから、この一点だけでもプロのアスリートなどがVRを訓練に取り入れるのも納得できるというものだ。

 ただし、リアルとの違いを上手く認識理解できなければ、かえって逆効果となってしまうかもしれないけれど。


「この私を前にして考え事とは、なめられたものだ」

「何度も会っていた相手の顔を覚えていないポンコツよりはマシだよ!」


 リーヴの攻撃でおかしな方向へと曲がってしまった杖で殴りかかってくるキューズを龍爪剣斧で迎撃しつつ、ついでにやつの軽口じみた文句にも言い返す。

 そうなのよ、キューズときたらボクが『ポートル学園』で学生をしていて、授業を含めて何度も顔を合わせていたことをすっかり忘れ去ってしまっているのだ。


 ちなみに、悪目立ちしないようにこっそりひっそりと他の学生たちの陰に隠れるようにしていた、などといったこともなく。

 ジェミニ侯爵家の養子だったことを筆頭に、あそこでのボクは目立つ要素をこれでもかとぶち込まれていたからね。キューズが担当していた実践魔法の授業でも多少の加減はしながらも、熟練度アップのための貴重な機会だとばかりに魔法を使いまくっていた。


 キューズはキューズであからさまな態度を取っていては疑われると判断したのか、こちらをことさら避けるようなことはせずに他の子たちと同じように一学生としてボクのことを扱っていた。

 だから質問とかで間近で顔を突き合わせたことだって何回もあった訳で、こちらとしては「どこかで見たことがある」程度の反応はされるだろうと考えていた。


 ところが蓋を開けてみれば完全に初対面といった対応で、拍子抜けすると同時に「記憶する価値もない」と言外に言われたような気がして、正直かなりイラっときてしまっていた。

 骨董(こっとう)品のホムンクルスだと判明してからはそんな気持ちもなくなってしまったけれどね。おそらく、劣化か何かによって記憶容量が少なくなっているのだと思う。

 学園を離れたことをきっかけに、容量確保のためにあちらでの記憶の大半を圧縮したか消去してしまったのではないかな。


 そこまで予想しているのに、どうして先ほどのような言い返し方をしたのか?それはもちろん相手の気をそらせて戦闘に集中させないようにするためです。

 一方的に相手のことを知っているというのは時に大きなアドバンテージとなるものだ。だから「お前のことは知っているぞ」的なことを言っておけば、警戒して記憶あさりを始めるかもしれない。

 そこまで効果がてきめんに出るとは思っていないが、別のことに意識を向けさせることができれば少しくらいは戦闘が楽になるかもしれないですので。


 まあ、小賢しくてみみっちい策だというのは認める。仮に絶対王者として迎え討つ立場であれば採用されることはない代物だわね。

 だけど、ボクたちはどちらかと言えば挑戦者の側だ。持っている力を出し切ると同時に、打てる手はすべて打っていかないと。


 打てる手と言えば、水龍さんとの会話で出てきたアレもあったね。

 しかしながらぶっつけ本番でやって使い物になるのかどうか。……いや、何とかして通用させるしかない。


 キューズはこれまでにプレイヤーならば軽く二、三回はMPが枯渇しているだけの魔法を放ってきているはずなのだが、ボス扱いの補正が働いているのか、はたまた昔々のホムンクルスだからMPの値が異常に高いのか、MP枯渇となりそうな様子の気配すらない。

 対するボクたちは、そんな弾幕のように撃ち出される魔法の数々によって接近するのも一苦労なありさまとなっていた。


「【ライトボール】!」

「甘いわ!【ファイヤードリル】」

「くっ!」


 近づけないのならばとあちらに対抗して放った攻撃魔法は三すくみ――ボールはニードルに強く、ニードルはドリルに強くて、そしてドリルはボールに強い――を突かれてかき消されてしまう。

 しかも対消滅ではなく、威力は半減しているけれどあちらの魔法は生き残って攻撃を仕掛けてくるのだから性質が悪い。


「リュカリュカ!このままだと向こうのMPが切れるよりも先にわたくしたちの方が押し負けてしまいますわよ!」


 ミルファさん、分かりやすい説明どうもありがとう。でも、今のそれは攻撃が通用しなかった八つ当たりも入っているよね?

 と、このようにボクたちはすこぶる悪い状況にまで追い込まれつつあったためだ。


「みんな!少しだけ時間を稼いで!」


 あえて声をあげたのは賭けだ。ただでさえ集中が必要な上に初めての挑戦となる。それにかかりきりになってしまうことは目に見えていた。攻撃などされようものならろくに回避行動もできずに餌食となってしまうだろう。


 つまりみんなには本当に時間を稼いでもらう必要があるのだけれど、キューズの技量ならばそれを無視してこちらへと攻撃を仕掛けることだってできてしまう。

 そこで、ボクではなくみんなの方が本命だと勘違いさせる必要があった。


「ふん!何を企んでいるかと思えばその程度か!」


 迫りくるみんなを迎え討たんとするキューズ。

 ヨシ!かかった!これまで裏をかいたりひっかけたりしてきたことが布石となって効いたみたいだ。それとあいつの騙し討ち大好きな性格もプラスに働いたのかもね。

 さすがに今は人数差があるから正攻法に近い魔法の連打で対応しているが、もしもこれが一対一などであれば、いやらしい奇策が次々と飛び出してきていたのかもしれない。こわっ!


 さて、ここからが本番だ。下準備は上手くいったけれどそれだけで成功すると言い切れるものではない。しっかりと集中しないと。

 目をつむるとみんなの戦う音を意識の外へと追い出していく。思い描くのはその形。それを現実のものとするため、代償となるMPを注ぎ込む……。

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