789 勘違いから正解に辿り着くこともある
ボクが電卓に似たと称した入力装置には左下の1から右上の9まで、三列三段で合計九つのボタンが配置されていた。
いや、それだけしかなかった、と言った方が適切かもしれない。プラスやマイナスといった計算記号はともかく、0がないのはリアルであれば不良品や欠陥品だと叩かれても不思議ではない大問題だ。
「あえてわざわざそんな変な物を置いているということは、これがヒントになっているってことだよね」
これで単なるデータ作成ミスであれば、割と本気で凹む自信があります。
「一足飛びに答えに辿り着けるようなものじゃないのも憎たらしいところね」
思わず漏れ出た呟きを聞かれてしまったのか、壁面の文章を見ていたリーヴがこちらを振り返る。少しバツが悪いけれど誤魔化すことでもないので、素直に入力装置の異常さについて話す。
するとリーヴは「すごい、すごい!」と感激した面持ちで見つめてくる。
フルフェイスの兜で表情は見えなくても、意外と雰囲気とかで分かるものだわね。それだけ信頼関係が構築できている証であればいいのだけれど。
それはそれとして、持ち上げられすぎると面映ゆいものがある。
だって、入力装置に九つのボタンしかないことがヒントになっていると予想しただけで、それがどういう意味合いを持つのかは理解できていないのだから。
「魔法の属性を数字で表す?……まさかゲーム開発時に割り振った番号とかじゃないよね?それだと手も足も出ないんですけど」
どこかに開発小話でも掲載されていたかしらん?
メニュー画面を立ち上げる。ゲーム内部からもアクセスができる『OAW』の公式サイトを開くと、開発時の裏話や小話がないかを検索してみる。
が、結果は外れ。よくよく考えてみれば、開発の話なんてどこにネタバレが潜んでいてもおかしくない代物だ。サービスが終わってしまった後でもなければ、公開なんてできたものではないのだろう。
「まあ、ダメ元ということで」
せっかく開いたのだから、ついでに『魔法属性、数字』でも検索をかけてみる。さすがにこんなことで答えが見つかるとは思っていない。
そんな予防線を張ったのがいけなかったのか、出てくるのは属性の相関図ばかりという有様だった。
余談だけど、七つの属性をまとめて表示する場合、有利不利属性を持たない雷を中央に置き、残る六つを六角形の頂点に配置する形となる。
それでも七つだから、入力装置のボタンを埋めるためにはあと二つ足りないのだが。
その時、ふと懸命に暗号解読に励むリーヴの後ろ姿が目に入った。
そういえば、あの子が取得していた〔聖属性魔法〕は、七つの属性とは異なる属性で攻撃も回復もできる万能魔法なのよね。
……それってもしかして、八番目となるのでは?
さらに言えば、光と闇のように聖属性にも対になる属性がありそうな気がする。やっぱり聖と言えば邪でしょう!カッコあくまで個人の主観に基づく感想ですカッコトジ。
とにかく、これで入力装置のボタンの数に対応したと思われる九つの属性が暫定的に揃ったのかもしれない。
残るはどの属性がどのボタン、数字に対応するのかという点だが、これは例の魔法七属性を示した表に基づいて考えてみるとしようか。
まず、中央の5に有利不利属性を持たない雷を置き、その上下の8と2に対となる光と闇を配置する。次に四隅の7に火、1へ水、3は土、9を風とする。
残った4と6に聖もしくは邪が対応することになるのだけれど……。今回必要なのは火水風土の四つだけなので、ぶっちゃけどちらがどちらでも問題なかったりするので保留にしておきます。
「入力する数字は……、7139の四つだね」
いざ入力装置をポチろうとしたところで、くいくいと服の裾を引っ張られる感触が。
何事かと振り返ると、リーヴが腕をくるくるぐるぐると動かしているではありませんか。
「?……あ、数字の並び替え!」
なるほどね。ここで春夏秋冬の順番への並び替えが絡んでくる訳ですか。
確かあれは春が水、夏が火、秋が土、そして冬が風だったから……。
「1739の順番だね」
ピッポッパッポーと電子音を響かせながら入力を終えた瞬間、壁の問題文が表示されていた部分に『暗号適合。制御室への扉を開錠します』という一文が浮かび上がる。
ヒュン。とこれまた軽い音を残して扉が開いたのだった。
「リュカリュカ!?どうやってあの暗号を解いたのですか!?」
そして驚きと疑問に満ちた表情で集まってくる仲間たち。
しまった。みんなに何の相談もなしにやっちゃったよ。先に独断で勝手なことをしてしまったことを謝り、扉が開くに至った経緯を説明していく。
「属性関係図の配置場所を参考にしたのですか」
「それは盲点でしたわね」
「ボクだってリーヴの聖属性魔法のことを思い出さなければ、そこに辿り着くことはできなかったと思うよ」
まったくりーヴさまさまだね。
「あー、盛り上がっているところ悪いのだがな」
感心しきる皆に照れてれになっていたところに、珍しく遠慮がちな調子で水龍さんの声が割って入ってくる。
「なあに、水龍さん?」
「そやつの持っている聖属性魔法とやらのことだが、八つ目の属性などではないぞ」
「……え?」
「おそらくは固有の能力だろうな。我らドラゴンを含めて体内に魔石を持つものは、まれにそういった能力に目覚めるやつが現れるのだ。見たところそやつ、リーヴと言ったか。リーヴはあの勇者の鎧を模しているようだから、そうしたことが影響して敵対する魔を討ち、味方を癒す力を手に入れたのだろうよ」
ビックリ仰天とはこのことだ。聖属性と付いてはいてもリーヴのそれは魔法ではなく、いわばエッ君の〔不完全ブレス〕や、トレアの〔人化〕のような固有の技能だというのだから。
「形状が普通の属性魔法と同じようにボールやニードルになっているのは?」
「そうした方が扱いやすかったからだろう。我も様々な形に水を操ることができるが、普段無意識に使用するのはブレスや一般魔法の形状だからな」
特殊な使用をするためには、その分だけ追加の労力が必要になってくるのだとか。
うん?だとすればMPの過剰積み込みで、通常魔法を別の形に変化させることもできるのではないかしら?
「リュカリュカが何を考えているのかは知りませんが、ようやく扉を開けることができたのですから、今は奥に進むことを優先するべきではありませんか?」
「あ、うん。そうだね」
ネイトの指摘を受けて気持ちを入れ替えると、ボクたちは制御室へと足を踏み入れたのだった。
〇補足説明
魔法属性表と数字への割り当て
魔法属性表 入力装置の数字
光
火 風 7 8 9
雷 4 5 6
水 土 1 2 3
闇
これにリュカリュカちゃんの予想した聖と邪を加えて合わせると……
7=火(夏) 8=光 9=風(冬)
4=聖・邪? 5=雷 6=聖・邪?
1=水(春) 2=闇 3=土(秋)
こうなります。
さらにこれを春夏秋冬の順番に並び替えて、答えは 『1739』 となりましたさ。
めでたしめでたし。
……改めて見直すと無理矢理なこじつけでした。
思い付きでなぞなぞなんて出すものではないですね。反省。




