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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ

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787 それらが意味するものは?

 さて、『対応する数字を入力』とあったので文章自体に手を加える必要はなさそうだ。

 しかし、その分四つの文章がそれぞれ何を意味しているのかを読み解かなくてはいけない。


「うーん、『豊穣の実りに満たされる。灼熱の日差しに焙られる。雪解けの流れに潤される。冷たい木枯らしに凍える。』ねえ……」

「どこかの土地のことを表しているのでしょうか?」

「でしたら、後半の二つは『土卿王国ジオグラント』の山岳地域のことかもしれませんわね。『ドワーフの里』の方々も、冬場は寒さが厳しく雪が積もることもあるとおっしゃっていましたもの」


 ネイトの思い付きにミルファが反応する。

 あの地方は標高の高い山々が連なっているので、雪深くなってしまうらしい。でも、木枯らしはちょっと違うのではないかしらん。

 そんな生易しいものではなく、吹雪とかになってしまう気がするよ。


「前半の二つは難しいですね。実り豊かな土地はたくさんありますし、逆に夏に限定したとしても灼熱と言われるほど暑さの厳しい場所は聞いたことがありませんよ」


 珍しいことに『OAW』の舞台となっているアンクゥワー大陸には、ゲームで定番の砂漠や溶岩地帯といった場所が存在していないのだ。

 一応『火卿エリア』にある海岸の一部が砂丘になっているらしいのだけれど、そこそこの広さでしかないため、よほどの方向音痴な人でもなければ遭難してしまうことはないのだとか。


 さらに空腹度があることへの対応なのか、全体的に実りの多い農業地帯が多くなっているのもこのゲームの特徴の一つと言えるかもしれない。

 よって一つ目の文は候補地が多過ぎで、そして二つ目は該当する場所が存在していないということになってしまうのだった。


「大陸中を回ってるだけあって、よく知ってるもんだな」

「ふん!だが、この湖の中のことなら負けんぞ!」

「水龍様、物知り知識で勝負してるんじゃねえから……」


 想定外の事故も含めて一度は各エリアを訪問しているからね。隅から隅まで足を延ばすには程遠いけれど、それなりに各地の情報は仕入れておりますですのよ。

 ……いやいや、ちょっと待とうか!


「そもそもどこかの場所のことだと決まった訳じゃないよね!?」


 慌てて指摘すると、全員ハッとした表情となる。

 危ないあぶない。思い付きや閃いたことを口にするのは大切だけれど、どうしてもその後の議論がそれに引っ張られるというか紐づけて考えてしまいがちになるのが難点よね。


 これはリアルでも、特に気心の知れた者同士の会話や話し合いで起こりがちなことでもある。気が付けば会話の内容が当初の話題からかけ離れていた、という経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。

 要はこれと似通ったことが起きてしまったのだった。


 そして改めて考えてみようとするが、制止させられたことで思考の繋がりが途切れてしまったのか、どうにも良い発想が出てこなくなってしまったのだった。


「完全に煮詰まったっちゃったね」


 こういう時こそ目線を変えてみることが有効なのだけれど、これがなかなかに難しいのよね。双六(すごろく)ではないのだから「さいしょにもどる」ことになっても問題はない、それどころか見当違いの方向へと進んでいたならば、かえってゴールへの近道となることだってあるのに。


 里っちゃんいわく、「それまでにかけた時間と労力のことをついつい考えてしまうから、例え一時的でも捨てることに抵抗が出ちゃうんだろうね」とのこと。

 なるほど。人間誰しも無駄なことはしたくはないし、無駄だったとも思いたくはないものねえ。


 あー、いけない。新年度が間近で本格的に大学入試も現実味を帯びてきたものだからなのか、ついつい小難しいことを考えてしまう。

 決して悪いことだとは言わないが、時には割り切ることや切り替えることも必要だ。余計なことを考えていては思わぬところで見落としがあるかもしれないし、何よりせっかくのゲームを満喫できなくなってしまうからね!


「でも、いきなり完全に頭を切り替えろと言われて無理みたいだから、ちょっと目先を変えて考えてみようか」

「目先を変える?」

「そう。例えばさっきの会話だと『ドワーフの里』の冬は寒さが厳しくて雪深く……」


 うん?……冬?

 胸元からせり上がってくる違和感に突き動かされるようにして、件の文章が記されている壁面を見やる。

 ……やっぱりだ。


「雪の文字に意識を持っていかれちゃってたね。三つ目の文は冬を表したものではないよ」

「え?」


「『雪解け』という言葉に加えて『潤される』と続いているから、春のことだと思う」


 ボクの推測にみんなから「おおー」とか「本当だ!」といった歓声が上がる。

 一方、四つ目の文は『冷たい』に『木枯らし』に『凍える』と、寒さを表現する者が続いているので季節に当てはめるならば冬で間違いないだろう。


「だとすれば、残り二つ文章も?」

「一つ目の『豊穣の実り』は秋で、二つ目の『灼熱の日差し』を夏と考えるのが妥当かな」


 アンクゥワー大陸では基本的に主食がパンの小麦文化だけれど、小麦の中には秋口に収穫をするものもあるというし、果物やキノコなど収穫最盛期なものも多い。よってこの推測はあながち的外れなものではないと思う。


 え?リアルのニポンに準拠しているだけ?

 それを言ったら身も蓋もないのでお口チャックですよ。


「それぞれの文が季節のことを指しているのは分かりましたわ。ですが、『対応する数字』と『並べ替えて』というのはどういうことですの?」


 ミルファの疑問に沸き立っていた空気がピシリと固まる。

 そうでした、まだ答えには辿り着けていないのでした。

 一難去ってまた一難といった気分だが、放り投げてしまっては先に進めない。


 それこそリアルニポンに合わせてあるのか、『OAW』でも春夏秋冬の考え方が一般的だ。だから単純に考えるならば春に1、夏を2、秋と冬へそれぞれ3と4が当てはまりそうではある。

 ところが、そうなると今度は並べ替えるという部分がネックとなる。


「言われてみれば、そのままの方が暗号的な感じがします」


 そうなのよ!文章の順番のままなら「3214」の順になるのだけれど、春夏秋冬の順番へ並び変えると「1234」になってしまう。

 まあ、ある意味裏をかいていると言えなくもないのだろうけれど、何かが違う気がするのよねえ……。


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