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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ

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780/933

780 詰まってました

 その昔にアンクゥワー大陸の全てを手中に収めていた『大陸統一国家』が、『竜の里』のドラゴンたちやそのほかの長命種族たちと仲違いをしていたことは以前ブラックドラゴンからも聞いていた通りだ。

 だからウィスシーの主として君臨する――正体不明だったけれど――水龍さんが遺跡の監視を兼任しているというのは理解できる話だった。


 数千年ぶりに内部への侵入が発生してしまったことを察知して、慌てて様子を伺いにやって来たことも納得の理由ですね。


 うん。ここまではいいのよ。ここまでは。


「それで、水龍さんはこの通路で何をやっているんですか?」


 確かテレパシーでは「手助けする栄誉を与えてやる」とか何とか言っていたような?


「うむ!それなのであるがな。通路が狭くて動けなくなってしまったのだ!お前たち、何とかいたせ」


 「どーん!」とか「ばーん!」とか、はたまた「ででーん!」といった勢いのある効果音が付きそうな偉そうな調子で言い放つ水龍さん。

 しかし、その内容は控えめに言っても情けないもので。


「うっわ、カッコわるっ!」

「ぐふっ!」


 あ、ついオブラートに包まずにズバッと言ってしまった。


「ちょっ!?(ぬし)様が白目むいてるぞ!?」

「しかもショックで吐血してる!?」


 その様子にビンスとベンが慌てふためく一方で、


「なんでしょう、とても失礼な話ではあるのですが、あの一言でブラックドラゴン様と同種族の方なのだと納得できてしまいました……」

「同感ですわ。もしやドラゴンというのは皆この方々のように間抜け、もとい大らかなところがあったりするのかもしれませんわね」

「長い時を生きていて、なおかつ強大な力を持つそうですから、些事には気に留めなくなるのかもしれません」


 ネイトとミルファはドラゴン談義などをしていたのだった。

 そんな和やかな空気が流れる中、ボクは一人とあることについて考えていた。


 え?吐血して白目をむいたドラゴンがいる?

 平気へいき。彼らは大きな図体に相応しい強靭な生命力の持ち主だから、しばらくしたらけろっとした顔で復活してくるよ。


 さて、ボクが一体何を考えていたのかと言いますと。


「ねえ、水龍さん。通路が狭くて詰まったっていう話だったけど、今の向きからすると帰るところだよね?遺跡の奥に進んだ時は大丈夫だったの?」


 水龍は隠し通路を奥に向かって進んでいたボクたちと顔を向かい合わせていた。つまり、入口のある方向に向かっていたということになる訳で、遺跡の奥へと向かうために一度は通り抜けていたということになる。


「うん?ああ、その時は遺跡に侵入している者が居座っているかもしれないと用心して、我が身を小さくしていたのだ」

「……それなら今もそうすればいいじゃん」

「はっ!?その手があったか!」


 うわー……、本気でド忘れして思いつかなかったとかないわー。

 いくら何でも大らかが過ぎるのではないでせうかね?これにはビンスとベンの地元組も呆れ顔で、つい先ほどまで大事に抱えていた湖の主に対する敬意なども、すっかりどこかへ吹っ飛んでしまったかのようだった。


 そんなボクたちを気にすることなく、水龍さんはしゅるしゅるとその頭、ではなく身体を小さくしていった。

 のですが……。


 ぽてっ。


「ぐえ!」


 今度は小さくなりすぎて全身がボクたちを覆う空気の一帯へと飛び出してしまい、その結果重力に引かれて通路の床へと落下してしまったのだった。ドジっ子か。


「大丈夫ですか?」


 しゃがみこんで床の上をビチビチ、いや東洋風な龍の細く長い身体――今は全長三十センチほど――なのでニョロニョロと言った方が適当な様子の水龍さんに尋ねかける。

 かつてブルードラゴンと呼ばれていただけあって、透明感のある綺麗な青色をしていた。

 まあ、床の上をうごめているので色々と台無しな感じになってしまっていたけれど。


「う、うむ。怪我などはしていないのだが、水の中とはどうにも勝手が違っていてな……。お前には我を水の中へと運ぶ名誉をくれてやろうではないか」

「ああ、はいはい。運びますから暴れないでくださいよ」


 むんずと両手で水龍の胴体を掴んで、通路奥側の水が壁になっている箇所へと歩いていく。そのままズボッと水の中へ腕ごと水龍を突っ込むと、緩慢だった動きが嘘のようにすいすいと泳ぎ出したのだった。

 水龍という名前だけあって水の中の方が落ち着くし過ごしやすいということなのかしらね。今後うちの子たちが進化する時には、そういう点にも注意してあげる必要が出てくるのかもしれない。


「ところで人間たちよ、お前たちはこんなところで何をやっているのだ?」


 とてつもなく今さらな疑問に、ボクたちパーティーメンバーだけでなくビンスとベンの二人までもが某新喜劇よろしくズッコケそうになってしまう。

 シリアスを台なしにするようなボケは止めて欲しいのですが!?

 あ、でも緊迫感があったのは遭遇した瞬間だけで、その後は割とギャグ寄りな展開だったような気もする……?


 ボクたちの冒険にお笑い要素が多いかどうかは一旦置いておくとしまして。相手は世界最強ともいわれるドラゴン種だ。下手に誤魔化そうとしてせっかくいい感じになっている関係――ほとんど成り行きですが――が消し飛んでしまうのは避けたい。

 何よりボクたちの目的は水龍さんにとって害になるどころかプラスに働く可能性が高いからね。ここは素直に話すのが吉でしょう。


「利用できぬ次善の策として、ということであればともかく、最初から破壊を目的にしている者なぞ、聞いたことも見たこともないわ」


 ビンスたちがいる手前ある程度ぼやかしながらもカクカクシカジカとボクたちの事情と目的とお話しすると、水龍さんからは目を丸くして驚かれることになってしまったのだった。


「それじゃあ、ボクたちがその最初の人間ですね」

「しかしだな、この際正直に言うがこの遺跡に収められているあの当時の技術は今とは比べ物にならぬほど高度で進んだ代物だぞ。……惜しいとは思わぬのか?」

「まあ、全く惜しくないかと言われれば嘘になりますけど」


 使い方次第では我が物顔で横たわって世界の発展を妨げている難題たちを叩き起こしたり排除したりできるかもしれないのだから。


「ならば――」

「だからなおさら今の段階では世に出しちゃいけないと思うんです」


 誘惑を断ち切るように水龍さんの言葉に被せるように言い切る。

 なぜなら、技術を正しく扱うためには下地となるものが必要不可欠なのだから。


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