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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ

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778 追いついてきたなら突き放すまで

 ついにキューズと思わしき人物がバーゴの街に現れた。その報告に一瞬体が固まりかけたが、すぐに大きく息を吐いて平静を取り戻す。

 来るだろうことは予想していたし、到着の日取りも想定していた範囲内だ。

 やつが現れるより先にすべてを終わらせる、というベストな状態からは大きく減退することになってしまったが、それでもこちらが先行していることに違いはない。


「嘘の情報を流してできるだけ時間を稼ぐつもりだが、お貴族様の後ろ盾があるとすると、遺跡の近場はうちの大将が取り仕切っていることを嗅ぎ付けてくるのは時間の問題ってことになると思うぜ。まあ、さすがにビンスとベンのことまでは分からんと思うがな」


 いかに船乗りたちの中に反骨精神あふれる連中が多いとはいえ、家族や恋人などを引き合いに出されれば引くしかなくなるだろうからね。

 遺跡近くを含めた港内部のことならばヴェンジさんたちゴーストシップサルベージが最も詳しいと判明するまでに、そう多くの時間は必要としないだろう。


 トップが穏健派に属している領地だから、貴族との繋がりなどないと思い込んでいたボクの判断ミスだ。一枚岩の組織などなかなかあるものではないことなど分かりきっていたはずなのに。

 もっとも、あちらと接触を図るためにはジェミニ侯爵や大公様といった伝手が必要になってくるだろうから、対策を取ることができたかどうかは微妙なところではあるのだけれど。


 情報を持ってきてくれた先輩社員さんが言っていたように、ビンスたちのことまでは分からないだろうし、ヴェンジ社長たちも白を切り通すことだろう。

 ただ、接触を図ってくるようならば水中にある遺跡の隠し通路のことを察知しているかもしれない。


 まあ、起きてしまったことは仕方がない。前述したとおり先行しているのはこちらなのだ。

 油断は論外だが焦って無茶をして全てを台なしにしてしまう方がよほど問題だ。ここは予定通り着実に進めていくことにしようか。


「ヴェンジ社長には、足止めをしてくれるのはありがたいけど絶対に無茶はしないでと伝えてください」


 貴族(あちら)港湾関係者(こちら)も名誉や面子を重視する連中だ。引き際を誤れば全面戦争に突入する可能性だってある。

 遺跡の秘密を守るために街が荒廃しては本末転倒で元も子もない。


「了解だ。まあ、俺たちは吹けば飛ぶような弱小勢力でしょせんはぐれ者の集まりだからな。お貴族様に逆らうような真似はしないさ」


 などと言いながらもニヤリと悪い笑みを浮かべる先輩さん。逆らうつもりはなくても、ひっかきまわすつもりは満々であるらしい。

 これ以上は言っても無駄だろうし、彼らの好きにさせるしかないだろう。でも、本当にやり過ぎないでね?


「二人とも正直に答えて。さっきの調子なら奥まで行くことはできそう?」


 そしてボクたちと同じく丸太っぽいものに取り付いてぷかぷか浮かぶビンスとベンに向き直って尋ねる。


「三人とも落ち着いていたし、息にも余裕があった。いきなり本番ってことになるけど、俺たちの誘導に従ってくれるなら何とかなると思う」


 ベンの回答にコクリと頷くボクたち。そもそも彼らが先導してくれなければ遺跡の入り口を判別することすらできないのだから反対する意味などない。


「という訳で、これから本番いってきます」

「おう。そっちも無理はしないようにな。うちの若手を頼む」


 しっかりと頷くことで、先輩さんの言葉の真意に気づいていることを伝える。命を落とすことなど(もっ)ての(ほか)で、誰一人として重篤な怪我を負うような後味の悪い展開になどさせやしない。


 と、気合を入れ過ぎたのが悪かったのか、はたまた既にフラグの建設が行われていた後だったのか。

 この後ボクたちはビンスとベンの地元民二人が「あり得ねえ!?」と口をそろえて叫ぶような事態に遭遇することになる。


『そこな人間たちよ。お前たちに我を手助けする栄誉を与えてやる』


 突如頭の中に響いてきた言葉と目の前のとんでもない光景に、ボクたちは己の口を押さえて叫び出さないようにすることで必死だった。


 水面での最終確認通り、ビンスの先導で遺跡の隠し通路へと突入を果たしていた。ここまでは予定通り順調に進んでいた。

 異変に遭遇したのは体感でおよそ三十秒、おおよそ通路の半分を超えただろうと思われる時のことだった。


 突然、通路が行き止まりになってしまったのだ。

 しかもその通路を埋め尽くして塞いでいたのが巨大な生き物の頭部らしいということで驚きは二倍となっていた。


 それで終わっていればまだ良かったのだが、トドメとばかりに行われたのがさっきのアレだ。念話にテレパシー、呼び方は何でもいいけれど、頭の中に直接言葉が届けられたのだからビックリ度合いは三倍どころか惨状、もとい三乗もしくはそれ以上のものとなってしまったのだった。


 ここで少しゲーム的な解説を入れさせてもらうね。巨大頭部が行っていると思われるテレパシーだけど、実は『笑顔』でも『OAW』でも実装されていて〔念話〕としてプレイヤーでも取得や習得ができる技能の一つだったりする。

 内緒話をするのに最適なのでさぞかし習得者が多いのだろうかと言えばそうではなく。


 プレイヤー間でならばチャット等で代用ができてしまい、それならNPC相手に活用できるかというと物理的な距離や精神的な親密度によっては消費MPがとんでもないことになってしまう仕様のため、これまた用いられることがほとんどない。

 現状では一部のもの好きプレイヤーがプレイ開始時に取得するネタ的技能という扱いになっていた。


 つまり何が言いたいのかというと、距離はさほどではないが、初対面の五人に向けて一度にテレパシーを送るとかMPがいくつあっても足りない、とんでもない行為なのだ。


『む?そなたたちはなぜ口を押さえているのだ?……おお!そういえば人間は陸の上に住んでいて水の中では話すどころか息もできないのだったな!』


 気が付いてもらえて何よりです。こちらは息を止めておくので精一杯だったもので。もっとも、仮に息ができたとしても話しかける余裕があったとは思えないのだけれど。

 それほどに衝撃的な出会いだったのだ。

 頭部だけにまさに出会い頭だわね。……笑うところですヨ?


『うーむ……。このままではらちが明かぬな。少し待っているがいい』


 ミスターヘッドがそんなことを伝えてきたかと思えば、ボクたちの周囲からだけ水が遠ざかっていき、ぽっかりと空気のある空間ができてしまったのだった。


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