774 みんな大好き水着回
諸君、突然だがバーゴの遺跡内部に向かう隠し通路がどこにあったのか覚えているだろうか?
そう、湖の中だ。つまりボクたちは水の中に入らなくてはいけない。
そうなると絶対に必要になるものがある。
その通り、水着だ。
さて、諸君。美少女の水着姿は好きか?
ボクは……、とっても大好きです!
まあ、趣味嗜好としての意味合いが強いのだけれどね。生物学的にも精神的にも女の子なボクですが、同性の色っぽかったり綺麗だったり可愛かったりする姿や仕草にグッとくることはあるものなのだ。
「ああ、でも、だからといって鼻血を吹いたり、ハアハア息を荒くしたりはしないから安心してね!」
所狭しと陳列――比喩的表現です。広い店内で圧迫感はないよ――されているカラフルな水着――こちらは本当。染色技術とかどうなのよと突っ込みたくなるね――たちを前に言い放つボクに対して、パーティーメンバーであるある二人は微妙な表情を浮かべていた。
「今の念押しでかえって安心できなくなりましたわ……」
「これから水の中に入らなくてはいけないというのに、既に寒気を感じる気がします……」
ミルファもネイトもべたべたな反応をありがとう。わざわざ言った甲斐があったというものだよ、ちくせう!
「あんたたちはどうせ必要になるんだからいいじゃないか。私なんて完全にとばっちりだよ」
愚痴っているのはゴーストシップサルベージ社の紅一点にして影の支配者のカーシーさんです。
彼女がボクたちと一緒にいる訳、それはもちろん水着を売っているお店を紹介してもらうためである。
というのは建前で、それを口実にお店へと連れ込んでボクたち三人をはるかに上回る凶悪な攻撃力を誇るナイスなボディを堪能しようという壮大かつ深謀な理由によるものだったりする。
「何言ってるのよ。あなた素材は悪くないどころか上等な部類なんだからこういう時に気張らないでどうするの」
「そうよ。別に普段から着飾れと言っているんじゃないわ。大事なのはメリハリとギャップ。ここぞという時に落としにかかるのよ」
「落とすとか訳分かんないんだけど!?」
もっとも、お店に着くなり情熱溢れるお姉さま方に捕獲されたのでボクの出番はなかったのですがね。
女だてらにという言い方するとなんだけれど、男所帯のゴーストシップサルベージを陰に日向に盛り立てているカーシーさんは、港界隈では当然のように有名人だった。
しかも本人は隠せていると思っているようだが、はたから見ればとある人物を憎からず想っているのがバレバレという、ザルなセキュリティしか搭載されていないポンコツな部分もある。
うん。それは女性陣を始めとして人気が出る訳だ。
実際この店の店員さんたちのように、機会があれば手助けしたいと思っている人は多いらしいです。
まあ、普段は気風のいいさばさばした調子なのに、とある人物の前ではふとした拍子に恋する乙女の表情を覗かせてしまうだなんて、「一体どこのヒロインですか?」と言いたくなる充実の設定だものねえ。
きっとイベントの発生のさせ方や進め方によっては、彼女ととある人物との仲を取り持ったり関係を深めさせたりといった展開になることもあったのだろう。
ボクとしても余裕があるならば是非とも手を伸ばしたいところではあるのだが、残念ながら現状では主に時間的な猶予がほとんどない状況だ。
さすがに他ごとに気を取られている間に遺跡を攻略されてしまった、なんてことになっては今までやって来たことの全部が無駄になってしまう。
昼寝をしたせいでカメさんとの競走に負けたウサギさんに、指をさされて笑われたくはない。
ここはお姉さま方の采配に任せて、一歩引いたところから鑑賞させてもらうことにしましょう。
という訳でミルファとネイトの二人と一緒に店内を物色して回り、似合いそうな水着を見つけてはきゃいきゃいと言い合うという至福の時間を過ごしたのでした。
ちなみに、好感度が低かったのか試着はしてもらえませんでした。ぐぬぬ……。
「あんな紐同然の水着を着られる訳がないじゃないですか!」
「……右に同じですわ」
恥ずかしそうに照れ怒りしているのが見られたので、今回はそれで満足しておくとしようかしらね。
そして選んだ水着はセパレートタイプではあるものの、上半身は胸周りだけでなくお腹の上半分までを覆っており、下半身は太ももまで完全防備のスパッツのようなものと相成りました。
ノースリーブでへそ出しにしただけでも頑張ったと思ってもらいたいね。
それというのも、生地が少ないとそれだけ防御力が低くなってしまうからだ。VRだからといってそこまでリアル寄りにしなくてもいいのに……。
あと、素材となっているのは水棲系の特にゲコゲコな魔物の表皮らしいのだけれど、そんな情報は一切聞いていない。いいね?
「しかし、この色は派手過ぎではありませんの?」
ミルファがそのパステルピンクの水着を手に取りながら呟く。
「水の中の視界の悪さを甘く見たらダメだよ。お互いの居場所が認識できるように、少しでも目立つ色合いにしておかないと」
ましてボクたちが潜るのは自然の湖なのだ。遊泳専門につくられたプールや囲いで区切られた遊泳場とは違う。すぐそばに港という人工物があるにしても、可能な限りの備えはしておくべきだろう。
まあ、悪目立ちするのは本意ではないので、船の上などでは防寒も兼ねてラッシュガード風の上着を羽織ることにしますか。
「そういえば確認するのをすっかり忘れていたけれど、二人とも泳ぐのは大丈夫?」
これで実は泳げませんでした、などということだったら計画を根本から変更、は今さらできないのでお留守番をしていてもらうことになってしまう。
「リュカリュカ……」
「最初に確認しておくべきことですよ……」
やめて!そんな残念な子を見るような目で見ないで!
……言い訳をさせてもらうと、貨客船やヴェンジ社長の巡回船に乗った時に二人とも何も言わなかったので、暗黙の了解的に泳げるのだろうと勝手に考えてしまっていたのだ。
それと、リアルではクラスメイト――もちろん女子のことですが何か?――などに本格的なカナヅチの子がいなかったので、全く泳げない可能性を最初から除外してしまっていたのだった。
「それほど広くはありませんでしたが、故郷に居た頃には近くの川で魚獲りなどもしていたのである程度は泳げると思います」
ネイトは日常的に水に触れる機会があったようだ。それなら心配はいらないかしら。
それではミルファは?
「わたくしも幼少の頃にいざという時のために泳ぎの訓練をさせられましたから、問題ありませんわ」
いざという時って何!?
とてもとても気になったのだけれど、詳しい内容を聞くのが怖いよ!?




