770 ナイス判断だったかも
事の真相はこうだ。
十日ほど前のこと、ビンスとベンの二人はゴーストシップサルベージ社の仲間と一緒に副業兼訓練の銛漁に精を出していた。ただ、その日はいつもと違ってより遺跡に近い場所へと移動していたらしい。
きっと虫の知らせというか第六感的なものが働いたのだろうね。
え?物語を進行させるための強制力?そいうメタ的なことは知っていてもお口チャックなのです!
そこでまあ、なんやかんやあって見事に遺跡の奥へと続く隠し通路を発見してしまう。
好奇心に後押しされたこともあって何百年かはたまた何千年ぶりか、ともかく途方もなく長い時ぶりに二人はバーゴの遺跡内部へと足を踏み入れた人物となったのだった。
もっとも、隠し通路――隠し水路?――の先は水から上がれるようにこそなってはいたが、四方が壁に囲まれた閉ざされた空間であったらしい。
色々と探っては見たが隙間一つ見つけられず、すっかり熱も冷めて意気消沈してしまったのだとか。
さらにそうなったことで今度は自分たちがしでかしてしまった事の重大さを自覚してしまう。何度も言うように、この遺跡はバーゴの街中にあるという格好の立地条件にあるにもかかわらず、その内部はずっと前人未到のままだった。
そんな場所に足を踏み入れてしまったのだ。例え何もなかったとしても誰かに知られれば大騒ぎになるだろうということは簡単に想像できてしまった。
しかも、折しもその頃はまだタカ派を中心とした腐敗した貴族たちへの粛清を伴った大改革が軍部を中心に国中で進められていた。
ヴァルゴ領の領主自身は中立寄りの穏健派だったけれど、港町であるバーゴには他所の領出身の者も多く出入りしていたため、街中では強制捜査や捕り物といったきな臭い騒動がそこかしこで発生していたのだった。
まあ、今でもサジタリウスとスコルピオスの二伯爵がそれぞれの領地に引きこもって国への対立姿勢を明確にしているけれど、
ゴーストシップサルベージ社は船乗りや港での仕事に従事している人々からは一目置かれる存在ではあるが、その一方で街全体からすればまだまだはぐれ者が寄せ集まっている犯罪者予備軍一歩手前程度にしか思われていない。
まあ、若い頃からやんちゃしていた連中が大半のようであるし、統治者側からすれば目障りな存在ではあるだろう。
ちなみに、やんちゃというのはオブラートに厳重に包んだ表現となる。
こちらは身分格差が堂々と横たわっている世界だからね。思春期の衝動の発露どころではないのです。
話を戻そうか。緊迫した情勢が続いていたため、二人は遺跡のことを公にすることをためらってしまう。最悪手柄を横取りされた挙句に身に覚えのない容疑を掛けられてしまうかもしれないとなれば、それも仕方がないだろう。
幸い通路の奥には何もなかったのだ。自分たちさえ口を閉ざしておけば問題ない。
「――つまりはそう考えたということだね?」
ボクからの最終確認に、ビンスとベンは力なく頷く。まあ、良かれと思ってやったことがものの見事に裏目に出てしまった訳だから、消沈してしまいたくなるのも理解できる。
彼らにとって想定外だったのはキューズやボクたちといったバーゴの遺跡に目を付けた存在がいたことかしらね。
「チッ!そんなことくらいで俺たちが潰されるか」
「大将の言う通りさ。いつもは衛兵連中の顔を立てて大人しくしてやってるけどね。本気で喧嘩を売ってくるならいくらでだって高値で買い取ってやるよ」
……気炎と一緒に物騒な台詞を吐いているヴェンジ社長とカーシーさんのツートップを見ていると、二人の判断もあながち間違いじゃなかったような気がするよ。
ヴァルゴ侯爵たち支配者階級の貴族たちに反旗を翻すようなことはなくても、衛兵や領軍に不満を持っている人は船乗り界隈では少なくないはずだ。
「そうなると領軍やら治安組織との全面衝突なんてことも起き得てしまうんですから、くれぐれも自重してくださいね」
「お、おお……」
「え、ええ……」
ニッコリ笑顔で、ただし眼は笑っておらずしかも雰囲気を威圧的なものへと切り替えてそう言うと、社長室に集まっていた人たちが一様にコクコクと首を縦に振ったのだった。
「それと……、仮に隠し通路のことが公開されていたなら、もしかすると先日の船は航路を逸れるだけでは済まなかったかもしれませんね」
「そいつは一体全体どういうことだ?」
推測を述べると今度は全員そろって頭の上に?を浮かべている。
……ああ、そうか。バーゴに住む彼らにとって遺跡はあって当然のものだから、世界を引っ繰り返すような超兵器が隠されているかもしれないとは想像もできないのだね。
知らないままでいられるのであればそれに越したことはないのだろうけれど、遺跡の隠し通路を見つけてしまっているからなあ……。
「この街の人たちにとって遺跡は邪魔なだけの構造物かもしれませんけど、もしかするととんでもなく危険なものかもしれないんです」
「は?」と唖然とした声を出して目が点になる一同。
うん。まあ、いきなりこんなことを言われたらそういう反応にもなるよね。
「昔むかし、今の国々へと別れるより以前に、アンクゥワー大陸全土を支配していた国があったのはご存じですか?」
「ああ。『大陸統一国家』のことだな」
こともなげにヴェンジ社長が答えると、残る三人が「大将スゲー!」という目を向けている。
ポートル学園での歴史の教科書には『大陸統一国家』からこの地を任された、というところから書き始められていたので一般常識的な知識かと思っていたのだけれど、それは貴族階級に置けるものだったのかもしれない。
「バーゴの街にあるあの遺跡は、多分その『大陸統一国家』時代のものだと思われます。大陸全てを支配していたことから何となく理解できるかもしれないけど、当時の技術力は今よりもはるかに優れていた。ボクたちが遺跡巡りを趣味にしていることは言いましたよね。とある遺跡では侵入者排除用のドラゴンを模したゴーレムなんかが未だに動いていました」
え?ドラゴン風のゴーレム?
何のことか分かりませんね。
「そんな感じで、この遺跡にも危険なものが眠っているかもしれないんです。で、ここからが本題。そんな危険なものを手に入れようとしているやつが、今この瞬間にもこちらへと向かって来ています」
正確には違うのかもしれないけれど、多分きっと似たようなものだろうからそういうことにしておこうと思います!




