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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十六章 港町と遺跡と

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765 ゴーストシップ

 戦々恐々とするボクとは裏腹に、慣れているのだろうカーシーさんはノックをすると返事が聞こえたかどうかというタイミングで扉を開けてしまう。


「……おい、せめて返事を聞いてから扉を開けろよ。不在だったらどうするつもりだ」

「ちゃんと居るって分かってたから開けたんだよ。それとも、人に見られたら困るようなことでもやっていたのかい?」


 ちなみに、例のプレートの『在室』のところにピンが止めてあったのを確認していたそうです。


「そ、そそそそ、そんなことしているはずがないだろう!」


 どもった。

 これは本当にクロ?


 まあ、犯罪にかかわるようなことではなさそうだし、ナニをしていたのか詳しくは知りたくないからこれ以上は尋ねたりしないけれど。


「それよりも大将にお客さんだよ。スウィフの旦那からの紹介だってさ」


 カーシーさんもそれは同じだったのか、さらりと本題であるボクたちのことを話し始める。


「大将じゃなくて社長と呼べといつも言っているだろう」

「はいはい。シャチョサン、シャッチョサン」


 片言風なその呼び方は根本的に何かが間違っているのでは?奇しくもぞんざいに扱われている大将改め社長さんと一緒に、ついつい微妙な顔つきになってしまうのだった。


「あー、『ゴーストシップサルベージ』社長のヴェンジだ」

「冒険者のリュカリュカといいます。こっちは仲間のミルファとネイトです。よろしくお願いします」


 気を取り直して名乗って頭を下げあうボクたち。世界観的に握手やハグなのでは?と思われるかもしれないけれど、そこはリアルのニポン準拠です。

 あと、直接的な接触を苦手とする人もいるからね。VRだからそういう点には特に配慮をしているのだと思う。


「それにしても、凄い社名ですね」

「俺たちみたいなあぶれ者どもに相応しいハッタリの効いた良い名前だろ。まあ、外の海とは違ってウィスシーに幽霊船が出たなんて話はないんだがな」

「え?そうなんですか?」

「中心の方は(ヌシ)のような大型水棲魔物の巣窟だからな。基本的にこっちの船は陸が見える所を動いているから、船長以下乗組員全員が素人でもない限り、遭難するなんてことは起こらねえんだわ」


 言われてみればとても納得な理由だった。それでも荒天の中で大波にやられたり、濃霧で居場所が分からずに浅瀬で船底を傷つけたりといった具合に沈没してしまった船もそれなりの数に上るのだとか。


「それでも船が丸ごと乗員含めて行方不明になったなんてことはないから、幽霊船も現れようがないって訳だ」


 ついでに魔物という目に見える脅威があるから、幽霊船のような不確かでよく分からない存在の出番はなく、彼らのハッタリを効かせた名前に落ち着くことになったようだ。


「ところで、スウィフの旦那からの紹介らしいが、冒険者の嬢ちゃんたちが俺たちに何の用だ?焦っているようにも見えねえし、ウィスシーに大事な何かを落としてしまった、ということでもないんだろう?」


 何気ない雑談の最中にもしっかりとこちらの様子は観察されていたらしい。そのあたりの抜け目のなさは、一団を率いている者だけのことはあるということか。


「とりあえずはそのスウィフ船長からの紹介状です」


 こんなこともあろうかと!と預けられた手紙をヴェンジ社長に渡す。

 が、中を開いた途端に渋い顔になってしまう。


「なになに、『世話になった方だからよしなに頼む』……って、これだけかよ!?」


 本当にただ紹介するだけのことだけしか書かれていなかったみたいです。隣では「やれやれ……」と言わんばかりの表情でカーシーさんが肩をすくめていた。

 もしかして彼女が紹介状を見ようとしなかったのは、こうなることを知っていたからなのかな。


「相変わらず適当なお人だぜ……」

「だけど大将、あの旦那が手放しに誉めるっているのも珍しくないかい?」

「確かにそれは言えてる。色々と見抜く目だけは確かだからな」


 なんでもスウィフ船長には世話好きというかお節介な一面があるそうで、かくいう彼らも目をかけて取り立ててもらったことで今のサルベージ業を始めることができたらしい。

 ただし、アドバイスではあるものの結構辛辣なことも言われるそうで、心が折れそうになった人は両手の指の数では足りないくらいだという話だった。


「一言だけ「雇ってやれ」とだけで紹介した経緯はさっぱりなのに、「これこれこういう欠点とか弱点があるやつだから」なんてことは異様に詳しく書かれている、なんてこともあったな……」


 お世話になった過去があるから文句も言いにくかったのだろうなあ。ついには現実逃避して遠い目をし始める二人。


「それはたぶんボクたちが乗客として乗船したのに、魔物退治を手伝ったからだと思いますよ」


 放っておくと帰ってくるまでにとんでもなく時間がかかりそうなので、さっさと説明を始める。

 ついでにこちらへお邪魔することになった、遺跡見物が趣味という思い付きカバーストーリーも話しておきましょう。


 ミルファとネイトも「よくそんなに口が回るなあ……」的な顔をするのは止めて。これでも嘘を吐くこと自体への罪悪感はあるのだから。

 もっとも、だからと言って本当のことを話せる訳でもないのだけれどね。

 浮遊島関連は表に出すには危険すぎる。


「あの遺跡を水の上から見てみたい、ねえ……。そのために小舟を出してくれるところを探していたのか」

「できますか?」

「できるかどうかで言うなら、何の問題もねえな。遺跡の周りは交易船みたいなでかい船が近づかないように日に何度も巡回してる。どうしても小舟の方がいいって言うなら、若いやつらの誰かが漁場にしていたはずだから、そいつに任せるのも手だぜ」


 どちらも巡回や漁ついでなので、お代も安く請け負ってくれるという。


「それはちょっと申し訳ないような……」

「旦那から頼まれた相手から大金せしめるような真似ができるかよ。お前さんたちは大人しく首を縦に振っておけばいいのさ」


 やれやれ。これは何を言っても聞き入れてはもらえなさそうだ。

 何か別の方法でこっそりお礼をする方法を考えることにしよう。


「そういうことなら、よろしくお願いします」


 こうしてボクたちは、ヴェンジ社長率いるゴーストシップサルベージの船で遺跡を湖側から観察することができることになったのだった。


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