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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十六章 港町と遺跡と

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762 聞いてみよう

 どう動くかを決めようにも情報が足りなさ過ぎる。

 まあ、余所者な不審者のボクたちがこれだけうろつきまわっているのに、しかるべきところへの通報はおろか小言や苦言の一つもないあたり、近隣の住民たちにとっては関心を向ける対象から外れて久しいことは間違いないだろうね。


「これだけ無関心となると、聞き込みはするだけ無駄な気がする」


 それどころかこの遺跡は港が拡張できなかった原因でもあるから、地域の発展を阻害し続けている邪魔者として憎々しく思っている可能性もある。

 下手に話題に出すだけで神経を逆なでしてしまうかもしれない。


「ずっと街の発展から取り残されてきたのでしょう。この侘しさや寂しさはわたしの故郷を含めた貧しい辺境地域の村々に通じるものがあります」


 ネイトの言葉がすとんと腑に落ちる。なるほど。ここは開発から取り残された貧困地区なのか。

 ゴーストタウンやスラム化していないのは、領主館など行政関係の主要施設からさほど離れていないためかしらね。


「領主には頼ることができない、住民には期待できないとなると、情報を得られる先はかなり限定されてしまいそうですわね……」


 多分別の地区の住民も同様だろうから、近辺を航行することのある船乗りたちの方が何か知っているかもしれない。

 図書館や資料館あたりにヒントが書かれた古文書や研究史などが保管されている、というのもありがちな流れかな。だけどこちらは既にポートル学園で使用済みだから、情報収集が単純化しないように除外されている可能性もある。


 ゲームのご都合主義に期待するなら、冒険者協会に向かってみるもの選択肢の一つかな。遺跡の研究者がタイミング良く協力者の募集を依頼している、という展開も考えられるからだ。

 ただ、メタ的なことを言ってしまうとキューズとかなりキャラが被ることになるのよね……。

 どちらかといえば『水卿エリア』スタートで、ワールドクエストの『天空の島へと至る道』を発生させる手順のような気がする。


 結局、無難に船乗りたちに尋ねてみることにしたボクたちは、港へと逆戻りすることとなったのだった。


「おや?誰かと思ったら嬢ちゃんたちじゃねえか。どうしたい?忘れ物でもしたか?」


 と、いきなり話しかけてきたのはボクたちが乗ってきた船の船長さんだ。

 魔物の撃退を手伝ったこともあってか、下船する際にわざわざ挨拶に来てくれたのでお顔を覚えていたのだった。それがなければ正直「どちらさまですか?」と返してしまったと思うくらいにはモブ顔だったりします。


「こんにちは、船長さん。さっきぶりですね。実はボクたち、冒険者稼業の傍ら遺跡を見て回るのが趣味でして。バーゴにも街の南端にある遺跡を見に来たんですよね」

「ほおー。そりゃあまた、若いのに高尚というか渋い趣味だな」


 口から出まかせのボクの言い分を疑問に思うことなく受け入れる船長さんです。

 良く言えば器の大きい、悪く言えば大雑把な、いかにも海の男という感じだわね。正しくは海じゃなくて湖だけど。


「それでさっそく見に行ってきたんだけど……」

「ああ、埠頭みたいに湖に突き出してる代物があるだけで、他には何にもなかっただろ」

「そうなんですよ!街の中にあるから、てっきり観光地にでもなってるのかなと思ってたのに、看板の一つもなくてびっくりでした。話を聞こうにも出歩いている人もいないですし」

「そりゃそうだ。あの辺りは金持ち連中の別荘街というか、客人をもてなしたりするための場所になっているからな」


 船長さんの話によると、遺跡近くのあの区域はもともとトップからはワンランク落ちるものの、十分富裕層に位置する人々が住んでいた地区だったらしい。

 確かに、領主の館の近くとか分かりやすいステータスよね。しかし時代の移り変わりと街の変化には勝てず、徐々に寂れていったのだとか。


 ちなみに一番手争いをするような連中は貴族街からも近いもっと西側の地区に居を構えていて、そちらは今でもしっかりと高級住宅街の地位を維持し続けているらしい。


「一時は領主様が買い上げて騎士団なんかの訓練用の土地にしようかって話もあったそうだぜ。だが、せっかくそれなりのものが建っているんだから、それを使わない手はないだろうってことで、今の形に落ち着いたって話だ」


 取り壊すにしても人と金が必要なのはこちらの世界でも同じなのね。それなら既にある物を利用して、と考えたのも納得だわ。

 ただ、賓客の接待にも使用しているということは、それだけ見知らぬ人が出入りしているということでもあるのよね。


「船長さん、最近行方不明事件が立て続けに起きてたりしません?」

「なんだそりゃ?俺もずっとこの街にいる訳じゃねえが、そんな物騒な話は聞いたことがないぞ」

「あ、それならいいんだけど」


 今のところは非合法な怪しい組織がアジトにしていて……、といったイベントは発生していないもようです。ぜひともこのまま何も起こらずにいてもらいたいものだわね。

 それはともかく、キューズが密かにバーゴへの街に到着して滞在していても、発見できない下地が存在しているということになる。

 姿が見えないからと油断して、気が付かない内に逆転されていた可能性もあった訳だ。


 大公様たちに居場所が特定されてしまう危険性もあるので、元よりのんびりするつもりはなかったけれど、これは思っていた以上に制限時間が厳しいのかもしれない。

 とりあえず発生するかどうかも分からない周囲への被害を考慮している暇はなさそうかしら。


 だけど、先ほどざっと見た限りではシックスセンス的な乙女の勘にビビッとくるようなものはなかったのよね。もちろん単純に見逃したり見落としたりといったミスをしていた可能性もあるが、できれば別の方向からも調査しておきたい。


「船長さん、小舟を借りたり出してもらったりできる所ってあります?」

「小舟?ないこともないが、どうするんだ?」

「せっかく来たんだから、湖の上からもあの遺跡を眺めてみたいなと思いまして。バーゴに入る時にはすっかり街や港の方に気を取られていたので」


 これはお世辞でもなんでもなく、ずらりと並ぶ港に大きいものから小さいものまでたくさんの船が並んでいる光景はなかなかに圧巻で、さらにその向こうに街並みが垣間見えて、完全に見惚れてしまっていた。


「そういうことなら、あいつに頼むのがいいかもしれねえ」


 おやおや?ふと思いついたからダメ元で尋ねてみたのだけれど、意外と脈ありですか?


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