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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十六章 港町と遺跡と

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761 バーゴの街と遺跡

 巨大湖(ウィスシー)の西岸にある港町、ヴァルゴ領の領都であるバーゴは南北に長い形をしていた。これは港とそれに伴う倉庫街が長い年月の間に拡張され続けていったためで、今でも数十年ごとに北へと少しずつ伸びているのだそうだ。

 その結果、街の中心にあることが多い領主の館や行政庁舎、騎士団や警備隊の本部といった主要な建物群の全てが南方へと集中する形となっていた。


 どうして北にばかり拡張されていったのか?

 その答えがこちら。街の南端にある遺跡が邪魔をしているためだ。


 この遺跡は湖へと半ば突き出すようになっていて、そして半ば沈没するようにして存在していた。つまり、大きくて底が深い船が行き交うことができなかったのね。

 護岸を始めとした整備をするためには沈んでいる遺跡を解体する必要があり、そんな手間とお金をかけるくらいならば北側へと拡張していく方が簡単ということで、今のような形の街となったのだった。

 拡張に伴って新たな外壁を建造する必要があるけれど、それはどちらに広がっても同じことだしね。


「そのせいで今まで転移装置が発見されることがなかったんだから、良かったのだかそれとも悪かったのだかという話よね」


 目的の遺跡を見てみれば、思わず愚痴っぽい言葉が飛び出してしまう。

 浮遊島という『大陸統一国家』時代の特大級に危険な遺産が表舞台に現れてこなかったのは良かったことなのだろうが、転移装置がいまだに使用可能なまま存在し続けているかもしれないという点は悪いことのように思える。


 古くからの地区でありほとんど修繕や改修などのアップデートも行われてこなかったためだろう、常に人と物が行き交っている港側に比べるとなんと寂れた雰囲気であることか。

 コソコソと動き回っていても怪しまれないというのは利点だけれど。


「どうせなら完全に解体済みだとか、遺跡を壊したせいで転移装置は水の中ってことになっていれば良かったのに」

「それはさすがに他力本願が過ぎるというものですわ。それに浮遊島に居座っている者たちは全て死霊化していますから、水の中であっても平気で動き回るかもしれなくてよ」

「ウィスシーの平穏をこいねがう神殿としての面もあったようですし、解体どころか手を加えるだけでも住民たちからの大きな反発があったのかもしれません」


 遺跡の手前に建てられている小さな拝殿らしき建物へと視線を向けながらネイトが言う。花飾りやワインの瓶が捧げられているあたり、近隣の住民たちにとっては現役の祈りの場になっているようだ。

 ポートル学園の図書館にあった歴史書の記録が確かならば、元々は巫女の家系だったということになるみたいだし、それこそ昔は領主一族が率先して儀式とかを行っていたかもしれないね。


「まずは入り口がないか軽く調べてみましょうか」


 情報をかき集めて吟味することも大切だけれど、実際に現物を見て考えることも重要なのだ。せっかくここまで足を延ばしたのだから、できることからやっておくべきだろう。

 岬のように湖へと突き出している石組みの上を慎重に歩く。水上に露出しているのは幅五メートルほど、長さ十数メートル程度といったところだろうか。石組みで水面まで二メートルくらいだろうか。


 リアルで似通っているものとなると、海水浴場の両端などに飛び出している防波堤かな。アレを思い浮かべてもらえば当たらずしも遠からずだと思う。

 ただし、こちらにはその突端に簡素な鳥居のようなものが建てられていて、さらに水中へと目を向けると階段状――と言ってもメートル単位での幅と高さになるが――に石組みが続いているのが見えていた。


「うーみゅ……。分かりやすく怪しいわ」


 鳥居のような物体は土台と同じ石材っぽい材質で作られていて、根元部分に至ってはがっちりと組み込まれていた。

 頭上で横に渡されている部分もコンクリート製か何かのように継ぎ目のない一本の材からできているようで、折れるでもしない限りは崩れてくることはなさそうだ。


「石を切り出したり加工したりということには疎いですけれど、ここまで互いの接地面が滑らかな建築物は見たことありませんわ」


 と、石材を中心に建てられたお城で暮らしていたミルファも驚く、地味にオーパーツ具合であります。


「ああ、そうか!どうにもあんまり遺跡っぽくないなと思っていたら、ここって全然風化してないんだ!」


 石材の端や角が落ちて丸くなっていることもなければ、継ぎ目に隙間ができることもないから砂や土が入り込んでそこに雑草が生えている、なんてこともなかったのだ。


「確かに遺跡と呼ぶには状態が良過ぎるような気もしますけれど、それがどうしましたの?」「もしかすると、ここがまだ生きている証拠なんじゃないかな」

「文明が進んでいた当時の技術であれば、施設の劣化を防ぐような機能くらいはあったかもしれませんね」


 はるか昔から気が遠くなりそうな年月の間、都市を丸々一つ空の彼方に浮かばせ続けているのだ。絶対にあり得そうな機能の一つだと思う。


 だけど、そうなると下手に触って回るのは危険が伴うかもしれないですぞ。

 門と呼称されていた恐らくは転移装置だと思われるものが作動するだけならばともかく、敵対者対策の罠や攻撃が稼働してしまったら、ボクたちどころかバーゴの街にまで被害が及んでしまうかもしれない。


「定番の侵入者撃退用ロボットというか殺戮ゴーレムも配備されていそうなのよね……」


 遺跡の内部に出現するだけなら攻略が大変になる程度で済む――いや、それはそれで困ったことになるのは間違いないのですがね――けれど、周辺の安全を確保するとか言って外に飛び出してこられでもしたら……。


 再三述べてきたようにこの遺跡は外れとはいえ街の中にあるからね。いわば内側から奇襲を受けるような形となってしまうのだ。

 ジェノサイドの発生で街が消滅、なんてことが起きてしまう可能性も十分にある。


「いっそのこと、ヴァルゴ領の領主に協力を求めますか?」

「そこを頼っちゃうと確実に大公様たちにまでボクたちのことが伝わっちゃうはずだから、できれば最終手段にしたいところかな」


 もっとも、キューズに先を越されてしまっては本末転倒なので、彼がこの街に到着するより前には決断しなくてはいけないだろう。


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