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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十六章 港町と遺跡と

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759 湖にお船を浮かばせて

 その日の夕刻、ボクたちはウィスシーの湖上の人となっていた。なんと都合の良いことに、夜通し走り翌日の午後には対岸にあたるヴァルゴ領へと到着するという船便があったためだ。

 主と呼ばれるほどの巨大水棲魔物たちの領域(テリトリー)となっている中央付近とは比べ物にならないとはいえ、沿岸付近にも魔物は出現するはずなんだけれどねえ。


 ゲームの世界ということで、細けえことはいいんだよ!な精神で深く考えない方がいいのかもしれない。


「本当にこれで良かったのですか?」


 ちょっぴりおセンチな気分を演出しながら甲板で沈みゆく夕日を眺めていると、背後から近付いてきたネイトにそんな言葉を投げかけられた。


「んー。まあ、色々と中途半端なまま放り投げてきちゃったことは確かだよね」


 こちらからも協力していたとはいえ、お世話になったことに違いはない。しかも最後の最後でジェミニ侯爵本人が不在だったのをいいことに、捕まえた例の連中の後始末を屋敷の人たちに丸投げしてきてしまったのだ。

 立つ鳥跡を濁しまくりである。


「でも、国に取り込まれるつもりはないから」


 タカ派高位貴族の子どもたち恫喝(どうかつ)……、コホン!説得した際に、ジャグ公子のことを持ち上げるような言い方をしたことが聞く側に都合良く変換されながら広まったらしく、日和見貴族たちの中にボクのことを公子妃へと推そうとする動きが出てきていたようなのだ。


 その貴族自身だけではなく一族に連なる者たちの浮き沈みにもかかわってくることなので、ある程度は仕方のない部分はあるとは思う。

 が、それはそれでこれはこれだ。勝手に人のことを担ぎ上げて巻き込もうとするやからに好感を持てるはずもなく。


「上から目線で「公子妃にならせてやる」とか平気で言うようなおバカたちの相手なんてしていたくないもの」


 冗談かそれともネタかと思われてしまいそうだが、これが本当にあった話だったりするのだ。しかも三件も。

 二件はお貴族様本人が直接会いに来たものだったが、明らかにこちらを下に見ている態度だった。残る一件などは一応側近ではあったらしいのだけれど、配下の者任せでその上断った瞬間逆上して力づくで無理矢理連れ去ろうとしてきたほどだった。


 そんなことをやっている暇があるなら、立てこもっているサジタリウスとスコルピオスの二伯爵を引きずり出すための策の一つでも考えろと言いたい。

 もちろん三者ともトウィン兄さまを通じてジェミニ侯爵に、ジャグ公子やローガーたちトリオを通してお城へと報告済みです。


 ついでに今回のボクの出奔の原因にもなってもらっているよ。ジェミニ侯爵宛てに「高圧的かつ暴力的に近づいてくる貴族たちがいて身の危険を感じるので、しばらく身を隠します」的な手紙を残してきたので、お城内部では追加の大掃除が行われることでしょう。うふふのふ。


「そういう意味ではさっさと逃げ出したのは正解でしたわね。いくら最高権力者と言えども、大多数の声を無視したり棄却したりすることは難しいものですの。明らかに有益であると考えられる事柄であればなおさらですわ」


 いつの間にかミルファもそばまでやって来ていたみたい。


「国や組織のためになるのであれば、例え己の心でさえも押し殺せてしまうのが権力者というものですわ」


 個や私よりも公を優先させられる人ということか。うん。大公様たちは確実にそちら側だよね。現に反抗を明確にしたスコルピオスとサジタリウスの二伯爵とその近しい血縁者は確実に潰される――未成年は除く――ことになっているが、国内外の反発や便乗犯の出現を抑えるために名前そのものは残されることが決定している。


 ジャグ公子もポートル学園へのボクの乱入などもあって持ち直すことができたから結果的には事なきを得ているけれど、タカ派のいいように担がれたままならば廃嫡も含めて切り捨てられていただろう。


「リュカリュカがこの国でやらかしたことは全て好転していますものね……」

「ええ。ですから実績も十二分ですし、取り込むべきだとする声が大きくなれば上層部のお歴々も動かざるを得ないはずですの」

「……二人の言いたいことはよく分かったよ。後、微妙に褒めていない言い草だったことには目をつぶりましょう」


 悔しいけれどいくつかの事例については「やらかしちゃった!?」と思えてしまうものがあるので。

 加えて、あえて誰も口にしなかったが、もしも浮遊島やそこに至る転移装置のことが大公様たちにバレてしまったら、間違いなく国益のためとして強硬手段でもって奪取されてしまうという予感もあった。

 今よりもはるかに進んだ技術の塊だからね。例えオーパーツで様々な部分に不明な点や危険があったとしても、確保するという方向に舵がきられることだろう。


 むしろ御先祖様の件があったとしても、勝手に転移装置を破壊したボクたちを咎めることなく簡単に破棄を選択したクンビーラの方が異常というか少数派なのだ。


 そうこうしている間にも船は進み、時折遭遇した水棲の魔物が甲板へと飛び込んできては、直後に警護の冒険者たちに美味しい食材へと変化させられていた。


「一般乗客枠で乗船して正解だったね。これがずっと続くなら寝ている暇がなかったかもしれないよ」


 どうやら遭遇はランダムエンカウントのようで、十分以上何も現れない時があったかと思えば、連続で魔物が飛び込んでくるということもあったのだった。


 余談だけど、(ぬし)クラスの巨大魔物を引き寄せてしまうのでウィスシーでは釣り糸を垂らすことが厳禁とされている。

 沿岸部だからと油断していたら超巨大魚がかかり、逆に湖の中に引きずり込まれたとか、逆に頭から丸のみにされてしまった、といったプレイヤーからの報告がいくつも掲示板に挙げられていたりする。

 運営の中に釣りを敵対視しているスタッフでもいるのかしら?


「あまり気を抜いてはいられませんよ。いざという時にはわたしたちも戦闘に参加しなくてはいけないのですから」

「ネイトさんや、フラグになりそうなセリフを言うのは止めて……」


 思わずげんなりした顔で呟いてしまう。一般乗客枠だけれどボクたちは冒険者ということで、手が足りない時には魔物討伐に参加しなくてはいけないことになっているのだ。

 まあ、その分料金がお安くなっているし、戦闘に参加した際には追加で謝礼金が出ることになっているのだけれど。


 しかし、ボクたちまで駆り出されるということは船にも被害が発生する確率が高いということになる。修理のために余分な時間がかかるだとか、最悪途中で航行停止ということだって起きてしまうかもしれない。


 幸いにも、不安に駆られながら眠りについたボクたちが叩き起こされるという事態は発生しなかったのだった。


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