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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十五章 混迷する学園

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753 呼応する動き

 状況が変わったのはその数日後のことだ。

 あ、講堂に集められた学園生の内、捕らえられなかった八人は全員ジャグ公子たちの庇護下に入ることになったよ。

 貴族としてぬくぬくと過ごしてきた彼らにいきなり自立は無理だったもようです。


 とはいえ、こちらはこちらでいばらの道ではあるのだけれど。何せ早い人だと半年程度で自分の有用性を証明して見せなくてはいけないのだ。

 しかも立場的には最底辺となる。高位貴族の身分を笠にこれまで見下してきた相手から逆に見下されることになるのだ。

 さて、何人が無事に卒業できるのでしょうね?


 それはともかく、本題の方だ。大公様からの出頭命令を無視して領地に立てこもり沈黙を続けてきたサジタリウスとスコルピウスの両伯爵が、ここにきて自身の正当性を訴え始めたのだ。

 もっともこれ自体は予想の範囲内のことで、ジェミニ侯爵から言わせれば「遅すぎる」ほどだった。


 想定外だったのはそのやり方で、首都中に潜ませていた配下の者たちが一斉にビラを撒きながらそれを声高に訴えていったのだ。

 これによって首都中の人たちに、そして国中の人々に二伯爵の主張が知られることになる。

 そして、当然のように街のそこいら中で捕り物が行われることとなり、一時首都は騒然とすることになったのだった。


 それらはすべて囮で、隙を突いて城やポートル学園――貴族の子弟が多く通っているので、人質にするにはうってつけなのです――が襲撃するつもりではないか、という意見もあったらしいのだけれど、幸いにもと言うのかそうした襲撃が行われることはなかったのだった。


 さて、肝心の二伯爵の主張の中身ですが、撒かれたビラに書かれていた文言の内、全体のおよそ九割を占める美辞麗句に彩られた自身への賛辞と口汚らしく綴られた大公家とそれに従う貴族たちへの罵倒――内訳は前者が約六割で後者が約三割となる。どんだけ自分好きなのか……――を除くと、おおよそ以下のようなものだった。


『長年にわたる独自の調査により、『大陸統一国家』時代の都が我らサジタリウス領とスコルピオス領にまたがる場所に存在していたことが判明した。つまり、我々こそが『大陸統一国家』の、ひいては『水卿公国』の正統な後継者なのである。現大公はこの事実を受け止め、速やかに国主の座を明け渡すべし』


 そして、これを読んだ人たちの反応がこちら。


「……こいつらはバカなのか?」


 ズバッと言ったね、ジャグ公子。

 でも、一歩間違っていれば君がその言葉を向けられることになっていたかもしれないことは理解していますか?


「主張の根拠となるものを何一つ添えずに、何をどうやって信じさせようというのでしょうか……」

「せめて遺跡の在りかくらいは書き記しておくべきだったな。これではどこぞの貴族の御落胤(ごらくいん)を自称する市井の詐欺師と大差ない」


 ライレンティアちゃんに続いて、ミニスが真っ当な意見と痛烈な皮肉を口にしている。

 一応あちらの屁理屈によれば、「公表したら恥知らずどもが恥知らずにも所有権を主張して大挙して押し寄せてくるから秘密にしているのだ!」ということであるらしい。

 だけど、各貴族はそれぞれの土地を実効支配しているだけで、根源的には国からの代理として任されているのに過ぎないのだけれどねえ。そのことはすっかり忘却の彼方に放り投げてしまっているもよう。


「そもそも『十一臣』は皆、元をたどれば土地を持たない法衣貴族だったはずですよ。現在の領地はその功績をたたえて初代大公様によって分け与えられたものです」

「その通りだね。だとすると……、『十一臣』を隠れ蓑にした土着の者たちの主張かな。北部は建国期の動乱から距離を置いていたというし、豪族であればそうした伝承を密かに持ち続けてきたとしても不思議じゃない」


 さらにスチュアートがその主張の根本的な間違いを指摘すると、トウィン兄さまが自説を披露していった。

 重臣の離反となるととんでもない失態と醜聞になるから、大公様たち国の上層部としてはそうした方向で処理することになりそうな気がする。


 とにもかくにも二伯爵の主張は穴だらけどころか、話にならないレベルの稚拙なものでしかなかく、一般的には「何言ってんだ、こいつら?」と嘲笑されてまともに取り合われることはなかったのだった。

 つまり、現当主家のお取り潰しの路線は変わりがないということだね。


 話し合いに応じる気配はなさそうなので、軍を派遣して強制的に、という形で事が進むことになるのかな。

 とはいえ、ドンパチやり過ぎて国力が低下したなんてことになっては斜陽が始まることになってしまうので、大公様たちはバランス調整に苦心することになりそうだ。


 それにしても、先日の一件でお嬢様モードとのギャップに驚いて距離を置かれることになるだろうと思っていた――実際、直接脅す形となった件の八人はボクの顔を見るなり回れ右をするようになった――のだが、その予想に反して兄さまたちは全く変わらない態度のままだった。


 いや、ライレンティアちゃんとジーナちゃんもまた変わらずに仲良くしてくれているのでありがたいとは思うのだけれど、計画的には疎遠になることで自然と学園からフェードアウトするつもりだったので、少しばかり困ったことになっているのもまた事実でして。

 当然ながらポートル学園を卒業するまで通うつもりはないし、個人的にはそろそろお(いとま)する頃合いではないかと画策していたのだ。


 はてさて、どうやってここから逃げ出す、もとい立ち去るようにしましょうかねえ?

 と、社会情勢の騒ぎを他人事のように横目で見つつ考えていたところ、とある事件が発生する。


 なんと個人的に怪しいと睨んでいたキューズ教官が、学園から忽然と姿を消してしまったのだ。それもサジタリウス領出身ということで密かにつけられていた監視の目をかいくぐって。


「逃亡先は……、まあ、普通に考えれば引きこもり伯爵コンビの所だろうね」


 わざわざ最重要警戒人物が動いたのだ。ハッタリではなく本当に遺物か何かを発見した可能性が高いということでもある。

 とはいえ、二伯爵の行動は陽動で本命は別の場所だったなんていう展開も捨てきれない。面倒でも彼の行き先を特定する作業は行わなくてはいけないだろうね。


 という訳で、レッツ家探し!


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