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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十五章 混迷する学園

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752 死神と天使がついてくる

 無謀過ぎる挑戦――主にそれをやらかしそうなのがローガーだというのが頭の痛いところだ――を防ぐためにも、ブラックドラゴンの強さと危険性をしっかり伝えておかなくてはいけない。


 しかし、ここで問題が一つ。件のブラックドラゴンさんですが、クンビーラに来て以来ほとんど日がな一日だらけて過ごしているのよね……。

 彼が特別怠け者という訳ではなく、ドラゴンという種族全般に言えることらしい。畏怖すら覚える外見の割にはのんびりのん気な性格の者が多いのだとか。

 まあ、並び立つ者がいない最強種族とも言われているくらいだから、ある意味当然かもしれない。意外に子ども好きだしね。


 とはいえ、威厳も何もないというのは困りものだ。

 絶対王者として泰然としているのか、それとも暗愚で怠惰なのかの見分けが一般人につかないように、矮小な人間からは崇高なドラゴン様の考えや行動は理解できないものなのだ。

 少なくともボクはお腹を上にしてグースカいびきをかいている姿を見て、畏れたり敬ったりする気持ちにはなれないです。

 あれ、背中の翼が潰れたりしないのかしら?


 そうだ!本人の言動はともかく、他者からの評価は割とまともなものだった気がする!

 ……うん。あの人やこの人は有名人だからいい感じに脅しに使えそうだ。


「そうそう、ブラックドラゴンについてある人は「一万の兵を預けられても戦いたくない」と言って、別のある人は「その十倍の人数でも拒否する」と言っていたよ。ボクならさらにその十倍、百万人の兵で挑むとしてもごめんだけど」


 もはやレベルを上げれば何とかなるという類の存在じゃないから。

 もしも不意に遭遇してしまったとしたら、「お客様の中に勇者様はいらっしゃいませんか!?」と大声で助けを呼ぶくらいしか生き残る術はないだろうね。


「リュカリュカ、それを言ったのは誰なんだ?有名な冒険者なのか?」


 おや?脳筋なローガーや、こちらの事情を知らされているジャグ公子であればともかく、ミニスがそんなことを尋ねてくるとは思わなかったな。

 適当に誤魔化す?……いや、真実なのだと理解させるためにも、しっかり伝えておいた方が良さそうだ。


「有名と言えば有名なんじゃないかな。一人は『泣く鬼も張り倒す』の片割れであるデュラン様、もう一人は『放浪の洗礼者』ことクシア高司祭だね」

「んなっ!?」


 予想していた以上の人物だったのか、ボクが名前を告げた瞬間、講堂にいた全員が息をのむのが分かった。問うてきたミニスに至っては驚き過ぎて表情が抜け落ちてしまい、ハニワみたいな顔になっております。

 だけど、彼らのネームバリューに頼りきりになってしまうのは問題だ。親しくさせてもらっていることは秘密にした方が良さそう。


「もしかして、会ったことがあるのか?」

「幸運にもあいさつをする機会に恵まれた、とだけ言っておくよ。まあ、冒険者には冒険者なりの伝手や情報網があるということさ」


 母体であり様々なサポートを担ってくれている『冒険者協会』が超国家組織として存在しているのは伊達ではない。

 各支部に置かれている通信の魔道具を用いれば、大陸の反対側で起きた出来事すら共有できてしまうという。もっともこれには色々と制限があるらしく、無制限には使えないとのこと。

 さらに護衛の依頼が多いという都合上、その土地ごとにある『商業組合』とも親しくなりやすい。結果的に下手な諜報機関よりも効率よく多くの情報が集まってくる体制となっていた。


 だからこそ、力を持ち過ぎないように注意する必要があるのだけれど。

 権力の一極集中なんて碌なことにならないだろうしねえ。


「ともかく、そんな方たちですら戦わないことを選ぶほどブラックドラゴンの強さはとび抜けているってこと。クンビーラには手を出さないのが賢明だろうね」


 戦争という過去のいきさつがあるから表立っては仲良くはできないかもしれないけれど、人と物の行き来が大過なく可能な現状を維持することはできるはずだ。


「覚えておくといい。そして胆に銘じなさい。最悪の事態はいつでも大鎌を手にした死神のようにあなたたちの背後を付きまとっているということを」


 まあ、最良の展開もまた祝福の大鐘を抱えた天使のように付き従ってくれているのだけれど、油断や慢心をさせないためにも言わずにおくべきだろう。

 ジャグ公子や兄さまたちを含めて、この場にいる子たちは自分だけでなく多くの人たちの命を左右する立場になる可能性があるからね。


 ちなみに天使の姿が、大鐘を軽々と担ぎ上げるマッチョメンなのか、それとも荒い息をぜいぜいと吐きながら真っ赤な顔で抱えている美少女なのかは解釈次第ということで。

 ボクとしては後者が好みで、無茶振りをしてきた上司への悪態をついていればなおグッド!

 その際には死神くんが「生きてればいいことあるよ……」とか慣れない調子で慰めていたりするのかも。

 そして彼らがそんなやり取りをしている間に、無難な案が選択されて世界は平和に進んでいくことでしょう。


 あれ?何の話だっけ?……ああ、ブラックドラゴンがいかに反則級な変態的強さの持ち主かということだったかしらん。

 まあ、これだけ脅しておけばそう簡単には短絡的な行動をとることはないだろう。兄さまたちを含めた学園生はおろか、城から派遣されてきた兵士の人たちまで顔を青ざめさせていたくらいだもの。


 残るは領地で立てこもっている二伯爵ですが……。これまで軍部の要職に就いていたとはいえしょせんは一領主に過ぎないのよね。

 大公家に『水卿公国アキューエリオス』と比べれば動員できる戦力が違い過ぎるから、例え局所的に勝利にすることができたとしても大勢を覆すことはできないだろう。

 数を揃えて力押しにするという、ある意味正攻法にこだわっていた――というかそれしか知らないっぽい――みたいだから、奇襲やかく乱といった手を打つことすらないかもしれない。


 加えて、位置的にも大陸最北部ということで食料自給率も高くないとも聞く。時間をかけてもいいのであれば、包囲して兵糧攻めにするという手だって大公様たちは使えてしまうのだ。

 物だけでなく人の往来すら止めてしまえば情報までも遮断できるからね。


 消極的だと思われるかもしれないが、下手に戦端を開いて人的被害を出してしまえば他国がちょっかいを出すきっかけを与えてしまう可能性もある。

 そういう点を考慮すると、これはこれでアリな方法なのです。


 まあ、何にしても負ける要素が思いつかないわ。

 なんて思っていたのだけれどねえ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] >祝福の大鐘を抱えた天使 >荒い息をぜいぜいと吐きながら真っ赤な顔で抱えている美少女  ……ふむ。 真っ赤な顔で荒い息して大きな鐘に抱きつく美少女。  ………………鐘に興奮する変態かな? …
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