751 続く暴露回
ストレイキャッツの件はそれだけショッキングなことだったようで、集められた子たちはすっかり静かになってしまった。
まあ、衝撃を受けた個所によっては、まだまだ用心が必要ということになるのだろうけれど。
国が滅びかねないレベルの危険に、身近な人物が手を出していたと恐れおののいてくれているのならいい。しかし、そうした重要な出来事について何も知らされていなかったことを嘆くような思考の持ち主となると、内輪に引き込むには危険すぎる。
今は大人しくなっているが、テニーレなどは元々後者のようなタイプの気がするもの。
だけど、少なくとも「大事を成すためには犠牲がつきものなのだ!」と声高に叫ぶようなはた迷惑なおバカはいないと判明したことは成果だったと思う。
という訳で、彼らの芯がぐらついているのをこれ幸いに、畳みかけるように二つ目の大悪事の暴露、いってみよー。
え?芯がぐらつくどころかもう折れている?
これ以上はオーバーキルにしかならない?
ふむふむ。それならなおのこと話しておかないといけないね。何せ二つ目は、ボクがわざわざお隣のこの国にやって来たことに大いに関係があることなのだから。
「さて、呆けるのは後回しにしてもらうよ。二つ目は――」
「待て待て!リュカリュカ!そなた何を話すつもりだ!?」
いいところでジャグ公子から横やりが入る。いや、本当に測ったかのようなタイミングだったわね。
「……ボクがここに居る理由ですけど。ああ、ちゃんと言いますから心配ないですよ」
ええ、ちゃんと誤魔化すところはあいまいに濁しておきますので。そう言外に伝えたつもりなのだが、公子様はいぶかしげな表情を変化させることはなかった。
「色々と問い質したいことはあるが、それよりも、いつまでそのような話し方を続けるつもりだ」
しかも、お嬢様口調ではなくなったことにツッコんでくるし。こうなったらもう、取り繕う必要などないと思うのだけれどねえ。
「これも平民の話し方に慣れる訓練というものですよ」
とはいえ、揚げ足を取られるのも面倒なので、それっぽい理由をでっちあげることにする。
あちらの芯を折る前に話の腰を折られてしまったが、気持ちを切り替えて話を進めることにしましょうか。改めて集められた子たちの方へと向き直る。
「二つ目は大公様の許可なく『自由交易都市クンビーラ』へと攻め込もうとしていたこと」
これも本当のことで、複数練られていた計画の中には独自の判断でタフ要塞に集めた兵たちを使って攻撃を行おうというものも存在していたそうだ。
他にも城勤めの官僚貴族を抱き込んで、嘘の命令書を作成させようともしていたらしいです。
「それがどうしたと言わんばかりの顔だね。まあ、正式に国交がある訳でもなし、小国と侮ってしまうのも仕方ないかな」
隣接しているミニの街の代官や領主のジェミニ侯爵ですらほとんど危機感を持っていなかったくらいだ。抵抗してきても兵力に物を言わせて叩き潰せばいい程度にしか考えていなかったタカ派貴族たちがまともな情報を持ち得ていたはずもない。
「だけど仮に今クンビーラへと兵を進めていれば、全滅するのはこちらの方だよ」
ボクがそう言い切ると、ローガーたちを含めて講堂内に居る者たちの大多数がざわめきだす。
『三国戦争』時代にはそれこそ三つの大国の軍に包囲されながらも生き延びることに成功しているのだけれどね。それも過去の話で今なら陥落することになると思われているようだ。
悲しいかな、これがクンビーラに対する客観的な評価というやつなのよね。
もっとも、そうやって軽く見られていたからこそ、カウンターインテリジェンスもままならないガバガバな防諜体制でも生き延びてこられた、という側面もあるのだけれど。
あと、情報面でガバガバなのはタカ派の連中も同じよね。攻めようとする相手のことくらいきちんと下調べをしろよと言いたい。
「およそ半年前、ブラックドラゴンがクンビーラの守護竜となってる。それによってあの国は現在、世界でも有数の防衛戦力を持つに至っているの」
「ぶ、ブラックドラゴンが守護竜になっているだと!?」
「事実だ。既に複数の筋から情報が上がってきている」
そんなことが本当に起きているのか?という誰かの疑問に答えたのはジャグ公子だった。
守護竜就任を記念してのお披露目会は盛大に行われたのだが、一応仮想敵国ということで『水卿公国アキューエリオス』は招待されていなかったのよね。
まあ、参加していなかったのはボクも同じなのですが!
「だが、なぜお前がそのような貴重な情報を知っている!?」
すると、男子の一人がビシッ!という効果音が付きそうな勢いでボクのことを指さしてくる。
これこれ、人を指さしてはいけないとママンに教わらなかったのかい?……と冗談はこのくらいにしておきまして。
「その複数ルートの一つとして、ブラックドラゴンの情報を持ち帰ってきたからですけど、何か?」
攻撃する材料を見つけたつもりになっていたのだろうけれど、考えが浅すぎだわね。そのくらいのイチャモンが飛び出してくることくらい想定済みで対策済みなのよ。
「下賤で野蛮な冒険者だからね。実力に合った依頼なら国外へ出ることだってあるのさ。もっともどこかのお貴族様たちは、そんな相手すら使いこなせていなかったようだけど」
敵対して排除しようとしていたくらいだから、使いこなす以前に冒険者が持つその有用性にすら気が付いていなかった、というのがタカ派の実際のところだろう。
クスリと小さく笑ってやると、羞恥からかそれとも怒りからなのか男の子は真っ赤な顔でうつむいてしまったのだった。
噛み付いてきた気概は認めるけれど、反対に自分が噛み付かれる可能性を考慮していなかったことはマイナスポイントかな。
この辺りは高位貴族として育てられてきたことの弊害かもしれない。立場的に言い返せない人や何にでも追従するやからに命令するばかりで、まともな議論などしてこなかったと考えられる。
今後ジャグ公子の下で重用されたいなら、徹底的に鍛え上げなくてはいかない能力の一つだろうね。自発的にそのことへ気が付けるかどうかも評価のポイントになるから、後でこっそりとライレンティアちゃんやトウィン兄さまに伝えておきましょう。
「ブラックドラゴンは頭だけでもボクよりも大きくて、腹ばいで寝そべっていても学園の中庭程度では収まらない巨体だったよ。良かったね。「ドラゴンを相手に無謀な攻撃を仕掛けて全滅した愚かな連中」というそしりを受けずに済んで」
ちょっとそこのローガー君や。驚きながらも「オラ、ワクワクしてきたぞ!」的な顔をしてるんじゃないよ!




