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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十五章 混迷する学園

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743 キーパーソン?

「まず、こちらがそう思い込むように仕向けているという可能性はあると思います。そしてもう一つ。……こちらがどう思い行動しようとも、自分たちの勝利は揺らがないと確信しているという可能性です」


 囮とかミスリードというやつだ。そうして敵対者が誤った方面への対策を行っている間に、本命の準備しておくというのは、古今東西よくある話だろう。

 ところが、そんな前者はともかく後者ともなるとまともな策などとは到底言えない、もはや誇大妄想とかそういったレベルの話となる。

 だけど、思い返してみればタカ派の動きは雑で荒っぽい上に底が浅いものばかりだった気がする。


 テニーレ嬢など、例えどんなにヤバい方法に手を出したとしても公子妃の椅子に座ることができると思い込んでいたほどハピネスな思考回路の持ち主だった。

 てっきり個人の性格に由来するものだと思っていたのだけれど、実はそうではなかったとしたらどうだろうか?


 そもそも彼女の親のスコルピオス伯爵を始め、タカ派の中核であるレオ領やサジタリウス領の領主たちこそがそうした思考でもってこの一連の行動を起こしていたのだとしたら?

 彼女は単にその影響を受けていただけだったのだとすれば?


「軍部への影響力を削がれたとしても、問題なく国家元首の地位を簒奪できるだけの何かを手にしている?」


 そこまで思い浮かんだところで、キューズ教官の顔……、ではなく深くフードを被った怪しい風体が頭をよぎった。

 もしかすると、タカ派上層部の貴族たちが強気でいられる原因は、彼にこそあるのかもしれない。

 証拠とするには弱いが、ローブの人物は過去二回、『土卿王国ジオグランド』と『火卿帝国フレイムタン』でボクたちの前にその姿を現している。


 まあ、格好が似ているだけだから、リアルであれば彼らとキューズ教官に繋がりがあるなどとは言えないだろうけれど。体のラインが出ないだぼっとしたローブを着て、フードを深くかぶって顔を隠しているだけだからねえ。まねようと思えば簡単に真似ができてしまうもの。

 そんないかにも「不審者です!」と全身でアピールしたい人がいるのかどうかはさておくことになるでしょうがね。


 しかし、こちらは色々とご都合主義がまかり通るゲームの世界だ。さらにメタ的なことを言えば使用できるデータの量も限られている。発生しているイベントに関連した登場人物が現れるというのは、ある種当然のことなのです。


 さて、ローブの人物と遭遇したのはいずれも緋晶玉がある場所、緋晶玉に関係がある場所だった。

 そうなると逆説的に、今回にも緋晶玉がかかわってくる可能性は高いのではないだろうか。


「うーん……、緋晶玉かあ……」

「すっかり考え込まれてしまいましたね」

「そうね。リュカリュカ様は冒険者としての経験や知識もお有りだから、私たちでは思いもつかなかい方面から事の真相が見えているのかもしれないわ」


 そんな風に小声で話す二人にも気が付かず、ボクは思考の海の中にダイビングを敢行していたのだった。

 だけどこれ、後からよくよく考えてみるととっても失礼なことをしているよね。ゲームだから許されているけれど、本来ここはお話をするため、情報を交換し合うための場だった。それを断りもなしにいきなり考え込み始めたのだから、マナー違反も甚だしい。


 え?リアルでも友だちと一緒に居ながら、それぞれが延々と携帯端末をいじっているのだから似たようなものだ?

 ……それ、大きな勘違いです。

 リアルのあれは一緒にいることそれ自体を目的としているのよ。当然会話をしたりもするけれど、同じ空間、同じ時間を共有していることが重要なのです。

 本好きな人たちが集まってお互いにお勧めの作品を読みあったりすることがあるよね、それと似通ったものだと思ってもらえれば当たらずしも遠からずではないかと思うよ。


 話を戻そう。これまでと同じ展開ならば、緋晶玉が保管されている場所とか採掘できる場所を発見したローブの人物がそれを確保しようと動いている、というものになるのだろうが、この『水卿公国アキューエリオス』で遭遇したローブの人物ことキューズ教官は、そういったそぶりを見せてはいない。


 いや、こちらの知らないところで暗躍しているかもしれないが、実践魔法の教官と言う身分があるため学園がある日中はポートル学園へと詰めている必要がある。

 少なくとも簡単に緋晶玉の探索のための遠出ができたりはしないと思われるのよね。


 それなら既に発見、確保が完了していると仮定してみようか。

 当然彼の計画は次の段階に進んでいることだろう。……うん。この計画とやらがどんなものなのか、さっぱり分かっていないから何をやらかそうとしているのか全然想像がつきませんですよ……。


「これは本人にそれとなく問い(ただ)してみるのが一番の近道かしら……」


 ただし、その分危険は段違いに高くなってしまう。リスクに見合うだけの価値を得ることができるのかを慎重に見極めないと。勇み足で突っ込んで虎の尾ならぬドラゴンの尻尾を踏んで全滅、なんてことになったらシャレにならない。

 はい、そこ!ドラゴンの尻尾は大き過ぎて踏めない、とか茶々入れ禁止です!


 そうそう、全滅と言えば『土卿王国』では緋晶玉で危うく全滅しかけたこともあったね。現在魔道具やマジックアイテムの燃料として出回っている蓄魔石とは違って、状態が不安定な天然ものだから、魔法をぶつけることで暴発してしまうのだ。


 あれ?これって爆発物というやつなのでは?

 しかもリア充(ばくはつぶつ)とは違って本当に危険がある方の……。


 そこまで思い至った瞬間、背筋に薄ら寒いものを感じた。


「お二人とも、申し訳ありません。至急確認をしなくてはいけないことができましたので、今日はお先に失礼させていただきます」

「また何か危険が迫っているのですか?」


 実際に怪我をする羽目になったためなのか、危機に対するジーナちゃんの嗅覚は鋭くなっているような気がする。

 ボクが分かりやすいだけという意見は抹殺しておきます。


「今はまだ何とも言えないところですが、私の思い違いであればいい、というのが正直なところです」

「分かりました。生徒会長たちには急用で先にお帰りになったと伝えておきますわ」


 兄さまたちのことなど後はライレンティアちゃんたちに任せて、急いで生徒会室を飛び出す。

 挨拶を交わす時間すら惜しく感じていたボクは、廊下に出るなり全速力で走りだしていた。


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