739 さらに攻略が進む
「それに、一度くらいはテニーレ様たちにも変わることができる機会を上げてもいいのではないでしょうか」
タカ派貴族の子弟子女がやってきたことは決して褒められるようなものではない。だけど、そうすることが正しいと教え込まれて、他のやり方はすべて否定されるような環境の中にいたのだとすればどうだろう。
ほら、テニーレ嬢を始め魔改造ドレスの女の子たちって、いかにも箱入りで大事に育てられた――その理由が家や当主にとって利になる婚姻の道具という扱いだった可能性はあるけれど――感じがするからさ。異なる選択肢が存在していることにすら気が付いていなかったように思えるのよね。
一方タカ派といえども下級貴族の子どもたちは言わずもがなで、上級貴族に家族や一族の命運を握られていたならば、例え逆らいたくても逆らえない状態だっただろう。
それに一部の女の子たちは、一度自分たちで蒔いたボクの悪い噂を刈り取ってくれている。
こうしたことを総合的に鑑みてみると、この子たちが迫害のターゲットにされる可能性は低いのではないかと思う。
「今回のことはある意味チャンスだと言えます。絶対的に正しいと信じ込まされていた親たちの行いが、実は断罪されるようなものだったのですから。きっと彼ら、彼女たちの価値観は大いに揺らいでいることでしょう」
「そうか!そうやって弱っているところを突き崩して、こちらに寝返らそうということだな!」
ローガー、言い方……。
いや、確かにやることはその通りなのだけれど、もう少しまとも言い回しはなかったのか……。皆の反応も頬を引きつらせながら苦笑いをしているか、とっても残念なものを見る目でローガーを見ているかのどちらかだった。
「ローガー……、外に出て魔物退治に勤しむつもりならばともかく、近衛騎士になって城に詰めたいなら少しは言葉を飾ることくらい覚えろ。そのままだと言葉尻をいいように捉えられて、すぐに失脚させられることになるぞ」
「そうなのか?……仕方ない。少しは勉強もするか。魔物退治にも心惹かれるものはあるが、いざという時に友だちのお前らを助けられないんじゃ意味がないからな」
そういうことをさらりと言えてしまうから、脳筋って怖いよねえ。
まさかそんな返し方をされるとは思ってもいなかったのか、苦言を呈したミニスだけでなく、付き合いの長いジャグ公子とスチュアートも驚いて固まってしまっていた。
ああ、これはローガーが近衛騎士になりたい理由を初めて聞いた、というところか。
面白い、ではなく大変興味深いけれども、こいつらが固まっていては相談ができない。
水を差すようで気は進まないけれど、さっさと復活してもらおうか。
「でも、近衛騎士が戦わなくてはいけない事態になっている時点で、既に詰んでしまっていますよね」
「……はっ!?確かに!」
「よくよく考えてみれば、首都どころか城にまで賊なり敵軍なりが攻め込んできているということですよもんね。その前に停戦交渉とかが行われていそうです」
予想通り再起動完了。
まあ、照れくささは残っているようで、視線が合わないようにそれぞれが微妙に顔の向きをずらしていたけれど。
きっと一部の人たちにはとっても需要がある光景なのだろうな、などとどうでもいいことを考えつつ、話題を先に進める。
「当面はタカ派の高貴族の子どもたちの周囲に限って目を光らせておけば対応できると思います」
「リュカリュカのやりたいことは理解した。だが……、一つだけ聞かせて欲しい。どうしてそこまでするんだ?君は先日ジェミニ侯爵に迎えられたばかりで、他の貴族たちに気を遣ってやる義理などないだろう?」
ミニスの疑問は一般的には冷淡とか冷酷だと思われてしまうだろう。しかし、彼は将来の宰相候補だ。時に多数を生かすために少数を切り捨てる判断を下さなくてはいけないことだって十分にあり得る。
まあ、そうならないようにすることが最優先な訳ですが。
とにかく、私情を排した考えを言えて、ついでに悪役を買って出るようなことができていて、お姉さんは嬉しいですよ。だからボクも建前も何もなしに本心で答えてあげる。
「別に難しいことを考えていたりはしませんよ。自分と同じ年頃の子が訳も分からずに不幸になってしまうのが単純に嫌なだけです」
視線を感じたので一旦区切り見回すと、ミニスだけでなく他の皆も真剣に聞き入っているようだった。
これは……、下手なことは言えないし、茶化すような真似もできないわね。
「大人たちや親世代が何かを企んで失敗して、その結果失脚するのは正直どうでもいい。それこそ自業自得だと思います。でも、知っていて進んで参加していたならともかく、何も知らされていなかった子どもたちにまでその責任を押し付けるっているのは本当に正しいことなんでしょうか?逆に後の世に禍根を残すことに繋がってしまうのでは?」
その考えはなかったのか、皆一様に難しい顔をしていた。
「それならばいっそのこと、ここで遺恨を断ち切るべきではないかと思ったのです。もちろん私たちもまだ子どもですし、しょせんは学園生という身分です。全員に手を差し伸べるようなことはできません。それでも、せめてこの手が届く範囲くらいは足掻いてみたいと思うのです」
「……いいな、それ。無駄だろうが何だろうが、努力をするやつは嫌いじゃないぜ」
沈黙を破って最初に声を上げたのはまたもやローガーだった。
分からなければ質問をする子なので大丈夫だとは思うのだが、ニヤリと不敵に笑うその顔にそこはかとなく不安を感じてしまうのはどうしてなのでせうかね?
「要は、気に入らないから、ということか……」
張りつめていたものが切れてしまったかのように、ミニスが大きく息を吐いていた。
「子どもじみた感情論で失望しましたか?」
それならそれで仕方がないという気持ちで聞いてみたのだが、返ってきたのは予想外にも首を横に振る動きだった。
「いや。むしろ己がいかに慢心していたのかを思い知らされた。考えてみれば我らとて国政にかかわっている訳でも、重要な問題を任されている訳でもないのだったな。いつの間にか、父上の補佐でもしているつもりに気になっていたようだ」
「珍しいですね。ミニスさんが素直に負けを認めるだなんて」
「別に負けた訳ではない。……が、負けたくない相手がいるというのも、案外面白いものだな」
スチュアートのちょっかいに憮然として答えたかと思えば、今度はこちらに不敵な笑みを向けてくる。
……あれ?ヤバい。これって終生のライバル認定されたやつじゃないかな!?
リュカリュカちゃん、ライバル認定どころじゃないから!
前回の後書きを見てもらえれば分かるように、通常攻略キャラ五人中三人の攻略ができている状態になってしまっています。
残り二人?
パートナーがいるやつらは余裕があっていいですね。けっ!
さて、一見するとヒロインであるジーナちゃんの立場を奪っているようですが、実は違います。
そもそもリュカリュカちゃんの登場自体が、トウィンの攻略が進み彼のルートに入ったことによって発生するものとなります。
よって、いわゆるモブキャラがヒロインの地位を奪った、と言う展開ではありません。




