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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十四章 ポートル学園での闘争

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733 面倒なやつとその背後に潜む思惑

 算術の教官がボクに対して隔意を持つのはまだいい。どうしても性格があう、波長があわない相手は出てくるものだろう。それは仕方がないというものだ。人間だもの。

 しかし、その感情を表に出すのはいかがなものか。しかも彼の場合、授業を行わないという形で関係のないクラスメイトたちにまでそれを押し付けているのだ。


 え?テニーレ嬢たち魔改造ドレス集団?勉強をしなくていいと勘違いして喜んでいるよ。いずれそのツケが――時に思いもよらない形で――自身に跳ね返ってくる羽目になるのだけれどねえ……。

 まあ、勉強会に参加している訳でもないし、彼女たちのことにボクが責任に思うのはお門違いというものかな。


「それではこれで失礼します」

「ま、待て!」


 これ以上は余計なことまで口走ってしまいそうなので立ち去ろうとしたところ、なぜだか呼び止められてしまう。

 一瞬、何か勘付かれているのかと警戒したが、すぐに続きが出てこないところを見ると、どうやら反射的に声に出してしまっただけのようだ。


「まだ何か?私にもやらなくてはいけないことが残っているのですが?」


 冷ややかに言い放つと、教官のこめかみ付近の血管がピクピクし始める。おおー。漫画などではよく見る表現だけれど、リアルでは見たことのない現象だよ。

 下手をすれば一触即発になりかねない事態だというのに、ついつい内心で感動してしまった。


「お前がこちらに来たのはどれくらい前のことだ」


 高圧的な教官の台詞に司書のお姉さんがその綺麗な眉をゆがめている。

 いくら教官や職員陣に「学園内ではどんな身分であっても一学園生として取り扱うべし」という原則があったとしても、ボクがジェミニ侯爵の養女になることは現状ほぼほぼ決定事項なのだ。

 そのことは学園関係者には周知されており、そんなボクに対して格下に向かって言うような言葉を口にしたのだから、不愉快に感じるのは当然のことだろう。


 おっと、彼女の名誉のために補足しておくと、着用が義務付けられているはずの制服ではなく魔改造ドレスが堂々とまかり通っている時点で、原則そのもののもお察し状態になっているからね。

 ことさら司書のお姉さんが権力に弱いという訳ではありませんよ。


 まあ、ここ最近はボクが図書館に足しげく通っていたこともあって、図書館で仕事をしている人たちとはそれなりに仲良くなっていたことは関係しているかもしれない。

 為人(ひととなり)もよく分からない人よりは、顔見知りの方の肩を持ってしまうものなのだ。人間だもの。


 それはともかく、さてどう答えたものかしら。

 うーむ……。まあ、どう答えたところで疑われることに変わりはないだろうから、誤魔化さずに本当の時間を話せばいいかな。嘘や虚偽一辺倒よりも、適度に真実が混ざっている方が騙されやすいとか何とからしいですし。


「十五分ほど前です」


 リアルと違って必要なものだけがピックアップされるようになっているから、本を探すのもあっという間なのだ。

 逆にのんびりと一冊一冊手に取って好みの本を探す、ということもできるようになっているよ。


 そんな短時間なのに慌てて探し回っているのはおかしいように感じられるかもしれないが、そこはほらゲームならではの演出というか簡略効果ということで。

 ちょうどタイミングよく定時連絡か何かで見回りに来た仲間がいなくなっていることに気が付いた、とかそういうことなのでしょう。


「では、図書館に来る時に、……あー、何か変わったことはなかったか」


 うっわー……。そんな言い方では隠し事があると言いふらしているようなものだよ。説明下手か。

 廊下の修繕をするという建前があったのだから、素直にそれを言えばいいものを。策を弄しようとしたことで完全に空回りしているわ。


「いいえ。特に気になるようなことはありませんでした」


 そんな内心を表に出さないように、平然とした口調で返す。多少ぎこちなく見えたかもしれないけれど、何が何だか分からないまま疑われているのだから表情が硬くなっていても不思議ではないはず。


「本当だろうな?」

「逆にお聞きしますが、こんなことで嘘を吐くメリットが私にあるように見えるのでしょうか?」


 メリットどころか嘘を吐かなくてはいけない理由があるのですがね!

 そんなことはおくびにも出さずにこれまた平然と、ただし今度は責め立てるような調子で言う。いきなり嘘つき呼ばわりされたのだから、ここは当然の応対として怒っても問題ないよね。人間だもの。いや、これは関係ないか。


 さすがにこれは失言だと感じたようで、仲間らしい男たち――動きやすさ重視の簡易のものながらも、鎧を身に着けていたところを見るに警備部門の人間だろう――も顔をしかめている。


 が、頭に血が上りかけているのか算術の教官はそんな様子にさえ気が付いていなかった。尊大な態度を貫いていて、こちらの苦情にも「ふん!」と鼻を鳴らすだけで、謝罪をするどころか忌々しいという感情を隠しもしていない。

 完全に自分の主張に凝り固まってしまっているみたいだ。


 これ以上はジェミニ侯爵家としての面子にもかかわってくることになるので、見過ごせなくなってしまう。

 もちろん今の段階でも出る所に出て訴えれば勝ちは揺らがないのだろうけれど、そうなるとタカ派の中でも本丸に居る大物貴族たちに対策を練る時間やノウハウを与えてしまうことになるのよね。


 ああ、なるほど。こいつらの作戦、先ほどの襲撃事件にゴーサインを出したどこかの誰かは、それ()狙っていたのか。

 襲撃が成功してボクという存在を排除できるのならばそれで良し、失敗したとしても算術の教官が暴走するように仕込んでおけばそれに対処せざるを得なくなる。

 末端の人間を切り捨てるという最小限の被害で、こちらの対抗策を見極めるつもりだったのかもしれない。


 打つ手の一つと侮るなかれ、立ち回り方次第では似通った策や連動する策までも潰されてしまう可能性もある。

 やはりここは穏便に切り抜けるのが吉な気がしてきましたよ。


 幸いにも好戦的な態度を取っているのは算術の教官ただ一人だけで、残るメンバーはさっさとここから退散して行方不明になっている襲撃者たちの捜索を続けたいという雰囲気を垂れ流している。

 彼らと同調することができれば、多少強引にでも連れ帰ってくれることでしょう。


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