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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十四章 ポートル学園での闘争

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728 罠と仕込み

 今回の事件の犯人をたどっても、要注意人物の最有力候補であるキューズ教官の尻尾を掴むことはできないだろう。しかし、揺さぶりくらいにはなるはずだ。

 それに何より、計画した真犯人だろうが実行犯だろうが、ジーナちゃんを狙ったことを後悔させてやらなければボクの気が済まない。兄さまも裏で色々と動いているみたいだし。


 そんな訳で、今度はこちらから罠を仕掛けてみることにした。と言っても手の込んだものではなく。

 挑発してあちらが「ぐぬぬ……」となっているところで油断して一人でいるように見せかけて、いざ襲いかかってきたところを返り討ちに……、もとい、釣り上げてしまおうというものだ。


 餌役はもちろんボクが務めさせていただきますよ。元々タカ派連中からの標的にされていたことに加え、能力的にも一番高いから、不測の事態が発生したとしても切り抜けられる可能性が高いためだ。


 さてさて、それではまず挑発――と書いて「仕込み」と読む――のお時間です。

 今日も今日とて教官が懲りもせず飽きもせずにボクへの罵詈雑言を並び立てるだけの算術の授業が終わるや否や、珍しくぐったりした様子で机に伸びているローガーへと声をかける。


「ローガー様、大丈夫ですか?」

「あー……、かなりきつい。ただでさえよく分からないっていうのに、こうも授業そっちのけで難問の話ばかりされると、正直まったくついていけないぜ」


 返答内容自体はあらかじめ打ち合わせていたが、突っ伏したままの状態であることからどうやら本当にまいってしまっているらしい。

 これは計画に関係なく対策が必要みたいだわね。


 ちなみに、教官の悪態についてはスルーです。その話題が出た瞬間にでも難癖をつけられるのが分かりきっているので。

 テニーレ嬢たち、あなたたちのことですよ。そんな風に今か今かと待ち構えるようにしていれば、何を狙っているのかがバレバレだからね。

 彼女たちはもっと本気でポーカーフェイスとかそういうものを学ぶ必要があると思うの。


「このままだと、ネギを背負ったカモどころか、鍋から調味料に至るまで全てを取り揃えて歩いているようなものだと思うのですが……」

「うん?何か言ったか?」

「いいえ、何でもありません。それよりも、分からないまま放っておいてはこの先もっとわからなくなってしまいます。よろしければ勉強会でも行いませんか?」

「勉強会?」

「ほう。それは私も参加できるのだろうか?」


 ローガーが心底嫌そうな調子で――こやつめ、本音が出ておるわ――反復した直後に、ミニスが割って入ってくる。


「これまでの復習を行うだけですよ」

「問題ない。それならそれで知識を定着させることに繋がるからな。それに学園随一の才を持つリュカリュカから教われるのであれば、新たな見地が見出せるかもしれない」


 こちらはこちらで背中がむず痒くなってしまいそうなヨイショだなあ。

 君たちももう少し簡素過ぎずそれでいて華美過ぎない言い回しの練習をした方がいいのでは?


 などと考えながら、瞳を動かすだけで教室内の様子を探ってみる。

 仲がいいとはいえ第三者のミニスが勉強会への参加を表明したことで、クラスメイトたちに「自分も参加したい」という雰囲気が生み出されつつあった。

 よしよし。あともう一押しだわね。


「ミニス様も一緒ということでしたら、会話をしても問題ない場所の方が良さそうですね」

「それなら放課後にどこかの教室を借りられるように手配しておこう」


 と解決策が提示された途端、周囲の空気ががらりと変わる。大人数でも可、なおかつ他者の迷惑にならないという点がちゃんと伝わったみたいだ。


「あ、あの……。その勉強会に私たちも参加させていただくことはできますでしょうか?」


 おずおずと尋ねてきたのはすぐ近くの席にいた御令嬢たち四人組だった。


「おう。この調子だと二人の小言が俺に集中しそうだからな。教わる側の参加は大歓迎だぞ!」


 ローガーさんや、それは一片の曇りもなく心の底からの本音ですよね。

 まあ、その一言がだめ押しとなって次々にクラスメイトたちが参加を表明してくれることになったから、予定通りと言えばその通りなのだけれど。


 最終的に勉強会への参加者は魔改造ドレス集団と一部の中立の立場をとるクラスメイトを除いた全体の約三分の二にまで及ぶことになる。

 その中立メンバーも後々には授業の空き時間などに質問に来るようになったので、テニーレ嬢たちを除いた全員からの支持を得ることができたと言っても過言ではないだろう。


 これにはボクも元々教わる側だったことが影響していると思う。要するに、躓いている個所の予想ができるのだ。

 さらに里っちゃんからあれやこれやと丁寧に詳しく教わっていた。うちの従姉妹様は凄いよ。天才肌の人にありがちな自分だけが理解できているのではなく、どのように言えば他人にも伝わりやすいかまですぐに構築できてしまうのだから。

 大袈裟でもなんでもなく、現在のボクの学力の半分くらいは里っちゃんのお陰だろうね。

 以上の理由からどうすればクリアできるようになるのかも理解できているため、結果としてとても分かりやすい教え方となっていたのだった。


 一方、ボクの勉強会が好評になることで立場が悪くなる人もいた。

 はい。言わずと知れた算術の教官です。


 実際のところはともかく、他所からは特定のクラスでまともに授業を行っていないどころか、学園生にその不始末を押し付けているようにしか見えないだろうからね。仕方ないよね。

 それが嫌ならきちんと授業をやればいいものを、プライド等が邪魔をするのか改善することはなく、むしろ意固地になって他のクラスの授業などでもボクへの悪態が見られるようになっていったのだとか。

 今はまだこの騒ぎを学園内だけに押し止めているけれど、我慢ができなくなった学園生から外部へと伝わるのは時間の問題だろうね。


「もっとも、そうなる前にケリをつけるつもりだけどねー」


 てくてくと図書館へと続く廊下の一本道を歩きながら、小さくそう呟く。

 勉強会が人気になっていくに比例して、徐々に警戒が緩んでいるかのようにボクはあえて一人でいる時間を増やし始めていた。

 幸いにも勉強会で使用する資料集めなど、その理由には事欠かなくなっていたからね。不自然には思われないはずだ。


 視界の隅に記されたミニマップには、〔警戒〕技能に反応した敵を示す赤い点がいくつも浮かび上がっていた。


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[一言] >視界の隅に記されたミニマップには、〔警戒〕技能に反応した敵を示す赤い点がいくつも浮かび上がっていた。 リュカリュカ「待ってました」  そうリュカリュカは粘度の高い口だけの笑顔を浮かべ…
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