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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十四章 ポートル学園での闘争

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727 女の子は甘い物語でできている

 ところが、だ。この予想は思いもよらない形で覆されることになった。


「あ、あの!リュカリュカ様、とっても素敵でした!」

「あ、ありがとうございます……」


 キラキラした瞳で感想を述べてくる少女たちの勢いに押されながら、辛うじて笑顔を取り繕ってお礼の言葉を述べる。

 大丈夫だよね?頬が引きつったりしていないよね?


 えー……。何がどうしてこうなっているのかと言いますと、怪我をしたジーナちゃんをお姫様抱っこで医務室へと運んだことが、女の子たちの琴線に触れてしまったみたいです。


 悪評?噂?……ああ、うん。確かに流れたよ。もっとも流した本人たち、魔改造ドレスを仕立てることができないタカ派下級貴族の子女たちによって、あっという間に消滅させられたという話だけれど。

 一口でタカ派の子たちと言っても、一枚岩ではなかったようです。


 まあ、現状トップに据えられているのがテニーレ嬢(あれ)だからねえ。多少は良識というかまともなバランス感覚を持っているのであれば、彼女たちのやり口が不味いことは理解できてしまうはずだ。

 当然、いざという時のために備えようとする人もいるだろう。


「あの時お見かけしたリュカリュカ様は、それはもう凛々しくて物語に出てくる騎士様か王子様のようでしたわ……」


 うっとりとした表情で語るクラスメイトを無碍にもできず、「あはははは……」と乾いた笑みで応じる。それ以前にぐるりと周りを囲まれてしまっているので逃げるに逃げられない状態なのだけれど。

 女性相手に物理的にはもちろん言葉でも強くはでられないため、ローガーだけでなくミニスも戦力外になっていたのがきついです。


 ちなみに、もう一人の当事者であるジーナちゃんはというと、これまた「まるでお姫様のよう」だと大人気となっていた。

 それどころか、既に知られていたトウィン兄さまとの仲のこともあって、「生徒会長とリュカリュカ様、本命はどっち?」なんて噂まで流れ始めているのだとか。


「これは私も負けてはいられないね」

「ふふふ。例えどちらが選ばれようとも、一番の大親友の座は渡しませんからね」


 などと兄さまとライレンティアちゃんまで悪乗りしだすし……。いや、そうやってジーナちゃんに手を出そうとするやからをけん制しているのは分かっているのだけれどね。

 ただでさえ炎上待ったなしの状態だというのに、火種と可燃物を嬉々として投げ込むような真似はさすがに勘弁して欲しいのですよ。

 涙目で「ふええ……」と大混乱(あわあわ)していたジーナちゃんだけが安らぎです。


 そんなこんなで孤立するどころか逆に大勢に集られるようになったことで、敵側の思惑は完全に潰えてしまったのだった。

 そしてそれをきっかけに尻尾をちらつかせ始める者がいた。


「いつまで話をしている!さっさと席に着かんか!」


 怒鳴り声をあげながら教室に入ってきたのは算術の教官だ。

 どうしてだか彼はあの事件以降常に不機嫌で、当たり散らすような振る舞いに学園生たちからの評判もすっかり悪くなっていた。

 それだけでなく生徒たちの様子を察してなのかさらに態度が頑なになり、それを見聞きして評判が下がっていく、という完全な悪循環に陥っていたのだった。


 ボクへの当たりも加速度的に酷くなっていて、算術の授業というよりはこちらを凹ませるための罵倒の言葉と、難問をぶつけてくるだけの場と化していた。

 もっとも、前者はともかく後者は難問と言っても中学生レベルの問題ばかりだったので、全て返り討ちにしてあげたけれどね。

 そうなると当然のように比率は前者の悪口が増していくことになったのだが、こちらは彼の評判の悪化とも相まって、ボクに同情的な人を増加させることとなるばかりだった。


「焦っているというか落ち着きがないというか。何かに追い詰められているようにも見えます」


 昼休み、いつもの面子で昼食をいただきがてら近況報告をする際に算術の授業での様子を話す。


「私たちのクラスではそこまで露骨な態度は見せていませんが、落ち着きがないという意見には同意できますわ」

「うむ。公子である私がいるから何とか抑えようとしているのだろうが、挙動不審気味になっている感は否めないな」


 ライレンティアちゃんの言葉にジャグ公子が続けると、おおむね似たような状況らしくトウィン兄さまとスチュアート、それにジーナちゃんも頷いていた。


「あいつが敵意丸出しにしているのは俺たちのクラスだけということか」

「正確にはリュカリュカに対して、ということだ」


 ローガーの台詞をミニスが正す。


「私に対しての敵意は以前からでしたけれど、最近は授業にすらならなくなってきていますからね」


 お嬢様らしさが出るように、右手を頬に添えるようにしてほぅと小さくため息を吐く。

 この点は真面目に勉強に励みたい人たちに申し訳なく思うところだ。近いうちに参加自由の勉強会でも開いてみますかね。


「挙動不審と言えば、テニーレ嬢や取り巻きたちも最近やけにピリピリしていないか?」

「表立って攻撃していたリュカリュカが一転して人気者になったから、報復されやしないかと考えているのだろう」


 ローガーの問いにこれまたミニスが答える。が、あの子がそんな繊細だとは思えない。


「あの事件に一枚噛んでいて、それがどこからか露見しないかと不安になっているのではありませんか?」


 うん。どちらかと言えばこちらのスチュアートの意見に賛成かな。というか、ボクの中では彼女が一枚噛んでいたことは間違いのない決定事項ですから。


 問題はどのくらい関わっていたのだが、テニーレ嬢のお花畑なお頭の具合からすると、せいぜいが効果的な嫌がらせをするように命じた、程度ではないかな。

 つまり、計画を立てた人間は別にいるということであり、


「時期的にも、最近とみに行動がおかしい算術の教官が怪しく思えます」


 ここでズバッと予想を披露してみる。


「事件の露呈を恐れるあまり精神的に追い詰められてしまっているのではないか。そうリュカリュカは考えているのだね」


 確認するような兄さまの言葉にコクリと首を縦に振って応える。

 まあ、一番疑いの目を向けているのは実践魔法のキューズ教官なのだが、こちらはほんのわずかな動揺すら見せていない。少しくらいのアドバイスはしたかもしれないが、その場合でも自分にまで手が伸びないようにしっかりと予防線を張っているのだろう。


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