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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十四章 ポートル学園での闘争

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725 負けたままじゃいられない

 医務室に到着してすぐにトウィン兄さまがやって来たので、ジーナちゃんの治療と精神安定剤役を任せて外に出る。

 リュカリュカちゃんはクールに去るよ。


 ちなみに、居場所がすぐに分かったのは美少女が美少女を抱きかかえて歩いているという、とっても目立つ状況だったからとのこと。

 それを聞いた瞬間「穴があったら入りたい!」と言わんばかりの勢いで、ジーナちゃんがベッドの上でシーツを被って丸まってしまった。ほっこり。


 え?担当保険医?最低限だけジーナちゃんの診察を行うと逃げるようにしてどこかへ出かけて行ってしまったよ。

 まあ、彼も――本心からなのかどうかは別として――タカ派の出身だからね。しかも彼には、武官を志す者が多く訓練も激しい環境下で日常茶飯事に怪我の治療を行っていた、という控えめに言っても屁理屈にしか思えない理由で強引に担当保険医にされたという経緯があるらしい。


 要するに派閥の意向に逆らうことのできない立場だったのだ。それにもかかわらずジーナちゃんの診察を行ったのは、担当保険医としてのなけなしの抵抗だったのかもしれない。


 それに、兄さまとジーナちゃんを二人きりにしてあげることができたのも彼がいなくなったお陰と言えなくもないからね。

 転ばされてもタダで起きたりはしませんよ。これを機に、特に兄さまにはジーナちゃんに対して自分がどんな感情を抱いているのかを認識してもらいましょう。


 と、部屋の中の方はいいとしまして、問題はこちらかな。

 医務室の外ではスチュアート少年がどんよりとした表情で肩を落として立っていた。


「スチュアート様も来てくれていたのですね。ありがとうございます」


 どうして彼が落ち込んでいるのか見当もつかなかったため、とりあえず無難に様子見の挨拶から入ってみる。

 すると、


「……ごめんなさい。ジーナさんを一人にしてしまったボクの責任です」


 ぽつりと呟いたのだった。さすがにこれだけでは何がなにやらという状態なので詳しく聞いてみたところ、おおよそ以下のようなことがあったのだとか。


 午前の修業が終わったところでお昼を一緒するため、スチュアートとジーナちゃんの二人はボクたちと合流しようとしていたのだそうだ。

 最初の数日間はこちらから迎えに行っていたことなども功を奏して、二人が一緒に行動することについてはおかしな噂が立つこともなく、学園内限定とはなるもののボクたちは一種の仲良しグループとして認知されていた。

 さらにその大半が国の重要な地位に就く高位貴族の子息子女ということもあって、これまでは邪魔をされるようなこともなかった。


 そう、これまでは。今日に限って教室から出ようとしたところで、スチュアートを呼び止める声が上がったのだ。

 声をかけてきたのはご想像の通りタカ派に属する貴族の子どもたちだった。同じクラスというだけで接点はほとんどない、どころか普段は話しかけてくれるなと言わんばかりに拒絶の雰囲気を放っている連中がすり寄ってきたことに、スチュアートは当然のように警戒感を抱いたという。


 ところが、その内容はと言えば先ほどの授業で分からないところがあったので教えてもらえないかという他愛のないものだった。

 てっきりボクたちグループの切り崩しを図って食事にでも誘われるのかと身構えていたこともあり、彼はこの時ほんのわずかだが気を抜いてしまう。


 これに反応したのがジーナちゃんだった。スチュアートの警戒が緩んだことで彼らは危険ではないと判断してしまったようなのだ。

 「スチュアート様、よろしければ先に行って皆様には私の方からお伝えしましょうか?」と水を向けられたことで、今度はスチュアートの危険度も低下してしまった。


「今から考えると、最初からジーナさんにそう言わせるつもりだったようにも思えます」


 確かにその時スチュアートが拒否したとしても、彼女自身が言ったのだからと数と勢いを頼りに言い負かそうとしてきただろうね。

 そして結局二人はその場で別れることになり、ジーナちゃんは中庭の植栽の裏で何者かに絡まれけがをする羽目になり、スチュアートは連中の質問と言い難いような雑談に付き合わされることになってしまう。


「恥ずかしながら、あいつらの目的が時間稼ぎだと気が付いたのは、リュカリュカさんがジーナさんを抱きかかえて運んでいるという話が聞こえてきた時でした……」


 なるほどね。あちらの思惑通りに動いてジーナちゃんを危険にさらしてしまったことを後悔しているという訳か。


 だけど、これはどちらかと言えば簡単に相手を信用してしまったジーナちゃんの方に問題があることだよねえ。ボクが編入するまでは嫌がらせを受けていたはずなのに、危機感が薄過ぎるでしょう。

 まあ、さすがに今回の一件で反省しただろうし、彼女への害意には兄さまが対応する――直接的か間接的かは不明だけど――だろうから、今後同様のことが起きることはないと思われます。


 だから、スチュアート君がそこまで気に病む必要はないのだけれど、人間一度そう思い込んでしまうとどうしてもそれに固執してしまうものなのよね……。


 しかし、困ったな。このままこの子が凹んだままだと、せっかく兄さまという処方箋で落ち着くことができるだろうジーナちゃんが再び落ち込んでしまうかもしれない。

 時間もないことだし、彼には悪いけれどショック療法といきましょうか。


「それで、いつまで気落ちしているつもりですか?」

「え?」

「ジーナ様の怪我は既に起きてしまっていることで、過去を変えることはできません」


 プレイヤーとしてのリセット機能を用いれば別だけれど、それは一旦横に置いておきます。

 だって、それではタカ派の連中にしてやられたまま逃げるみたいではないですか。


「それにジーナ様を一人にしてしまった落ち度は私たちにもあります」


 正直なところ、ここまでの搦手を用いてくるとは予想すらしていなかった。彼女を巻き込んでしまったという意味では、ボクの罪が一番重いだろう。


「友だちを傷つけられたんです。このまま泣き寝入りをするつもりはありません。関わった人に絵を描いた者、同様に白日の下に引きずり出してみせます」


 さて、直接コケにされた君はどうする?

 視線だけで尋ねてみれば、


「……やります。このままやられっぱなしでなんていられません」


 一回深く呼吸をしてから、その決意を表明するようにスチュアートはそう告げてきたのだった。

 うん。しっかりと男の子の顔になっているね。


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