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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません

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721 それはチョコレイトの日の出来事

リアルでのお話回です。

 その日は朝から校内全体に浮ついた雰囲気が充満していたように思う。校門から自転車置き場、さらには教室へと到着するまで、すれ違った人や挨拶を交わした人たちが皆どこか上の空の様子だったのだ。


「で、特に男子たちが緊張してるみたいなんだけど、何かあったの?」

「ああ、うん。優らしいと言えばそれまでなんだけど、年頃の乙女がそれでいいのかと問い詰めたくなる台詞よね」

「それでいて男子の人気は高いんだから、世の中の不条理を感じるわあ」

「まあ、三峰さんの場合は男子以上に女子からの人気が高いから表立った騒ぎにはならないだろうけど」

「逆に贈られる側で騒ぎになりそう」

「あ、それは言えてるかも」


 雪っちゃんからは呆れられ、周りにいたクラスメイトの女子たちが便乗して騒ぎ出す。よく分からないけれど、どう反応するべきか悩む類のネタにされていることだけは間違いないようだわね。

 一方、彼女たちのテンションが上がることに反比例していくかのように、教室内に居た男子たちの表情が暗いものへと変化していったのだった。


「あー、いたいた。おはよう三峰さん」


 二学年上の河上先輩と木之崎先輩の二人がやって来たのはそんな時だ。


「おはようございます。お二人とも、今日は来ていたんですね」


 最上級生である二人は年が変わる前に早々に目標としていた進学先への合格を決めてしまっていて、三学期のほとんどが自主登校日という悠々な生活になっていた。

 そうした事情もあって、登校してくる日がめっきり少なくなっていたのだ。


 もっとも、二人が登校してこない一番の理由は、最後の追い込みとばかりに自習室や教室で勉強に励んでいる先輩たちの邪魔をしないようにするため、らしいのだけれど。


「まあ、今日くらいは……、って三峰さん、もしかして今日が何の日だか分かってないの?」

「その通りなんですよ」


 先輩からの質問に、雪っちゃんがボクより先に答えてしまう。


「私たち受験生ならともかく、社会現象化すらしているこのイベントを忘れられるっていうのは、ある意味凄いわね……」


 苦笑しながら木之崎先輩が言う。でもそれ、褒めてないですよね。

 それにしても先輩たち二人までこの態度となると、思い出しておかないと不味そうだわね。ヒントはいくつもあったのだろうけれど、大きなものは今日の日付と社会現象という二つかな。


「おおう!そういえば今日はチョコレイトの日!?」

「やっと思い出した……、って根本的なところが間違ってるわよ!」


 さすがは雪っちゃん、ナイス突っ込み。そしてベタベタなやり取りだからこそ、ついクスッと笑ってしまっている人たちも多かったりする。

 ふっふっふ。勝利!


「なるほど。言われてみれば今日バレンタインデーだったっけ」


 男子たちがソワソワしてるはずだわ。だけど、


「あれ?うちの学校ってチョコレートの持ち込みは禁止じゃなかった?」

「いやいや、どこの規則が厳しい小学校の話よ」


 なんでも十年ほど前にホワイトデーのお返しを目当てに、学内の全男性にチョコを配って回った猛者――と書いて『おバカ』と読みます――がいたらしくて、しかもそれが外部に漏れそうになってちょっとばかりでは済まない騒ぎになってしまったのだとか。

 以降、原則として学内へのバレンタイン関連でのチョコの持ち込みは禁止ということになっていたはずだ。


「あれから何年も経ってるし、よっぽど大っぴらにでもやらない限りは先生たちも目をつむってくれるわよ。という訳で、はい。余り物でよければ貰ってくれないかな」


 と、カラフルなラッピングがされた小箱を差し出してくる河上先輩。


「うちのクラス、思っていた以上に登校している人数が少なくて。用意しておいたチョコが余っちゃったの」


 余るほどとか、一体どれだけのチョコを準備していたんですか……。

 と呆れそうになったが、よくよく考えてみると河上先輩も木之崎先輩も、性別学年を問わずに多くの学生たちに慕われているのよね。自分たちからは渡さなくても、向こうから贈ってくることも多いだろう。

 つまり、そのお礼用にあらかじめたくさんのチョコを準備しておいた、というのが本当のところではないかな。


 あと、多分こう言っておけばボクが気軽に受け取ることができるという気遣いもあるのだと思う。

 そういう細やかな配慮ができるからこそ、彼女たちは学年を超えて慕われていたのだ。


「余り物でもなんでも、先輩たちからの贈り物なら喜んで受け取らせていただきます」


 貴重な賞品を授かるかのように、立ち上がって(うやうや)しい態度で河上先輩から小箱を受け取る。

 そしておもむろに男子たちが集まっている方を向き、


「ふっ」


 と素敵で不敵な笑顔を浮かべてあげたのだった。

 その瞬間、息を潜めるようにこちらを見ていた男子たちが一斉に爆発する。


「ぬわあああああああ!!」

「うぎいいいいいいい!!」

「ちっくしょおおおお!!」


 まさしく阿鼻叫喚(あびきょうかん)な地獄絵図ですな。まあ、半分くらいはボクの行動に乗ってくれたわざと(・・・)なのだけれど。

 残り半分?世の中には知らない方が幸せなこともあるのですよ。


「煽るわねえ……」

「いやあ、定番のやり取りだからこそやっておかないといけないかな、と思いまして」


 苦笑いする先輩たちに対して、クラスメイトの女子たちは気心が知れていることもあって、大爆笑している。

 これならいい感じに二人の記憶にも残ってくれるのではないかな。とっさに思いついたお礼としては上出来の部類に入ると思うのだが、どうでしょうかね?

 いずれにしても、ノリのいい男子たちに感謝だ。


「それにしても、完全に忘却の彼方だったわ」


 先輩たちが帰った後、誰に告げるでもなく呟く。

 前述のチョコ禁止に加えて、去年はそれこそ高校受験の真っただ中でそれどころではなかったこと、さらに『OAW』の方でもポートル学園に通っていることもあって、季節のイベントに対する感覚がグダグダになってしまっていたのだ。


「チョコを用意していなかったという点では私たちも同じね。さすがにバレンタインだってことは覚えていたけど」


 雪っちゃんの言葉に肩をすくめるしかないボクなのだった。


 ちなみに、河上先輩たちからもらったチョコの中身は「クラスの皆で食べてね」といわんばかりに小粒のものがたくさん入っているというものだった。

 そしてそのご要望通りにクラスメイトたちと分けることにしたら、


「あ、ありがてえ。ありがてえ」


 なぜだか男子たちから泣いて拝まれることになりましたとさ。


珍しく投稿するタイミングと、作中におけるリアルでの季節が一致したので急遽差し込みました。


次回からは再びゲーム内の本編となります。

そろそろ似非学園物の状況を動かさないと……。

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