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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません

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719 学園外でも攻防

 続いてケースその二、出会い頭の衝突。

 ある日の朝のことだ。いつものごとくトウィン兄さまと一緒に混雑防止のために学園の近くで馬車を降りて歩いていたボクは、交差点の手前で立ち止まることになった。


「どうかしたのかい?」


 不思議がる兄さまを不自然にならないように道端の商店の軒先へと誘導する。まだ朝の早い時間帯なのに既に営業を始めているね。

 ポートル学園はその設立の過程から貴族の子女だけでなく、裕福な商家の子どもや成績優秀で将来が渇望されている子など、いわゆる平民も通っている。

 学園のすぐ近くにはそうした学園生をターゲットに文具類やお弁当などを販売している店が数件軒を連ねており、ボクたちが立ち寄った風に見せかけたのもそんなお店の一つだった。


「その先にある交差点の陰に数名の人が隠れているようなのです」


 お店のガラス越しにファンシーな色合いの文具類へと視線を向けながら、兄さまにそっと告げる。

 ダメ元のつもりで〔鑑定〕してみると、魔改造ドレス軍団のお嬢様たちだと判明した。


「そんなことまで分かってしまうのかい?」

「いつでもどこでも誰が相手でも分かる訳ではありませんよ。お屋敷の一部の警備の者たちなどは、どんなに意識しても見つけることができませんし」


 あと、領地から同行してきたジェミニ侯爵の執事さんや首都のお屋敷の管理を任されている家令さんなども居場所を発見できなかったりするね。

 あれ?執事とか家令ってそういうスキルが必要なお仕事だった?


「ま、まあ、それだけ頼りになるということでもあるから、うちの者たちのことはこの際良しとしておこうか」


 兄さま、そう言いながらも微妙に頬と声が引きつっておりますですよ。指摘するのはちょっと可哀想なので黙っておくけれどね。

 将来的にはそれだけ有能な人材を采配することになるのだから、プレッシャーを感じるのは当然というものだろうから。


「こちらの桜色のペンはジーナ嬢に似合いそうだ。リュカリュカにはあちらのオレンジ色の物などどうだい?」


 商品を吟味している風を装いながら、「それで、どうするつもりかな?」と兄さまが尋ねてくる。

 ジーナちゃんのことを最優先で考えてしまっていることは……、無自覚なのだろうねえ。こちらはこちらで先が思いやられてしまうわ。


 さて、短絡的な彼女たちのことだから「横合いからいきなりぶつかって、怪我でもさせてやろう」程度の魂胆だとは思うのだが、完全にそうだとも言い切れないところ。

 何より、レベルアップと一次上位職へのクラスチェンジによってボクの能力値は大幅に増加している。学園トップクラスのローガーでさえあしらえてしまうのだから、はるかに力の弱い御令嬢たちでは数人がかりで突撃してきても軽く受け止められるはずだ。


「ふうむ……。そうなると逆に怪我をさせられた、と難癖をつけようとすることも考えられるかな」


 ああ、それはそれはタカ派の陰に隠れて黒幕を装っている誰かであれば、喜んでやりそうな手口だわね。

 どちらに転ぼうとも、そしてどちらが転ぼうとも接触した時点でこちらが詰んでしまうということか。


「そうなると……、少し試してみたいことがあります。手伝っていただけますか?」

「可愛い妹の頼みとあれば喜んで」


 キラリとさわやかな笑顔を向けてくる兄さま。

 でもね、そういうのはジーナちゃんにやってあげてください。


 中で店番をしているらしき人と目が合ったので、軽く頭を下げてからその場を離れる。

 どこからともなく「何も買わないのか!?」という突っ込みが飛んできそうだけれど、ジェミニ侯爵子息のトウィン兄さまが見ていたというだけでお店の宣伝としては十分以上の効果があるので問題なしです。


 さて、ここから勝負所だ。隠れている彼女たちから見て兄さまで死角になる位置に移動して〔気配遮断〕の技能を使用する。

 そのまま進んで行き、


「やあ、おはよう」


 件の交差点を横切る際に、令嬢たちに向けて兄さまの笑顔で挨拶(キラキラビーム)を炸裂させた。

 すっかり骨抜きになった彼女たちを置き去りにして、学園への道を進んでいく。


「上手くいったようだね」

「はい。でも、兄さまの挨拶だけで十分だったような気もします」

「それはどうだろう。彼女たちの派閥は上下関係が厳しいとも聞く。どうせ失敗の責任を全て押し付けられるのであれば、たとえ無謀であってもリュカリュカの姿が見えた瞬間に突進してきた可能性はあるよ」


 さすがはジェミニ侯爵家の御曹司。派閥の特性などからボクが思いもよらなかったもしもの展開を披露してくれた。


「その証拠に、ほら……」


 立ち止まって耳をそばたてる仕草をする彼に(なら)って聞き耳を立ててみると……。


「はっ!?あの平民はどこに行きましたの!?」

「み、見失ってしまいました……」

「何をやっていますの!失敗したとテニーレ様から叱責されるのはあなたの責任でしてよ!」

「そんな!?ズルいですお姉さま!お姉さまだって生徒会長に見惚れていたくせに!」

「お、お黙りなさい!こうなったら何としてもあの平民への突撃を成功させるしかありませんわね!明日はパンをくわえて「遅刻、ちこくー!?」と叫びながら後ろからぶつかりなさい!」

「お、お姉さま?パンをくわえたまま叫ぶなんてことはできませんわ。くわえていたパンが落ちてしまいますもの」

「そ、そのくらいのことは当然分かっていましてよ!ものの例えというやつですわ!」


 もはや突っ込みどころしか存在しないような、ギャグコメディじみた会話が交わされていたのだった。

 しかしその内容はともかく、会話の調子からはまったく懲りていないというか諦める様子は感じられない。


「本当にアレを明日やるつもりなのでしょうか?」


 迷惑だと思いながらも、昨今では創作物の中ですらお目にかかれない光景を見ることができるかもしれないと、少しばかり興味をかき立てられてしまう。


「普通ならば虚偽の情報を織り交ぜて聞いた相手を混乱させようとするのだろうが、彼女たちだからなあ……。そもそもあれだけ大きな声で話しておきながら、誰かに聞かれているということを想定すらしていないように思うよ」


 持って回った言い方だったが、兄さまも明日以降も彼女たちによる待ち伏せや襲撃があると考えているようだ。


 ボクたちの予想通り、それからは毎朝のようにお嬢様たちによる突撃が行われるようになる。

 が、くると分かっているのであれば対策も取るのも簡単で、ローガーたちトリオやライレンティアちゃんとジーナちゃん、ついでにジャグ公子まで巻き込んで大人数で一緒に登校することにしたのだった。


 そして今朝もまた、接触どころか碌に近づくことすらできなかったお嬢様の「きいいいいいい!」と甲高い叫び声が朝の路地にこだまする。


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[一言] ついでに公子・・・・・・?
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