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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません

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712 リュカリュカちゃんの学園生活 その1

 編入初日から色々あった学園生活だけど、目立って人目を集めるというこちらの目的を達成するためには有利に働くことになる。

 なにせ『十一臣』の一人で国境警備の最前線であるジェミニ領を治めるジェミニ侯爵の養女――予定――で、編入前から大公公子とも顔見知りの間柄だ。

 加えて現大公の直臣である宰相、侍従長、近衛騎士団長という三役の子息たちとも仲良くなったとあれば、学園生だけでなくその親世代の貴族たちからも注目を集めることは自然の摂理並みに当然の結果だった。


 そんなリュカリュカちゃんの名声をさらに高めることとなるのが、学園の成績でございます。


「できました」

「せ、正解だ……」


 『算術』の担当教官から垂れ流しになっている悔しそうというか憎らしそうというか、ビックリで驚きの衝撃というか、まあ、ともかく色々混ぜこぜになった感情から察するに、前に出て解くように指示された問題は、ちょっとどころではなく難しい代物だったようだ。


 もっとも授業として行っている内容自体が、リアルでの小学校高学年相当だったので難しいと言ってもせいぜいが中学校の最初期で習う程度のものとなる。

 出題者との感性と合わなければ難易度が跳ね上がってしまう『文学』や、『OAW(こちら)』の世界独自の『歴史』とは異なり、算術はリアルの算数・数学と基本的には同じだからね。

 現役じょしこーせーのボクにかかれば楽勝だったという訳。


「こ、このくらいの問題が解けたからと言って頭に乗らないことですわね!」


 自分の席へと戻る途中で、まなじりを吊り上げた制服風魔改造ドレスのお嬢様から絡まれてしまう。


「あ、はい。ご忠告ありがとうございます」


 一方で、先の事情があるからボクとしては解けて当たり前で威張れる余地などまったくなかったのだが、


「くううぅぅぅ!平民の分際で生意気ですわ!不愉快ですの!」

「あっ!?テニーレ様、お待ちになってください!」


 高位貴族の生粋のお嬢様からすれば生意気に映ってしまったみたい。プンスコと怒りながら取り巻きの令嬢たちとともに教室から出て行ってしまったのだった。

 まだ授業中なのだけれど、大丈夫なのだろうか?卒業条件こそギリギリで取得しているらしいのだが、ボクたちが所属している二年次の学園生の中では最下位に近い成績だという噂だった。


 おバカに公子妃や大公妃が務まるはずはなく、学園の成績が悪いということはそれだけで選定に悪影響を及ぼすはずなのだけれどねえ。

 彼女と彼女の支持母体であるタカ派貴族たちはそれすらも引っ繰り返すことができると考えているのかな?


 そんなことを考えている間にも時間は過ぎていき、次の授業へ。


「……このように、攻撃の主力となる各属性の魔法や〔回復魔法〕の影に隠れがちですが、普段の生活とは違い様々な面で不自由を強いられることになる旅路において〔生活魔法〕は前述の魔法と同等かそれ以上の価値があると言えるでしょう」

「はい。実体験に基づく大変分かりやすい説明でしたよ。皆さんも先入観だけに囚われることなく、習得する魔法を吟味するようにしてください」


 ボクの発表に『魔法学』の教官が笑顔でそう付け加えていた。でも、相手は思春期真っ盛りの年代だ。ある程度は見た目重視の判断になってしまっても仕方がないだろう。


「ふうむ……。確かにあれば便利なようだが、〔生活魔法(これ)〕は我らよりも従者に持たすべきものであるように思えるな」


 それにミニスの意見ももっともだからね。貴族だけではなく上に立つ者にとって、人を使う才能……、これだとちょっと言い方がアレなので、人を采配する才能とでも言い換えますか。それは必須のものとなる。

 また、場合によってはその過程で雇用を生み出すことだってできる。

 要するに、組織ともなれば何でもかんでも自分一人でやればいいというものでもない、ということだわね。


「そういえば、父上が遠方に視察に出る際には必ず随行する者がいたな。今から思えばあれが〔生活魔法〕の使い手だったのかもしれない」

「我が家の場合は、お父様が家にいない時に限って侍女たちの仕事が遅れ気味になることがありましたわ。もしかすると〔生活魔法〕を使用できるものがいなくなったために手間取ることがあったのかもしれませんわ」


 ミニスの言葉を皮切りに、思い当たる節があったのかあちらこちらで声が上がっていく。

 本筋からは外れるけれど、これもまた魔法に対する見識を深めることになると思ったのか、教官がそれを止めることはなく、その日の魔法学の授業は身近で使用されている魔法についての話し合いに終始することになったのだった。


 一時間半の授業が二つ終わったところで、ようやくお昼ご飯です。

 ジェミニ侯爵邸で作ってくれたお弁当をもって、学園の敷地内をあちこち散策するのがマイブーム。歴史のある施設ということもあって、探してみると色々と見所があるのだ。


 ボッチ飯?

 ええ。その通りですとも。お昼ご飯くらい静かに過ごしたいので。


 兄さまと一緒だと、もれなくジーナちゃんが一緒になってしまう。そのこと自体はまあ、あの時兄さまをけしかけたこともあるし許容範囲なのだけれど、あいつら突然イチャつき始めるのですよ。

 しかも自覚なしだから注意したところでヌカニクギーで暖簾に腕押し状態という……。 


 クラスメイトたちとは授業の合間の空き時間に雑談に興じるくらいには仲良くなったのだけれど、一緒にご飯を食べるまでの間柄かと言われるとそうでもなく。

 平民出身のいわゆる特待生的な子たちからしても、貴族の子息御令嬢たちからしても、大貴族の養女予定のボクをどう扱うべきか決めかねているみたいだ。


 ボクの方も下手に親しくなってしがらみになってしまっては今後の行動に差し障るかもしれない、などと考えてしまうと積極的に友だち作りをする気にはなれなかった。


 ジャグ公子と一緒?

 却下ですね。


 あの非公式の謁見でボクにやり込められたことを未だに根に持っているようだし、公子と一緒に居るとテニーレ嬢が襲来してくるかもしれない。

 ライレンティアちゃんならばまだしも、彼女と仲良くしている未来なんてまったく想像できないもの。


 かといって、ミニスたちと一緒に居るのも、それはそれでまだ見ぬ御令嬢たちからのヘイトを集めてしまいそうで怖い。


 結局、ボッチで過ごすのが一番平和ということになってしまうのだよねえ。


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