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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません

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708 悪役令嬢はどこですか?

「失礼いたしますわ!」


 バタン!と淑女らしからぬ大きな音を立てて扉を開けたのは、四人の少女たちだった。

 どの子も制服を無理矢理ドレスに魔改造したというか、むしろドレスにほんの心持ち程度だけ制服要素を付け加えたというか、とにかく良く言えばオリジナリティあふれる、悪く言えば学園という場にそぐわず浮きまくりな格好をしている。

 男ども同様に顔面偏差値が高いからか、単品で見ればそこそこ似合っているのが救いかな。


 こういう無茶なことをして、なおかつそれが通ってしまうということは、高位貴族の御令嬢とその取り巻きたちといったところだろうか。

 学園内では身分差は問わない、というありがちな理念が掲げられているけれど、当然のように有名無実化しているからね。


「なんだ、貴様たち。ここは生徒会室だ。誰であろうと無断で立ち入ることは許されんぞ」


 えー……、ジャグ公子の言葉でご理解いただけたように、今ボクがいるこの部屋、実は生徒会室だったりします。


 そして何となく察している人もいるだろうけれど、公子を始めとしたこの部屋にいた男性陣は皆、生徒会役員ということになっていたりしますです、はい。

 大公家に『十一臣』、その他高位貴族の子弟の順に自動的に役員となるシステムなので、当然と言えば当然のメンバーではある。

 まあ、最悪教官たちのフォローという名の尻拭いがあるし、国や領地を運営する練習台としては都合のいい環境だろうからね。


 ちなみに、現在所用で教官室に出向いているトウィン兄さまが生徒会長で、ジャグ公子が副会長でミニスが会計、スチュアートが書記のローガーが庶務となっている。

 公子ではなく兄さまが会長なのは年齢順のためです。


 そしてなぜボクがそんな場所に居たのかというと、午後の授業が終わるや否や兄さまがやって来て、「疲れただろう。迎えが来るまで静かな場所で休んでいるといい」と言って、有無を言わさずに連行されてしまったからだった。

 苦労性だったはずの兄さまがどんどん天然ボケキャラに変化していて辛いです……。


「まあ!貴様だなどとそんな他人行儀な呼び方をされなくても構いませんのよ。なぜならこのわたくしこそが未来の正妃なのですから!」


 おーほっほっほ!と高笑いに続きそうな調子で先頭の少女が言う。うん。微妙に会話が噛み合っていないね。

 そしてまことに不本意なことがら、彼女はどうやらボクと同じく公子妃候補の一人であるようだ。


「そういうことを言っているのではない。なぜ誰も許可を出していないのに、勝手にこの部屋へと入ってきたのかと問うているのだ!」


 反省の色どころか明後日の方向の答えを返されたことで、今度は苛立ちを隠すことなく問い詰める。

 バカ公子の割にまともな反応だ、と驚かれているかもしれないが、これは単に彼をヨイショしている太鼓持ち連中が身分の差によって厳しい階級制となっているからというだけの話だ。


「あら、私は『十一臣』が一、スコルピオスの娘でしてよ。そのような些事(さじ)に縛られるような身の上ではありませんわ」


 ええー!?

 ちょっ、この子とんでもないことを言い出しちゃいましたよ!?


 生徒会室に第三者の立ち入りを禁じている理由は単純明快で、学生に知られると不味い書類なども保管されているためだ。

 これはある種暗黙の了解となっており、役員以外の高位貴族の子弟たちが率先して守ることで、おかしな疑いをかけられたりしないよう近付かない、という一般学生たちの規範を形成することに役立っていた。


 それを全て否定してしまったのだから、公子をはじめ男性陣が呆気に取られてしまうのも無理はないだろう。

 あ、彼女の後ろに居る三人の少女たちも白目をむいて硬直しているから、先の一言はあの子たちにとっても予想外なものだったようだ。


 まあ、『十一臣』の娘だから、とか何の根拠にもなっていないものねえ。大公家の公子ですら守っていることを考えると、反逆の意思ありと捉えられても仕方がない言い草だ。


「それに何より!その女が居座っているのですから、私にも当然この部屋に居る権利がございますわ!」

「え?ボ、私でしょうか……?」


 うおっと、危ない。いきなり近付いてきたかと思えば、手に持っていた短い棒状の物体――多分扇子(せんす)を畳んだものだと思われます――をビシィ!と効果音が付きそうな勢いで突き付けられたため、あやうく素が出てしまうところだったよ。


「私、知っていますのよ。お前、ジェミニ侯爵の仮養子となったようですけれど、元は薄汚い冒険者だったそうですわね!」


 カバーストーリーの方は隠していないどころか、ジェミニ侯爵とご婦人が喧伝して回っているので首都界隈にはそれなりに知れ渡り始めていた。

 よって、目の前の少女が知っているのもおかしな話ではない。というか、クラスメイトになった人たちも皆知っていたくらいだ。


「しかも!どのような手を使ったのかは知りませんが、公子妃候補にまで成り上がろうとするだなんて!」


 いや、そこは知らんのかーい!

 自信満々な様子だったので、てっきり裏事情(ホントのこと)に関連する内容も知られてしまっているのかと、身構えてしまったじゃないのさ!


「平民風情がやっていけるほど貴族社会は甘くなくてよ。痛い目にあいたくなければ身のほどをわきまえて元の薄汚れた生活にお戻りなさいな」


 バサッと音を立てて扇子を開き、それで口元を隠しながら――恐らくは蔑んだ嘲笑が浮かんでいるのだろう――ボクを物理的に見下してくる彼女。

 ボクは座ったままで彼女は立っているのだから、当然の構図となります。


 それはともかく、つまりは典型的な血統主義、階級主義のお嬢様ということのようだわね。まあ、長く続く大国の貴族の娘ともなれば当然の価値観ということになってしまうのかな。

 平民に冒険者を見下すような態度は、周囲にそう言ったことを吹き込む人間がいるのかもしれない。その元凶を排除しなければ彼女たちの意識を変えることはできない気がする。


 しかし、一番の難題は彼女の瞳に嫉妬の色が全くなかったことだろうか。公子妃候補を題目にしてやって来たにもかかわらず、だ。

 他の怒りや憎しみや蔑みといった負の感情は透けて見えていたのだけれど、それだけは一欠片も感じ取れなかった。


 えっと……。ジャグ公子、実はあんまりモテてない?


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