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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません

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705 侯爵令嬢カッコカリ

 ほわんほわんほわんほわんほわわーん。

 回想終わり。


 と、こんなことがありまして。

 え?結局あの近衛騎士団長に扮していたのは誰だったのか?ベタベタ過ぎてボクとしては言わせんな恥ずかしい、という気分になってしまうのだけれど、まあ、答え合わせということで発表しておきましょうか。


 実は!な、なんと近衛騎士団長のふりをしていたのは、『水卿公国アキューエリオス』の国主である大公殿下その人だったのだ!

 ノリのいい人たちの「な、なんだってー!?」という声が聞こえてきたような気がしたところで話を進めようか。

 と言っても今説明したことが全てで、それ以上でもそれ以下でもなかったりするのだけれどね。


 理由の方もいたって簡単で、いくらジェミニ侯爵という重臣の後押しがあるとはいえ、どこの馬の骨かも分からない一介の冒険者風情にその身を晒すのは危険だという判断によるものだった。

 それならそもそもこんな謁見をしなければ良かったのでは?と疑問に思った人も多いことでしょう。

 しかしもろもろの事情から表沙汰にはできないものの、ストレイキャッツの件でボクはある意味救国の立役者という扱いとなっていたので、会わないという選択肢はなかったのだそうだ。


 余談だけど、大公役をやっていたのは侍従長、つまりはお城の内向きの仕事を統括する立場の人だった。当然本物の大公様との付き合いも長く、侯爵やジャグ公子もすっかり騙されてしまったという訳。


 そしてもう一人、本物の近衛騎士団長なのだけれど、実は彼の人はサジタリウス家の人間、つまりはタカ派の一門の出自だった。

 彼自身は現当主や一族縁者とことごとく折り合いが悪く、ほとんど家で同然で首都へとやって来ている。近衛騎士団長の地位も自力で射止めたというのだから、その実力のほどがずば抜けていることがよく分かるわね。


 そんな人物だから大公様たちからの信頼も厚いのだが、血縁を媒介(ばいかい)にして本人に気が付かれないように暗示に掛ける、といった禁呪的なものを警戒して自らこの極秘の謁見の場に立ち会うことを辞退していたらしい。


 このエピソードだけでも忠臣っぷりがうかがえるというものだわね。

 ただし、「警備的にそれでいいのだろうか?」という不安も覚えてしまうのだけれど。


「リュカリュカ?いきなり立ち止まってしまったが、どこか調子が悪かったりするのかい?」


 ふいに聞こえてきた声によって、回想並びに思考の海へと潜っていた意識が現在へと浮上してくる。


「え?ああ、トウィンさ、……兄さま。何でもないのです。ただ、我が身のことながらこの数日の間に起きたことに戸惑ってしまっていて……」


 タマちゃんズ完全武装(ネコかぶり)した令嬢モードで応える。

 普段のボク、とりわけ『OAW』での立ち居振る舞いを知っている人が見ればギョッ!?とすること間違いなしだろうね。

 ボクとしてはリアルでの態度を少しばかり大袈裟にしたようなものなので、お淑やかモードは別に苦ではなかったりするのだけれど。


「ははは。それはそうだろう。私ですら急に妹ができたことに未だ困惑しているのだからね」


 聞く者の不安を消し去るような爽やかな笑顔で言う、兄さまことトウィン・ジェミニ様。

 詳しい事情を知らないからこそ、という面はあるのだろうが、顔を合わせてからどれほどもしない内に喧嘩を吹っ掛けてきたどこぞの公子とはえらい違いだよね。


 名前でお分かりの通り、彼はジェミニ侯爵の一人息子だ。どうして辺境に領地を持つ貴族の子息が首都に居るのかというと、よほどの事情がない限り『水卿公国』では貴族の子息令嬢たちはポートル学園へと通うことが義務付けられているためだ。

 性格は温和だけどその分父親を筆頭とした周囲の人間に振り回されてしまうことが多々あるようで。まさに苦労性なお兄さんといった感じだね。


「困ったことがあったら言って欲しい。リュカリュカとは性別が違うから、何でもかんでも助けてあげることはできないかもしれないけれど」

「そのお気持ちだけでも嬉しいです」


 そして今日からはボクもその振り回す側の一人になってしまいそうなことが、なんとも申し訳なく。


 ちなみに「兄さま」、「妹」のやり取りで察した人もいるかもしれないけれど、現在のボクはジェミニ侯爵の仮養子、という扱いとなっていた。

 それというのも大公様から、


「大国の公子を相手に一歩も引くことなく勝ちをもぎ取ったその姿勢、実に見事だ。そなたのような者をこのまま野に放つのは惜しい。ぜひとも公子妃候補としてポートル学園へと通ってもらいたい」


 という要望の体をした実質的には命令を下されてしまったからだ。

 さすがに大国の国主からの命令に逆らうことはできず、編入試験を経て――詳しくは後述するけれど、ほぼほぼ満点だったらしい――こうしてゲームの世界でも学園へと通うことになってしまったのだった。


 あの謁見自体は極秘だったので、そのやり取り自体は秘密とされ表向きにはジェミニ侯爵に仕えていた殉職した家臣の娘というカバーストーリーが作られることとなった。


 父親の死後は冒険者で生計を立てるようになっていて、今回偶然にも侯爵の護衛として首都まで同行することになる。

 その時に見せた優秀さを侯爵が気に入り、ポートル学園を卒業することを条件に養子縁組の話を持ち掛けたのだとか。

 さらに編入試験で歴代まれに見る高成績を叩き出したことが大公様の耳に入り、公子妃候補の一人として名が挙げられることになったのだそうだ。


 へー。

 そのリュカリュカちゃんとかいう子はとっても賢いのだね。


 はい、分かっています。現実逃避――ゲームだけれど――してもダメだよね。

 リセットすれば違う展開になる可能性はあるけれど、タマちゃんズをテイムした時点で大公様からロックオンされてしまっている気がするのよねえ。そのため、やり直したところで大筋は変わらないまま、ということになりそうな予感がひしひしと……。


「本当に大丈夫かい?こう言っては何だけれど環境が激変しているんだ。無意識の内に無理をしているのかもしれない」


 心配という気持ちを煮詰めて濃縮したような声音に、ハッと考え込んでいたせいでうつむきがちになっていた顔を上げる。

 いけないいけない。なんとか状況に対応しようと、ついつい考えが内向きになってしまっていたよ。


〇補足

侍従長は変装のマジックアイテムと一緒に通話のマジックアイテムも使用しており、変装中の言葉は全て本物の大公から指示されたものでした。

非公式の場とはなりますが、感謝の言葉などは大公の本心からのものとなります。


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― 新着の感想 ―
[一言] >タマちゃんズをテイムした時点で大公様からロックオンされてしまっている気がする 水の大公「逃がさん、お前(達)だけは。 ぬこぬこ……もふもふ……クンカクンカ……フシューフシュー」(荒い鼻…
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