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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません

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704 若者とバカ者は響きが似ている

 ブラックドラゴンとやりあったのは、『OAW』のゲーム本編を始めて初日のことだった。ゲーム内でも百日以上、リアル換算だと八か月以上も前のこととなる。

 とはいえ、この時のことは『冒険日記』に事細かく書かれている――こんなに詳しく描写したかな?――上に、動画でも見ることができるようになっている――こちらは確実に運営の仕業だわね……――ので、内容を思い出すのは容易い。


「それでは問題。『お小遣いを百デナー貰ったジョニー君は、一個十デナーのリンゴを二つと、三個で十三デナーの飴を買おうとしています。お釣りはいくらでしょうか?』……質問があれば受け付けますが?」

「ふふふ。くっくっく。あーっはっはっはっは!これは傑作だ!ブラックドラゴンはこのような児戯(じぎ)にも等しい問題でやり込められたのか!いかに強大な力を持とうとも、頭脳の方はお粗末な出来だったとはな!」


 うわあ……。三段笑いとか、「勝ったな!」並みに負けフラグじゃないですか。

 既にジャグ公子の敗北が決定していることを知っている身としては、皮肉というより未来予知のように感じられてしまって少しばかり不気味だわね。


「それで、質問は?」

「ふん!ポートル学園で常に主席を維持し続けている俺に、そんなものは必要ない!」


 主席ねえ……。この系統の問題は『なぞかけ』とかに近いから、いわゆる勉強ができる頭の良さだけでは足りないのだけれど。

 まあ、それならそれで件の学園の質とかレベルを測るための指針くらいにはなるかな。


「そうですか。では、答えをどうぞ」

「答えは六十七デナーだ!」

「外れ――」

「いや、待て待て!さ、最後までしっかりと聞け!」


 こいつ……。外れと聞こえかけて慌てて制止してくるとか、ギリギリ反則一歩手前のやり方だ。

 ちなみに、普通であればグレーゾーンどころか完璧に真っ黒くろすけでアウトとなるのだけれど、ツッコんだところでどうせ「それが反則だといつ決めたのだ!?」とか言って駄々を言ってくるに決まっている。

 屁理屈をこねる猶予を与えてしまったこちらの落ち度ということで、今回は大人しく引き下がることにしましょうか。

 ただし、二度目はないけれどね!


「そ、そうだ!銅貨四枚(四十デナー)を払って、鉄貨七枚(七デナー)の釣りを貰ったのだ!平民は簡単に銀貨(百デナー)など持てないからな。そうに違いない!」


 その指摘は確かに間違ってはいない。市場の食材や屋台の料理など、庶民の暮らしに必要な代物は大半が数デナーから数十デナーで事足りる。

 だけど、間違ってはいないからと言って問題がない訳ではない。


 特に言い方。これでは「彼は平民を見下している」と言われても否定できなくなってしまう。例え本当に当人がそうは思っていなかったとしても、だ。

 他人の揚げ足を取って困らせることが大好きな連中の目には、さぞかし格好のおもちゃに映ることだろうね。これには大公様たちも再び渋い顔をしていた。


 まあ、そのあたりの修正やら矯正は後からしっかりやってくださいませ。

 今はただ、断罪のラッパを高らかに鳴り響かせましょうか。


「外れですね」

「……は?」


 直前まで下唇を噛んでこれぞ悔しそう、という顔をしていたこともあって、先ほどとは違いジャグ公子は反応が遅れてしまった。


「だから、ハ・ズ・レ、ですよ。残念でしたねー」


 久しぶりにイラッ☆とくる口調を使ってみたのだけれど、大公様たちまで頬を引きつらせていたところを見ると、聞いた人を苛立たせる度合いに衰えはなかったもよう。


「飴をもう二個足すので合計二十デナーにまけてもらって、全部で銅貨四枚(四十デナー)を支払ってお釣りはなし、が正解でしたー。いやあ、惜しかったですねえ。銅貨で支払うと思いついたところまでは良かったんですけど、あと一歩の詰めが足りなかったかな」

「な、な、な……。そんな後出しの無茶苦茶な問題があるか!」

「ありますよ。だってボクはブラックドラゴンとやりあった時に、絶対に負けないように条件を整えていたんですから。そして……、その条件が気に入ったといったのは公子殿下ご自身だったはずですよね」

「そんな騙し討ちも同然のやり方だと知っていれば拒否していた!」

「勝負の世界にたら(・・)れば(・・)は通用しませんよ」


 むしろ、一回でもそちらの屁理屈を聞いてあげたのだから感謝して欲しいくらいだ。


「どこかの誰かから聞かされた言葉に踊らされてボクを(さげす)むことばかり考えていましたか?それとも『ブラックドラゴンを超える知恵者』的な二つ名が手に入るかもしれないと欲に目がくらみましたか?」


 どちらも見事なまでに図星だったのか、ジャグ公子は一つ小さく呻くと押し黙ってしまう。

 最近は自主性を尊重して自由にさせる部分が増えていたようだし、過剰と思えるほどにポートル学園の名が飛び出していた。

 つまるところ、そこで付き合いが深くなった、または知り合った何者かから大きく影響を受けてしまったということみたい。


 そして、次に出てくる言葉こそ彼が次期大公に相応しいかどうかを見極めるものとなるはずだ。

 ボクの中でジャグ公子の評価は既にストップ安になるまで大暴落しているので、審査基準はとっても厳しいものとなっていた。

 生半可な答えでは不合格判定待ったなしになってしまうだろうね。


「ここまでだな。ジャグよ、そなたの負けだ。(いさぎよ)く敗北を認めるがいい」


 しかし、公子が口を開くよりも先に言葉を発した人がいた。

 一体誰が?と思えば大公様たちが座る背後で、ただ一人立っていた近衛騎士団長ではないですか。


 うん?

 近衛騎士団長?


 確かに偉い人だろうけれど、公子にあんな口の利き方をできるような立場ではないよね?

 案の定、ジャグ公子もジェミニ侯爵も目を丸くして驚いているし、宰相さんはそ知らぬ顔で、大公様はばつの悪そうな表情になっている。


 おや?この反応もなんだかおかしいような?

 態度から推測するに、大公様と宰相さんは裏を知っているのでは?

 そして公子と侯爵の二人も、先ほどの一言で何か気が付くことがあったのではないかと考えられます。


 これ、当てずっぽうでもいいから展開を予想してみせるべきなのかしら?

 それとも下手に出しゃばらず、黙って様子を見守っておくべきなのでせうか?


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