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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十二章 続『水卿エリア』での冒険

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698 ガッカリ忍者

本日二回目の更新です。ご注意ください。

「あなた、何者?」


 職業が<ニンジャ>ではないはずだよね?

 尋ねたボクに返ってきたのは、言葉ではなく小さな投擲専用ナイフだった。


「うおっとお!?」


 反撃に対する用心はしてあったので、即座に対応して龍爪剣斧でカキンと弾き落とす。

 そう言う割にはあたふたしていた?

 ……なぜバレたし。

 実は最初は避けようとしたのだけれど、背後にジェミニ侯爵たちがいたことを思い出して、万が一彼らに被害が出てはいけないと慌てて撃ち落とす方向に変更したのだった。

 それはともかく、


「君にはガッカリだよ……」


 棒でも四方でも六方でも良かったので、せめてそこは手裏剣にしておいて欲しかった。単なるコスプレ疑惑が一気に増大ですよ。

 落胆した気持ちそのままに盛大なため息を吐くと、忍者カッコカリの鋭い視線に剣呑さが混ざり始める。


「リュカリュカ!相手の手口も分からないのに、挑発するような真似は控えてください!」


 いやいや、全然まったくもってそんなつもりはなかったのですが。

 しかしネイトに叱られて改めて思い返してみると、はたから見ればそんな風にしか見えないかも……。


「挑発して冷静さを失わせる作戦なのかと思っていましたわ……」


 ミルファのポジティブな素直さがちょっぴり心に痛い今日この頃です。彼女の言うような作戦や策略は古来よりよくあるもので、展開が分かりやすいこともあって演義などの史実を元にした作品でも登場頻度が高い。

 が、これには対戦相手の性格といった情報がある程度入手できていることが最低限の前提となるのよね。


 それというのも、単に怒らせればいいというものではないからだ。ほら、「怒りを力に変える」なんてこれまた物語では、特にバトル物の少年漫画ではよくある流れでしょう。

 だから周りが見えなくなって単調な動きしかできなくなるほどに、極限まで頭に血を登らせなければ意味がないのです。


 そうなると当然、相手が何に対して怒りを覚えるのか?とか、沸点が低くなってしまう項目は何か?を知っておかなくてはいけない。

 「ばーか、バーカ、あほー」な悪口くらいでプッツンキレてしまうのは、リアル現代ニポンだとほんの小さな子どもか思春期で多感な青少年、後はゆとり世代とすっかり頭が固くなったご年配の方々のくらいなものだ。


 ……あれ?

 結構多くない?


 ……コホン。

 現代社会の闇はともかくとして、効果的に怒らせなければ挑発も意味はないのです。これまでさんざん多くの人たちを挑発してきただろう、という意見は知りません。

 過去は振り返らない主義なのさ……。


 さて、逃避気味になっている現実――ゲームだけれど――にそろそろ目を向け直そうか。ボクのガッカリ発言によって忍者カッコカリは怒りをあらわにしている訳だけれど、残念ながら周囲の景色が目に入らなくなっているほどキレてはない。

 対してこちらはミルファとネイトが追い付いてきており、数の上では圧倒的に有利となっている。


「……パッと見だと悩まなきゃいけないほど悪い状況じゃないように思えるのが怖いね」


 ところがどっこい、ニンジャではなくても暗殺者(アサシン)系の職業であれば一撃で敵を(ほふ)るような技能を持っているかもしれない。

 可能性だけで言えばこちらの方が一瞬でゲームオーバーになる、などという展開だって決してゼロではないのだ。


「さすがに罠までは準備する余裕はなかった、と思いたい」


 ただでさえ五十センチほどの背丈の草が生い茂っていて、足元がはっきりしないのだ。声高に言うようなことではないと分かっているが、こっそりと罠が仕掛けられていたとしても発見できる自信は全くなかったりするのよね。


「いっそのこと、あちらから近付いて来てはくれませんかしら?」

「遠距離では不利だと思わせられれば、それも不可能ではないでしょうけれど」

「それなら三人で一斉に魔法を使ってみる?少しは慌てさせることができるかもしれないよ」

「どうでしょうか?昨日からの戦いをどこからか観察されていたかもしれませんし、驚かせるのは難しいのでは?」


 小声で作戦会議を開催するも、都合良く名案などが浮かんでくるはずもなく。

 結局、こちらへと向かう以外は回避できないように魔法を放ち、接近戦に持ち込むという流れとなった。


 即死系の技能については一旦置いておく方針です。喉元などの急所を武器でグッサリとかザックリというのが一番ありがちだろうが、先ほどの投げナイフのこともある。

 遠距離から毒が塗られたアイテムを投げつけられるということも考えられるし、逆に忍者カッコカリが即死系技能を取得しているとも限らない。

 このように注意するべき点が多すぎるため、いっそ敵の攻撃には絶対に当たらないことを行動の第一指針として、戦いに臨むことにしたのだった。


「【アクアニードル】!」

「【アースニードル】!」

「【ライトニードル】!」


 三つの範囲攻撃魔法が逃げ場を奪い、忍者カッコカリをこちらへと誘導する。

 ここまでは計画通りだね。まだ初手の段階だし当たり前?いえいえ、そうとも言い切れないのよ。

 ゾイさんやデュラン支部長ならニードルに強いボール系上位のスターで相殺を狙ってきただろうし、サイティーさんならその身体能力でもって強引に左右もしくは後方へと逃げ出していただろう。

 ディラン(おじいちゃん)に至っては回避のための接近と見せかけて既に攻撃が完了していて、この時点でボクたち三人の内の一人はダウンさせられていたはずだ。


 半ば本気で「人類を辞めているのでは?」と疑いたくなる反応をしなかった分だけ、忍者カッコカリはまだまだ普通という枠の中に居るように思う。


「ミルファ!」

「ええ!」


 回復役のネイトが攻撃を受けてはいけないので、ミルファとボクとで一歩前に出て迎え討つ。両者の間が五メートルほどになったところで、


「でええええい!」


 乙女が発するには少々野太い調子となってしまったが、気合を込めて手にしたハルバードを振るった。

 いくら長柄の武器とはいえ明らかに範囲外からのボクの行動に、ほんの一瞬だけだが忍者カッコカリの動きが鈍くなる。

 その隙を見逃すほどボクは甘くない。


「【ウィンドドリル】!」


 三人でニードル魔法を放った時からボクの得物は牙龍槌杖のままで、先ほどの意味不明に思われる動作はこのための布石だったのだ。


「ぐわあっ!」


 無理矢理体をひねって致命傷からは逃れたようだが、さしもの忍者カッコカリであっても至近距離から撃ち込まれた魔法を完全には回避することはできなかったようだ。HPのゲージがごっそりと削れていた。


18:00 にもう一話更新予定です。

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