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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十二章 続『水卿エリア』での冒険

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696 VRのゲーム事情

今回が今年最後の更新となります。

 やれやれ。大事なこととはいえジェミニ侯爵たちと長々と会話をしてしまった。しかも戦闘が差し迫っている中で、だからねえ。

 護衛隊と冒険者連合が迎撃に向かった魔物の群れなんて、とっくの昔に倒されてしまっているのではないだろうか?

 などと思っていたのだけれど、意外や意外。魔物との戦いは未だに続いていた。

 どうやらイベントの強制力的なある種の膠着状態となってしまうようで、延々と戦闘が行われる景色が続いてしまうらしい。


 後日、里っちゃんに「そういうところはやっぱりゲームだよね」と話したところ、「テレビゲーム時代から続く様式美みたいなものよ」とのことだった。

 だけど画面越しに見るドットやポリゴンの映像ならともかく、VRで同じことをやられるとシュールさが半端ないです。せめて睨み合う時間を多くとるとか、もう少し違和感が少なくするやり方があると思うの。

 忘れていなければ後で運営に要望を送ろう。


 シュールと言えば草むらに隠れ続けている、仮称襲撃者もなかなかに痛々しいわね。

 その居場所は〔警戒〕技能で常に探り続けてはいたものの、ボクたちはそれなりに会話へと意識を向けることになっていた。少なくともボクは気もそぞろな状態だった。

 このように襲い掛かるには絶好の機会であったにもかかわらず、彼の人物は行動に移ることなく息を潜めてその場に隠れ続けていたのだ。


「それも様式美……、じゃなかった。そっちはプレイヤーにゲームだって認識させるための小道具みたいなものだね」


 と教えてくれたのはもちろん従姉妹様であります。

 ログイン時間の制限に、『異次元都市メイション』という外プレイヤーと触れ合うことのできる場の提供と、『OAW』はゲームへの過度の没入を防ぐための対策をいくつも行っている。


 ほとんどゲームをしてこなかったボクですら、一度体験しただけでその臨場感に魅せられてしまい、こうして延々と続けることになっているからね。

 のめりこみ過ぎればリアルとの境界線があやふやになってしまうことも十分に考えられる。

 それほどまでに昨今のVR技術の進歩はすさまじいものがあるのだ。


 しかしその一方で、古今東西虚構と現実の区別がつかなくなってしまった人の結末は悲惨というのが常だ。科学技術の発達した現在でもそれは変わらない。

 特にVR界隈では、初期の頃からそれらが発展と普及の障害となることが予測されていた。

 そのため、没入感や臨場感を高めていく反面、ゲームを始めとした虚構の場に居ることをことあるごとに認識できるように様々な手段を講じてきたのだとか。


 今回のこともリアルではまずあり得ないような行動を取らせることで、ゲームなのだと再認識するように仕向ける意図があったようだ。

 もっとも、イベントを盛り上げるためという側面もあったのだろうけれどね。


 さてさて。メタな考察はこのくらいにして物語に戻るとしましょうか。


「戦うとなると、一番必要なのは情報だよね」


 戦いというものは、いわゆる相手の土俵に上がることなく、逆に苦手な分野へと引きずり込むことが肝要となる。そのためには当然あちらの得意なことや不得手なことを知ることが重要だ。

 どんな相手にでも拳一つや剣一本で立ち向かう、ロマン溢れるチャレンジャー気質という名の脳筋気味な人も多いけれどね。


 それはさておき、ボクは石橋を叩いて渡る慎重派――そこの人、どうして不思議そうな顔で「え?」とか言っているのかな?――なので戦う相手の情報は予め知っておきたい。

 そんな訳で〔鑑定〕技能を使用してみる。


『名称不明。二十八レベル。所属不明。追加情報なし。状態異常なし』


「うーん……。魔法寄りなのか物理タイプなのか、欲を言えば接近戦が得意なのかそれとも遠距離攻撃が中心なのかくらいは知りたかったなあ……。まあ、レベルが分かっただけでも御の字なんだろうけどさ」


 現在のボクのレベルは二十三だから、格上ではあるものの絶対に勝てないまでの差ではないと思う。とはいえ、戦闘に参加できるのはボクに加えてミルファとネイトの三人だけだ。

 実は〔共闘〕を使用した影響でしばらくの間うちの子たちを呼び出すことができなくなっていたのです。

 なので、今『ファーム』から外に出てきているのは、馬が暴れないように落ち着かせて回っている座敷童ちゃんと、我関せずといった態度で馬車の屋根のごろりと横になっている翡翠ひよこだけだったりする。


「数で圧倒できないのは面倒だね」

「どこぞの悪役のようなことを言わないで下さいな」

「人間大の相手であれば武器を突き合わせる範囲はそれほど広くはありません。大型の魔物ほど数は有利にはなりませんよ」


 ミルファが形の良い眉をゆがませながら抗議の言葉を口にすると、ネイトが苦笑しながらその後に続いた。


 この辺りは正方形のマスで区切られたシミュレーションゲームをイメージしてもらえると理解がしやすいかもしれない。

 一マス大の通常サイズのユニットには、周囲四マスでしか隣接できない。対して縦横ニマスずつの大型ユニットであれば隣接できるのは八マスにもなる、といった具合だね。

 まあ、大型のユニットはその分HPが高かったり攻撃力が半端なかったりするのだけれど。

 ……おっと、これは完全に蛇足な余談だったわ。


「次は攻め方なんだけど、正面から一気に接近するのが妥当かな」


 やっぱり脳筋じゃないか!と思ったそこのあなた。

 待って!ちょっと待ってください。これには深い理由というものが存在するのだ。


 そもそもですね、敵の狙いには侯爵様の暗殺とか彼に危害を加えるというものが含まれていると考えられるのだ。


 いくら回り込んで不意を突くためとはいえ、一番の護衛対象者を無防備にさらすことはできない。

 よって必然的に最短距離となる正面からの突撃が、敵の意識を引き付けるという意味でも最善ということになるのです。


「ですが、魔法や矢などによるあちらからの攻撃への対処は考えているのですか?」

「そこはこう、気合と根性で何とかして……」

「…………」

「…………」

「為せば成る!案ずるより産むがやすし!ということで突撃(とっつげーき)!!」

「あっ!こら、待ちなさい!」


 ネイトの声を背中に受けながら、ボクは龍爪剣斧を片手に草むらの中へと足を踏み入れていった。

 さらにその後方で、


「ここにきて命運を天に(ゆだ)ねるか……。英雄と偉人の弟子というのも、あながち的外れではなさそうだな」


 なぜだかジェミニ侯爵が感心していたのだった。


拙い作品をこれまで読んでいただきありがとうございます。


あ、打ち切りの話とかではないのでご安心を。

とはいえ、今年は更新頻度が低下してしまいましたからねえ。元に戻したい気持ちはあるのですが、いい加減『アイなき世界』の方も何とかしなくちゃいけませんし……。



と、暗い話はここまでにしまして。

明日からのお正月三が日は、毎日複数回更新する予定にしています。


元日は、0:00と6:00と18:00の三回で、

二日と三日は6:00と18:00の二回となります。


ちょっとした息抜きの時間、お節料理の食休めの際にでも読んでいただければ嬉しいです。

それでは来年も本作をよろしくお願いします。

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