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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十二章 続『水卿エリア』での冒険

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694 身の内に潜むは獣か修羅か

 物語上では盛り上がるけれど、増援というものはしっかりとタイミングを見計らわなければその効果を十分に発揮させることはできない。

 いわゆる「戦力の逐次(ちくじ)追加は下策」となるからだ。


 個人的には、互角の戦いをしている時やギリギリで勝利したと思った次の瞬間に登場して、戦意そのものをへし折るといったやり方が効果的ではないかと考えます。

 逆に相手の士気が高かったり優勢だったりする時には、大きく数で上回るだとか、登場と同時に奇襲を成功させるだとかいった追加要素が必要だろうね。

 それらが用意できなければ単なるおかわり(・・・・)にしかならないのだ。


 突然何の話かと戸惑った人もいるかもしれない。要するに、今まさにそのおかわり(・・・・)が発生しているのです。


 いつの間にか余裕をなくしてささくれ立っていた心を落ち着かせて、ジェミニ侯爵たちの元へと捕虜にした三人組を連行した頃には、魔物との戦いはこちらの勝利でほぼ決定していた。

 数名の軽傷者が出ただけ、それもうちの子たちにいいところを見せようとした冒険者たちが張り切り過ぎて空回りした結果だったというのだから、聞かされたボクたちとしては苦笑するしかないです。


 そんな小さな失敗アクシデントはあったけれど、二日目終盤の魔物の襲撃は終わってみればこちらの圧勝と言っても差し支えのないものとなっていた。


 そんな折に再び魔物の群れが現れた。

 せめてもう少し早く戦いの流れが決まる前か、もしくは時間を空けてこちらの戦闘態勢が解かれた後でならば、もう少し効果もあったのだろうけれどねえ……。


「うおー!さっきの失態を挽回するチャンスだあ!」

「あのバカ、失態を増やすつもりかよ……」

「まさに恥の上塗りだわ」

「でも、あいつばかりに活躍させるというのも癪に障る」

「タマちゃんズを一番愛でるのはこの俺だ!」

「抜け駆けはさせないわよ!」


 このように人によって多少の差はあれど、冒険者たちは皆意気軒高というかぶっちゃけ殺る気に満ちていたためだ。


「目前の魔物を排除した直後でしたからね。未だその凶暴性が表出したままになっていたということでしょう」


 と、ネイトが私見を述べてくれる。全てという訳ではないが、冒険者に社会のはみ出し者が多いこともまた事実だ。

 ただし彼らのように高等級の熟練ベテラン冒険者ともなると、自身の凶暴性や攻撃性と上手く付き合っていて、平時の街中ともなればいわゆる一般人の方がよほど喧嘩っ早かったり沸点が低かったりするのだけれど。


 そんな彼らであっても、一度解放した凶暴性を落ち着かせることは容易ではないらしい。

 おふざけじみた会話――まあ、タマちゃんズ関連の台詞は間違いなく本気だったと思われるが――の陰には、まだまだ暴れまわることができることへの狂喜が見え隠れしていた。


「雇われの冒険者たちに後れを取ったとあれば騎士の名折れだ。全員、すぐさま目の前に居る敵を打倒し、新たな魔物の迎撃に向かえ!」

「あらあら。護衛隊の方々にまでスイッチが入ってしまいましたわね」

「こうなるともう、どちらがより早くどれだけ多くの魔物を狩ることができるのか?な競争になりそう……」


 というか同行している武官の人たちは騎士の任官もなされていたのか。道理で強いはずだわ。


「本当にその通りになりそうですわよ」


 ミルファが言い終わるかどうかというタイミングで、それまで微妙に攻めきれずにいた魔物たちが次々と屠られていく。

 後から聞いた話だが、護衛隊の人たちはボクたちが実行者をあぶり出そうとしていると聞いた時点で、敵側に増援があるのではないかと予想していたらしい。そのため集中や戦闘モードが途切れてしまわないように、わざと一部の魔物を倒さずに様子を見ていたのだとか。


 だけど副隊長さんが苦笑していたり、一部の隊員さんが明後日の方向を見続けていたりと、どうにも怪しい態度だったのでそれだけが理由ではなかったのだろう。

 多分、ボクの予測がどこまで当たるのか、もっとはっきりと言えばボクたちがどの程度有用で重要な存在なのかを見極めようとしていた、というところだろうと思う。

 問い詰めても答えてくれるとは思えないので、真相は不明ですがね。


「ちっ!護衛隊のやつらめ、やっぱり手を抜いていやがったか」

「手を抜くとは随分な言われようだな。我々はただ敵の出方を探っていただけだが」

「言ってろ。だがタマちゃんズとの触れ合いのため、今回は俺たちが一番の戦功を上げさせてもらう!」

「リュカリュカなる少女がテイムしたというストレイキャッツのことか。冒険者協会では大人気だという話だったか。……ふむ。これは本気を出す必要がありそうだな」

「んなっ!?」

「このおバカ!競争相手を増やしてどうするのよ!」


 ……知らない間にタマちゃんズのファンが増えているような?


「ストレイキャッツの愛らしさについては、私が布教しておいた」

「まさかの侯爵様の仕業だった!?」

「せっかく対処法が分かっても、出会った瞬間に恐れをなして逃げ出していては話にならんのでな。どうやって恐怖心を克服させるべきか頭を悩ませていたのだが、ちょうどそんな折に冒険者協会でのことを小耳に挟んで利用させてもらったよ」

「しかも意外と真っ当な理由だった!?これじゃあ異議も申し立て難い!」


 大人のズルさと(したた)かさを同時に垣間見た気分だわ。

 そんなやり取りをしている間に、執事さんに侍女の二人、さらには文官たちまで馬車から降りて集まって来ていた。


「……武官の方たちのアレはわざとだったんですね」

「なに、どうせ危険に身をさらすのであれば、面倒な連中は一掃しておきたいと思ったまでのことだ」

「その分難易度は上がっちゃうんですけど?」

「リュカリュカ君たちの働きを大いに期待しているぞ」


 こっちに丸投げですか!?

 いや、本当に危ないと判断すれば武官たちがあっという間に引き返して来て、本来の任務に就くことになるのだろうけれどさ。


 小さくため息を吐きながら、魔物との戦い――蹂躙(じゅうりん)と言った方が適切かもしれない。数は向こうの方が断然多いはずなのに……――が起きているのとは真逆の方へと向き直る。

 一見何でもない草原が広がっているだけだったが、〔警戒〕技能を用いれば隠れ潜んでいる者がいることは明白だ。

 さて、知恵者ぶって何重にも策を巡らせたその顔を拝見するとしましょうか。


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